ブラジル特報2019年5月号

『<他者>としてのカニバリズム』(橋本一径編)

2017 年10 月、早稲田大学で開催された国際シンポジウム「人文学の「他者」としてのカニバリズム」の成果を一冊にまとめたもの。第一章、「食らう」芸術―<食人>の思想と近代ブラジル芸術、は都留ドゥヴォー恵美理による論稿で、1922 年の近代芸術週間を契機に開始されたモデルニズモの主導者オズワルド・デ・アンドラーデの「食人宣言」がその後のブラジル芸術全般(絵画も音楽も)に与えた影響の深さを読みぬいている。

水声社 2019 年3 月 222 頁
2,500 円+税

 

『ハポネス移民村物語』(川村湊著)

文学研究者の川村教授がブラジルやドミニカ、ペルー、ボリビア、パラグアイなどでの現地調査や文献収集を2010 年から2017 年まで足掛け8 年にわたって行ってきた成果をまとめたもの。終章で「日本語文学でありながら、ラテンアメリカ文学でもある二人の象徴的な作家、松井太郎と増山朗」を論じている。結語は「この本で私がこうとした“移民の時代”の“移民の物語”は、もはや終わったと思わざるを得ない。」というものだ。

インパクト出版会 2019 年1 月 232 頁
2,300円+税

 

『団地と移民』(安田浩一著)

「団地が歩んできた歴史は、戦後という時間そのものである。」と考える著者は、常盤台団地、神代団地の事例を取り上げ、さらに中国人住民が急増した川口市の芝園団地やパリ郊外のブランメニル団地も現地取材していく。第六章は豊田市の保見団地。1990 年代から日系ブラジル人の入居者が増え、現在住民の約半数が日系南米人だが、かつての対立・緊張関係から交流・共生の現状になってきていることを冷静な筆致で明らかにしている。

角川書店 2019 年3 月 254 頁
1,600 円+税

 

 

『ヴィータ 遺棄された者たちの生』(ジョアオ・ビール著、桑島薫・水野友美子訳)

リオグランデ・ド・スール州出身の医療人類学者J・ビール(現プリンストン大学教授)は、ポルトアレグレの精神病保護施設「ヴィータ」で1995 年から働き始め、入所者の一人でノートに言葉を書き紡ぐカタリナに注目する。彼女の人生を手掛かりにすると、ブラジルの政治や医療の諸問題がみえてくる。2005 年に刊行された英語による原著は米国の読書界で大きな話題となり、マーガレット・ミード賞など複数の賞を受賞している。

みすず書房 2019 年3 月 696 頁
5,000 円+税

『世界史を「移民」で読み解く』(玉木俊明著)
「移民」を「移動する人々」と広義に

捉えた世界史学者が、「重要なのは、「移民」が現代社会にとどまる現象ではなく、これまでの人間の歴史を通して見られた普遍的な現象だと認識することである」として世界史を骨太に読んでいく。その第9 章は、黒人とユダヤ人が起こした「砂糖革命」、で、その舞台は16 世紀から17 世紀のブラジルだ。第10 章は、アルメニア人から見た産業革命、最終章は、世界史のなかのヨーロッパ移民問題、となっている。

NHK 出版新書 2019年2月 216頁 
780 円+税

 

ブラジル特報2019年3月号

『まなざしが出会う場所へ』(渋谷敦志著)

「越境する写真家として生きる」ことを選択したフォトジャーナリストがブラジル、アフリカ、アジア、震災後の福島を記録しながら思索を重ねた旅を語る。学生時代セバスチャン・サルガド写真展に衝撃を受けた翌 1996 年サンパウロの二宮法律事務所でのインターンシップを体験した著者は、「国境なき医師団」の活動に共鳴し写真家として歩み始める。飢餓や災害の現場の凄まじさに言葉を失いつつ、生真面目に希望を追求する姿にアッパレを。

 

新泉社
2019 年 1 月 336 頁 2,000 円+税)

『あけましておめでとう』
(フーベン・フォンセッカ著、江口佳子訳)

「ブラジル現代文学コレクション」第 5 弾は、1975 年に出版されるや、たちまち三刷(3 万部)とベストセラーとなったものの、翌 76 年には軍事政権より発禁処分を食らった話題作だ。猥褻で「公序良俗」に反するから、というのが発禁理由だったが、本書に収録された 15 の短編作品のどこにも男女が絡み合う濃厚な性描写なぞ一行もない。本書は、現代の読者にとっては、ほぼ半世紀前のリオの社会状況を知るための“文学的史料”であろう。

