執筆者:澤田吉啓(元ジェトロサンパウロ所長)

 

この寄稿のお話をいただき思わずお引き受けしたもののすぐにはテーマが思いつかず、現役時代に関わっていた貿易関係から書かせていただくことにした。

といってもマクロはこのコーナーをお読みなる方々にはあまりに常識過ぎて面白みがないかとも思われるので、少しだけ的を絞ることにしてみた。

先日テレビのバラエティ番組を見ていたら、味付けのマジックでブラジル産鶏肉と国産高級比内鶏を区別できるかどうかを芸能人複数人で当てるゲームをやっていた。いかにもまずいブラジル産鶏肉でもプロの味付けで比内鶏と区別できないところを笑いにする番組だったが、私は見ながら思わず「ブラジル産は結構うまいんだよ」とつぶやいてしまった。

事実ここまで計12年ブラジルに住んだ経験上、ブラジルの鶏肉がまずいと思ったことは一度もなかった。

ブラジル産として日本のスーパーで販売されているのは基本的に解凍された肉なのでフレッシュさが劣ることは無理もないが、それでも個人的には比内鶏と同等とは言わないまでも、かなりの水準だと思っており、ブラジル産をみかけると国産ではなく同国産を手に取ることが多い。もしブラジル産を食べず嫌いになっている方がおられたら騙されたと思って一度食べ比べてみていただきたい。

ということで、その鶏肉の日本への輸入はどうなっているのか、久しぶりにブラジル商工開発省と日本の財務省のそれぞれの貿易統計を調べてみた。

ちょっと愚痴になるが、貿易統計を調べてみた経験をお持ちの方は想像がつくと思うが、意外と骨の折れる忍耐が必要な作業だ。個人的感触ではあるが、特に日本の貿易統計は不親切で、ブラジルを調べようとしてもそもそも統計データには国名や品目名が明記されない。なので、まずそれぞれ別の表から国コードやHSコード(輸出入統計品目番号)を調べることから始めないといけない。

まずブラジルの日本向けの主要輸出品目をブラジル側統計でみると、こちらはHSコード8桁ベースで日本への輸出上位100品目が意外と簡単に出てくる。HSコードも各品目名もポルトガル語ではあるが表の中にしっかり記述があり、なんら手間はない。ちなみに、HSコードは上位6桁が世界共通となっており、一つの品目で国によってHSコードが異なることはまずないと考えてよい(あくまでHSコードの判断は各国税関なので「絶対ない」とは断定できないが)。一方、それ以上の桁は国それぞれで細目分類に使っており共通性はない。ブラジルは上述の8桁である一方、日本は国際標準の6桁に3桁を加えた9桁分類である。

前置きはこのくらいにして、さっそく貿易統計と格闘した結果を踏まえてご紹介していきたい。

この原稿を書いている段階で入手できるブラジル商工開発省の貿易統計は最新で2016年10月までだが、1-10月累計の金額ベースで第2位が冷凍鶏肉(分割したもの:HS0207.14.00)で、第39位の冷凍鶏肉(分割していないもの:HS0207.12.00)と合わせると対日輸出総額の16.5%を占めるまさに代表的輸出品目となっている。ちなみに1位は鉄鉱石だが、2015年1-12月累計では鶏肉が堂々の輸出品目第1位である。

では、この鶏肉の外国からの輸入で日本はどれくらいブラジルに依存しているのか、今度は日本の財務省の貿易統計でみてみよう。こちらは2016年1-9月が最新データだ。

残念ながら財務省統計には日本のブラジルからの個別主要輸入品目を簡単に一覧する方法はない。なので、ブラジル統計で特定したHSコードをベースに基本的にHS6桁で個別に調べることになる。

上記の2種類の鶏肉のHSコードを合計してみると、やはりブラジルからの輸入がその他の国からの輸入とは比べ物にならないくらい多いことがわかる。鶏肉の全輸入金額の実に72%をブラジル産が占めるのだ。一昔前までは輸入鶏肉のほとんどはタイからであったが、同国での鳥インフルエンザの発生を契機にブラジル産が入り始めた経緯がある。

ブラジルではいまだ鳥インフルエンザの発生はみていない。鳥インフルエンザは渡り鳥が媒介しているとも言われているが、ブラジルの養鶏の中心地はサンパウロ州以南と承知しているがさすがの渡り鳥もそこまで飛んでくることはないのだろう。

そのタイだが、日本の鶏肉輸入の24%を占めブラジルに次ぐ第2位に甘んじている。

次にブラジルの主要輸出品目として列挙されているのがとうもろこし(HS1005.90.10)である。2016年1-10月累計で全対日輸出額の11%を占めているが、この品目が輸出上位に登場するのは比較的歴史が浅い。実際貿易統計を過去にさかのぼってみると2010年では年額で全輸出金額の1%台を占めるにすぎないのだ。急激に輸出が増えたのは2012年からで、それ以降毎年10%台を占めてきている。

では日本のとうもろこし輸入に占めるブラジル産の割合はどうか。2016年1-9月累計の金額ベースで27%にのぼる。しかしながら、日本がこの産品で最も依存している国は米国で、実にとうもろこし輸入総額の72%を占め、ブラジルはその次である。

