ブラジル特報2017年3月号

『猥褻な D 夫人』 (イルダ・イルスト著、四方田犬彦訳)

猥褻なD夫人 (エートル叢書 第24巻)精神を病むことになるコーヒー農園主 の一人娘として生まれ、富・知性・美 貌の三拍子が揃っていたイルダ (1930 ~ 2004) はサンパウロ大学法学部を卒 業するが法曹界にはいかず、奔放な男 性遍歴を経て、カトリック的価値体系 に抗った詩や小説を発表していく。何 とも難解にしてエロティックな異端文 学は高踏的であるが、“毒のある魅力” もたっぷり。その魅力にハマった訳者 による「イルダ・イルスト覚書」は熟 読に値する。

現代思潮新社 2017 年 2 月 202 頁
2,000 円 +税

『コロンブスの不平等交換』 (山本紀夫著)

コロンブスの不平等交換 作物・奴隷・疫病の世界史 (角川選書)

農学と人類学の二つの博士号を持つ著 者が長年にわたる現地調査に基づく知 見を平易な文体で語る歴史啓蒙書だ。 ヨーロッパによるアメリカ大陸「発見」 がもたらした交換の功罪を、トウモロ コシ、ジャガイモ、サトウキビ&奴隷制、 疫病といった具体例に沿って明らかに している。栽培や貯蔵について先住民 が開発したノウハウを文理両面の視点 から静かに再評価する著者の姿勢は感 動的ですらある。ブラジル関係者にも 必読書だ。

角川選書 2017 年 1 月 246 頁
1,700 円+税

 

『ブラジル民主主義の挑戦』 (佐藤祐子著)

ブラジル民主主義の挑戦――参加型制度の実践と社会変容 (ブックレット《アジアを学ぼう》別巻)カルドーゾ政権が始めた「社会自由主 義」的社会政策が PT( 労働者党 ) のルー ラ政権によってさらに“深耕”され、 並行して、市民参加型の政治制度が試 行・確立されてきた。こうした国家レ ベル・地方レベルの参加型制度の事例 研究を通じて、現代ブラジル民主主義 をポジティブに分析した若き政治学徒 は、メガ汚職の発覚と大規模抗議行動 の広汎化という新しい現実を前に、こ の参加型制度の監査機能が限定的だっ た、と考えることとなる。

風響社 2016 年 10 月 64 頁
800 円+税

『大地を受け継ぐ』(A・ライト、W・ ウォルフォード著、山本正三訳)

大地を受け継ぐ2003 年刊行の原著のタイトルは新約 聖書マタイ伝から採られているが、サ ブタイトルは「土地なし農民運動と新 しいブラジルをめざす苦闘」。MST( 土 地なし農民運動 ) を熱烈に支援する歴 史学者(カリフォルニア大学名誉教授) が、ブラジルにおける大土地所有制と 農地改革、農民運動の歴史を、リオグ ランデ・ド・スール州、ペルナンブー コ州、アマゾン地方での事例研究を通 じて批判的に叙述している。

二宮書店 2016 年 4 月 416 頁
4,800 円+税

『赤いレトロな焙煎機』(玉川裕子著)

赤いレトロな焙煎機: 遥かなる南米大陸をめざして現在コーヒー教室を主宰する著者は歌 人でもある。コーヒー鑑定士資格を取 得すべくブラジル・サンパウロに渡っ た著者はコーヒー教室を通じてブラジ ル社会と交流し、ノルデスチやパンタ ナールなどにも足を運ぶ。コーヒーを 介在してブラジルを体感し、その感動 を短歌や紀行文に記録していく。「この 歌文集は、あきらかに、反私性の方向 を目指している」との跋文を寄せたの は歌人(文化功労者)の岡井隆だ。

春風社 2016 年 4 月 166 頁
1,500 円+税

 

ブラジル特報2017年1月号

『世界の豆料理』 (執筆者:長谷川律佳、池田愛美ほか)

世界の豆料理: 中東、アフリカ、米大陸、ヨーロッパ、アジアの郷土色あふれる120のレシピ フェイジョアーダやアカラジェのうまそうな写真を眺めては涎を垂らしそうになる人にお薦めの、豆料理図鑑だ。中東、アフリカ、米大陸、ヨーロッパ、アジアの郷土食あふれる120 のレシピに要領よい解説と写真が並載されており、アーブグーシュト(イラン)、カスレ(南フランス)、コズィード(ポルトガル)、ファバーダ(スペイン)、フェイジョアーダ(ブラジル)の共時的類似性を再発見しながら、豆料理の豊饒さを確認することになる。

誠文堂新光社
2016年10月 240 頁 2,800 円+税

『大統領の冒険』 (C・ミラード著、カズヨ・F 訳)

大統領の冒険 (ルーズベルト、アマゾン奥地への旅) 探検家としても有名な、米国第26 代大統領セオドア・ルーズベルト(1858-1919)が、再選に敗れ、1914 年アマゾン奥地での「謎の川」調査行に出かけて死に損なったことは、比較的知られている。本書はノンフィクション作家による、このアマゾン探検物語の再構成で、読み出すと引き込まれる面白さだ。ただ残念なことに、翻訳はイマイチ、
地名・人名の基本的なチェックすら出来ておらず、読者は誤記の連鎖に苦笑いしながら読むハメに。

エイアンドエフ
2016年4月 478 頁 2,600 円+税

『六十八歳の青春裸像』 (奥瀬純一著)

六十八歳の青春裸像 鉱山王が、なぜ七人の女房に逃げられたのか、というサブタイトルのドキュメンタリー作品だが、ブラジル北部・東北部のパラー州、ゴイアス州、バイーア州などで20 数年にわたる宝石採掘業で財をなした主人公のお話だ。七人目の女房エリカとの出会いを中心に小説タッチで書かれているが、主人公の中里貢一には実在のモデルがいる由。荒唐無稽なお話やラブストーリーが展開されていくが、大衆小説の如き読後感が残る。

メディアパル
2016 年8 月 270 頁 1,300 円+税

『海のリテラシー』 (田中きく代、阿河雄二郎、金澤周作、編著)

海のリテラシー:北大西洋海域の「海民」の世界史 複数の歴史学者による大西洋海域史論集であるが、「北大西洋海域の文化共同体」の多様性を明らかにすべく、奴隷貿易、貿易商人、黒人船長、漂流譚などの事例研究を論述している。第4 章、海運業界紙の市況展望、では19 世紀前半の中欧オーストリア帝国の貿易を明らかにしているが、主要貿易相手国第5 位がブラジル(主要品目:コーヒー、
砂糖)で、8 位の米国よりも貿易額が大きい。ちなみに1 位はイギリス、2
位トルコ。

創元社
2016 年8月 316 頁 3,400 円+税

『ブラジル日系移民の教育史』 (根川幸男著)

ブラジル日系移民の教育史 100 年以上にわたってブラジル各地で行われてきた日本語教育の実相を歴史社会学の視点から解明した超労作である。教育史をマクロで捉えてから、いくつもの事例を詳細に検討していく。初期の日系教育機関であった大正小学校、聖州義塾の実態を明らかにし、代表的教育者、小林美登利、岸本昴一、両角貫一の生涯を掘り起し、子供(生徒)
たちの視点から日系教育を見直している。出色のノンフィクション作品としても読める学術書だ。

みすず書房
2016年10 月 632 頁 13,000 円+税