 

水声社
2018 年11月 256 頁 2,500 円+税

月刊『数学セミナー』(2019 年1月号)

2018 年 8 月上旬リオで開催された「国際数学者会議(ICM)」特集号。フィールズ賞を受賞した三名(クルド系イラン人ビルカー、イタリア人フィガッリ、ドイツ人ショルツェ)の業績紹介といった専門論文は門外漢にはチンプンカンプンだが、冒頭の藤原京都大学教授による「ICM2018 滞在記」は面白い日記風エッセイだ。火災で会場が急遽変更になっても無事開催、ビルカーの受賞メダルが盗難されたが解決、とブラジル的に丸く納まったのだ。

日本評論社
2019年1月 95 頁 1,090 円+税

『バトゥーキ』(迫稔雄著)

2018 年 8 月上旬リオで開催された「国際数学者会議(ICM)」特集号。フィールズ賞を受賞した三名(クルド系イラン人ビルカー、イタリア人フィガッリ、ドイツ人ショルツェ)の業績紹介といった専門論文は門外漢にはチンプンカンプンだが、冒頭の藤原京都大学教授による「ICM2018 滞在記」は面白い日記風エッセイだ。火災で会場が急遽変更になっても無事開催、ビルカーの受賞メダルが盗難されたが解決、とブラジル的に丸く納まったのだ。

集英社 第一巻、第二巻いずれも 2019 年1月
216 頁 540 円+税

『ヨーゼフ・メンゲレの逃亡』(オリヴィエ・ゲーズ著、高橋啓訳)

ナチス親衛隊大尉にしてアウシュヴィッツ強制収容所医師の「死の天使」メンゲレは、ナチスドイツ崩壊後アルゼンチンに逃亡、その後パラグアイでの生活を経て、ブラジルへ。サンパウロ州セーハネグラで隠遁生活をしていたが、1979 年 2 月 7 日ベルチオガ海岸で溺死、エンブー墓地に埋葬。1985 年法医学者によって遺骨を本人確認、といった逃亡生活の実態に基づく「ノンフィクション小説」。ブラジル現代史の一端としても読める作品だ。

東京創元社
2018年10月 254頁 1,800円+税

 

ブラジル特報2019年1月号

『TEZUCOMI テヅコミ』創刊号

テヅコミ 創刊号 Vol.1 限定版手塚治虫生誕90 周年記念のマンガ書籍であるが、手塚作品群のエッセンス(「ブラック・ジャック」、「火の鳥」、「鉄腕アトム」から1話ずつ)に人気作家たちの新作群が加わり、その最終章といえるのが、手塚プロダクション(企画)とマウリシオ・デ・ソウザ(漫画)の“夢の共演”である「プリンセスナイト」である。手塚治虫とマウリシオとの緊密な交友関係の成果が30 年後に具体化したものだ。これも日伯文化交流の一環である。

 

マイクロマガジン社
2018 年10 月 418 頁 880 円+税

 

『ブラジルの同性婚法』(マシャード・ダニエル著)

ブラジルの同性婚法 (学術選書175)副題が、判例による法生成と家族概念の転換。東京大学大学院博士課程の著者による、ブラジル同性婚法の考究だ。ブラジル法体系の特徴をおさえたうえで、顕在化した現象レベルでの同性カップルの法的承認の過程を分析し、ブラジル家族法と日本法に共通する現代家族法の展開を探求する力作である。ブラジル家族法の変容と2011年連邦最高裁判決の意義と限界を再検討しているが、法曹界をケーススタディーしたブラジル社会論とも読める。

信山社
2018 年5 月 312 頁 6,800 円+税

 

『マクナイーマ 誰でもない英雄』(マリオ・ジ・アンドラージ著、馬場良二訳)

マクナイーマ―つかみどころのない英雄 (創造するラテンアメリカ)モデルニズモと称されるブラジル文化ナショナリズムを宣言する文学作品だ。既に福嶋伸洋訳(松籟社、2013 年)が刊行されているが、今回は馬場教授による新訳。主人公マクナイーマが6歳になって初めて発したコトバは、福嶋訳では「あぁ!めんどくさ!....」だが、馬場訳では、「アア!かったるい!...」となっているが、ブラジル性を代表するキャラクターのキーワードだ。新しい訳文でブラジル文学の佳作を再読するのもよし、だ。

 

トライ社
2017 年2 月 255 頁 1,800 円+税

 