 

ブラジルの輸出品目のうち第4位にあるのがブラジル通でなくともよく知られているコーヒー(生豆:HS0901.11.10)である。

日本の同品目の輸入額に占めるブラジル産品の割合は33%であるが、それでもダントツのトップである。ちなみに第2位がコロンビアで16%を占める。両者を足してもそのシェアが半分にも満たないのは、日本がコーヒー豆を実に様々な国々から輸入するようになったことを表しており、日本の統計でみると、なんと輸入国は46カ国が列挙されている。

ブラジルを訪問されたご経験があると賛同いただけると思うのだが、ブラジル国内で飲むコーヒーは意外にうまくない。一説では、品質の良い豆は全部輸出用に回されるためとされている。それでも最近は比較的おいしいコーヒーが国内でも出回り始めている気がする。小生がお勧めするうまいコーヒーが飲めるとっておきのスポットをひとつご紹介しよう。

たわわに実をつけるコーヒーの木

たわわに実をつけるコーヒーの木

それはブラジルのコーヒーブランドとして定着しているコーヒー積出港のサントスの街中にある。サントスは日本の移民が初めてブラジルの土に足をおろしたところでもあり、その記念像があったり、かの有名なサッカーの神様ペレや最近ではバルセロナで活躍するネイマールが所属していたサントス・サッカークラブのスタジアムなど、観光スポットにことかかない。おっとこのスタジアムでは我がキング・カズもプレーしていたことを付け加えておきたい。

もったいぶってしまったが、小生がブラジルで一番おいしいコーヒーが飲めると固く信じているのは観光の一環で必ず訪れるであろう「コーヒー博物館」にあるコーヒーショップだ。ここには常時産地の異なる数種類の高級豆が販売されており、それをその場で淹れてくれる。値段は日本で買うブランド豆と変わらないくらい高いが、ブラジルにもこんなうまいコーヒーがあることに感動すること間違いない。店の責任者に一度伺ってみたことがあるが、希少な量しかとれないものをその時々で仕入れるのであの大都市サンパウロでもおそらく売っていないのではないかとのことだった。

伝統的な方法でのコーヒー豆の選別作業

伝統的な方法でのコーヒー豆の選別作業

ブラジル側統計で主要輸出品目を食品に限ってピックアップすると次に登場するのは第7位の大豆(HS1201.90.00)であるが、日本側統計で大豆に占めるブラジル産の割合は15%とさほど高くなく、米国とカナダに次ぐ第3位となっている。この品目は特に米国からの輸入が多く、全金額の68%を占めている。カナダはブラジルとほぼ同水準の額となっている。

次にブラジル側輸出品目の第11位にあるオレンジジュースをみてみたい。昔、日本に輸入されているオレンジジュースといえば米国のカリフォルニア産が常識という時代があった。ところが、当時から実際にはかなりの量のブラジル産が米国を経由して米国産として入っていたと聞いたことがある。いまや輸入オレンジジュースといえばブラジル産との地位をがっちり築いている。なにしろ、輸入金額の実に65%を占め他国を圧倒しているのだから。ちなみにその米国からはいまや全体の1.8%を輸入するにすぎない。その他の国としては、メキシコ(13%)、イスラエル(11%)からの輸入が比較的多い。みなさんが日本のコーヒーショップなどで飲まれるオレンジジュースはかなりの確率でブラジル産だと考えてよいのではないだろうか。

以上上位5品目をみてきたが、これ以上あげてもきりがないものの、日本が輸入を認めるようになって年月が比較的浅いもので、豚肉(冷凍:HS0203.29.00)がブラジルの主要輸出品目の42位にあるのは注目したい。同品目が対日輸出主要100品目として初めて顔を出すのは2014年からである。

口蹄疫撲滅のためワクチン接種を促す中西部の町の看板

口蹄疫撲滅のためワクチン接種を促す中西部の町の看板

肉と言えばブラジルは米国に次ぐ牛肉の生産国であり、中東や欧州などに広く輸出している。日本はブラジル国内に口蹄疫があるとして輸入を禁止しているが、ブラジル側は口蹄疫があるのは中西部地域のみで、輸出される牛肉は南部産であると主張しているが、島国日本の一国主義は揺るがない。

なお、それより以前に、長年にわたりブラジルが日本の輸入解禁を熱望しようやく数年前に実現して現地では大きな話題となったマンゴー(日本側HSコード0804.50.011)は残念ながらいまだ対日輸出主要100品目に登場したことがない。ブラジルの市場や朝市では本当においしいマンゴーが格安で売られており、この味なら十分日本の消費者の口に合うと確信するが、地中海ミバエの駆除方法として認められたお湯に一定時間つける燻蒸法のせいなのかあるいは解禁になったマンゴーの種類が限定されているのがネックとなっているのか、おそらく後者ではないかと小生は思っている。

なお、日本の貿易統計ではメキシコからの輸入が全体の38.1%と他国を圧倒、続いてタイが23.5%、台湾16.4%で、ブラジル産は輸入総額の1.8%を占めるにすぎない。

執筆者:澤田吉啓(元ジェトロサンパウロ所長)