執筆者:山下 日彬
ヤコン・インターナショナル

 

価値修正というオムツを取らないと、一人前にはなれないという経済学者先生がおられたが、インフレが下がってきた今こそ、価値修正を廃止する時期きたり、もし、決行できればブラジルは前途安泰と思う。

 

価値修正は、ハイパ-・インフレを抑制する秘策で、FHC大統領のレアル・プランの重要施策であったが、廃止する時期が明確でなかった。ハイパ-・インフレ時代には必須であったが、インフレが収まった今は弊害となっている。インフレ率が実質金利以下になったら廃止するとか、最大数年間とか決めておく必要があった。

11月からCiti銀がカードを含む小売業務をItau銀に売却した。銀行業界はこれまで価値修正付き利子で過保護であったのが、極右の大統領候補ボナソウロが、金利2%を提唱し話題になっている。Citi銀は、一足先に、ブラジルから退出希望かもしれない。これまで目貫き通りの空き家の多くは、銀行のプライム客受付店になったが、これからは減るだろう。

銀行業界は、価値修正廃止には必死で反対するだろうが、価値修正は本来銀行業務の収入ではない。

先進国では、インフレ率の上乗せはないので、インフレが進むと、実質金利がマイナスになるので、自動的にインフレ抑制の金融市場制御が働く。また、インフレは経営努力で吸収したり、半分吸収したりするものだが、ブラジルでは「インフレ率+金利」が自動一律に値上げされるのだから、誰もインフレ抑制に努力しなくなり、再インフレ促進策になっている。

政策金利SELICが10月25日に7.5%に下がった。ブラジルの政策金利には、計画インフレ率が上積みされている。いわゆるフィッシャー方程式で、「実質金利+計画インフレ率=名目金利」であるが、2017年の計画インフレは3.06%だから、計画実質金利は4.44%となる。一方、過去12か月(10月まで)の実数でみると、インフレはIPCA指数で2.70%だから、現在の実質金利は4.80%、IGP-DI指数だとマイナス1.07%なので、実質金利は8.57%にもなってしまう。また2017年末の予想SELICは7%だから、年末の金利計画値は3.94%ということになる。

このように、インフレ指数は、計算対象品目や期間により、大きな誤差があるので、インフレ率を引いた差を公定金利とすると、実質金利が多数出現して定まらない。

フィッシャー方程式は、「実質金利=名目金利―インフレ率」で、実質金利を事後算定値で知るだけに使うべきであろう。

インフレ指数計算は非常に誤差の多いもので、これに金利を加算して自動(強制)値上げや家賃値上げ指数にするのは多くの問題がある。

過去インフレを調整する目的であれば、インフレ率のみ修正するべきだが、自動的に利子も上乗せして値上げされることが起きる。また利子のみ計上すればよいときに、インフレ率の加算された金利が適用される不都合が起きる。

 

*中銀による景気金融市場操作が機能しない

例えば公定金利2%のとき、1%下げれば1/2(半減)、1%上げれば3/2(50%増)の金融市場操作が可能だが、インフレ5%が上乗せされて政策金利7%であると、1%下げても、6/7(14%減)、1%上げても8/7(14%増)とまったく調整効果がなくなるのである。

 

*未来インフレ先取りはインフレ2重取り

実際に買う不動産や商品、サービス料金も、元金またはベース物件の新規取引価格は、前年インフレ分が自動的に調整されている。金利は掛け率であるから、元金が値上げされていると利息は自動的に増えているわけで、したがって、単に利子率のみを計算すればよいのである。ここで未来インフレを金利に加算すると、インフレ下降期は、インフレ分を過剰に払わされることになる。

 

*カード金利が無謀な高利に

公定金利は年7.5%に下がったとえ、実際の銀行の特別小切手法の貸付金利は個人で月7.46%(注:年率ではない)、企業で月4.36%程度と高利である。

銀行の利子収入は過剰になっている。税収、カード金利が過去には年550%にもなっていたが、現在は137%程度である。ただし、これは、きちんと期日に支払った場合で、支払いが遅れると、まず残高の2%の罰金が加算され、さらに月7.46%の特別小切手法の利子が適用され、月複利となるので、1年も放置すると年285%以上になる。すなわち、これらはすべて価値修正分が利子に加算されことに端を発しており、無謀な高利になり、支払い不可能となるケースを多発させ、銀行はカード客を失い、焦げ付き債権を増やす結果になっている。

 

余談だが、2001年ごろ、カード専門会社が、銀行へカード業務を譲渡した。CredicardはItau銀に、DinersはCiti銀に、AmexpはBradesco銀の管理に変わった。銀行は特別小切手(Cheque especial)の当座で管理し、期日には、支払い代行すると、通達があり、これからは、銀行が管理してくれるのだなと、すっかり安心していた。ところが、支払い期日に、残高がないときは、高率の罰金を徴収し、さらに特別小切手法の高利、当時は月12%ぐらいだったを徴収され、超級数効果で、あっというまに、払えない債務額に増えてしまったにがい経験がある。

 

*GDPの4要素を自動価値修正

GDPは国内の給料、家賃、利子、利益の総和である事実より、このすべてをインフレ分自動価値修正を行うと、GDPも価値修正されてインフレ促進されてしまうことになる。

 

主要国際通貨が一斉に目減り

インフレの余禄として興味深いのは、主要国際通貨だ。リーマン・ショックの後、米国は猛烈な金融緩和を実施したが、ドルは数年毎に約20%程目減りしているので、年数が経過すると、ある程度相殺される。同じことが、他の国際通貨にも起きている、ユーロ通貨もPIIGS諸国経済不況で金融緩和実施し約20%の目減り、BREXITでポンド通貨も約20%の目減り、中国の人民元も金融緩和を実施したが、過剰投資危機で通貨目減りが起きており、期せずして、世界の主要国際通貨が一斉に目減りすることによる均衡化現象が起きている。円も、金融緩和で円安に誘導しても、年数が経過すると調和均衡される傾向がある。通貨価値の維持に「時間」が重要な要素になっていることは注目に値いする。