『エヂ・モッタ クライテリオン・オブ・ザ・センシズ

クライテリオン・オブ・ザ・センシズMPB を刷新しているシンガーソングライターは、ティム・マイアの甥にして、世界中のレコードを収集するコレクターでもある。吸収した世界の音を巨体に反映させながら、ジャズ、ロック、ファンク、レゲエ、クラシック、ボサノヴァといったジャンルを越境した活躍を続けるモッタの最新アルバムは、米国西海岸の音楽世界への憧れをみせてタイトルも英語(“様々な意義の尺度”の意)だが、これも間違いなくブラジル音楽である。

 

PCD-24767 P-VINE
2018 年9 月発売 2,400円+税

『アクレシア・ボンテンポ 真夜中のため息』

父親がブラジル人、母親はアメリカ人の娘として米国で生まれリオで育ったアクレシアは東京の高級ホテルでも長期間ジャズ歌手として活躍したこともある若手シンガーだ。デビュー10 年の最新アルバムのタイトルは”Suspiro”(ため息)となっているように、英語でもポルトガル語でも自在に歌う。現在はニューヨーク在住だが、リオ~ニューヨーク~東京と国境を越えて活躍する歌姫のファンは日本でも急増中だ。

 

RPOP-10026 コアポート
2018 年11 月発売 2,037 円+税

 

ブラジル特報2018年9月号

『三島由紀夫紀行文集』(佐藤秀明編)

1952 年2 月、当時27 歳の新進作家はリオにいた。「カルナヴァルの陶酔は、これをただ眺めようとする人の目にはいくばくの値打ちもないからである。その結果、私は正直に自分が陶酔したことを告白したい」と記した三島由紀夫は、サンパウロについては「ブラジル人の生活のたのしみ方は、日本人が以って範とすべきである」ともいっている。後年の皇国主義作家も青年時代はブラジルにはなんとも優しい好意的視線を注いでいたのだ。

岩波文庫
2018 年9 月 371 頁 850 円+税

 

『21 世紀ブラジル音楽ガイド』(監修:中原仁)

600 作以上のアルバム紹介が詰まった現代ブラジル音楽小事典といえる音楽ガイド。リオの最新ポップ、サンパウロの新潮流ノヴォス・コンポジトーレス、ミナス新世代、Hip Hop 系、バイーア&ノルデスチ、サンバのLapa 新世代、などなど。ムジカ・セルタネージャ好きにはチョイ物足りないかもしれないが、最新ブラジル音楽事情に精通した執筆者11 名による選曲と短評はどれも熱い想いがこもっている。多様性のブラジル音楽は日進月歩だ。

P ヴァイン 
2018 年8 月 191 頁 2,450 円+税

『かぴばら』(岩合光昭著・写)

動物写真家岩合光昭の写真集シリーズIWAGO’S BOOK は、1から4までがねこ・ネコだが、5はカピバラだ。
2015 年から2017 年にかけてパンタナールの現場を長期取材して撮影したカピバラたちの、一見かわいいが、ワイルドな姿は全く感動的だ。忍び寄るジャガーを嗅覚で感じ取って逃走するカピバラのシーンは圧巻だし、体を寄せ合う親子のスナップは見る者を飽きさせない。いずれも自然界でなければ撮れない超レアな写真ばかりだ。

クレヴィス 
2018 年8 月 80 頁 1,000 円+税

『ブラジル先住民の椅子』(展覧会「ブラジル先住民の椅子」公式図録)

今年6 月30 日から9 月17 日まで東京都庭園美術館で開催された展覧会で展示されたブラジル先住民作家たちによる木彫り椅子作品の数は92 であった。これら工芸作品群は大きく二つのグループに分別できる。一つは、民族学者や古物商によって収集された、伝統社会で儀礼的かつ実用的機能をもつ古い作品群。もう一つは、先住民系現代人作家によるアート作品群。いずれも森の精霊の化身である動物をモチーフにした名品ぞろいだ。

美術出版社
2018 年6 月 167 頁 2,222 円+税

『アート・リンゼイ 実験と官能の使徒』(今福龍太、中原仁ほか共著)

米国ヴァージニアで生まれ、少年期・思春期をノルデスチ(ガラニュンス+レシーフェ)で過ごしたアートは、フレーヴォやフォホーといったノルデスチ音楽を体内に沁み込ませたギタリスト・作曲家としてニューヨークに登場。
坂本龍一との長年に亘るコラボは有名だが、カエターノ・ヴェローゾを筆頭とするブラジル音楽の才人たちとの交流が脱ジャンル性を深めている。そんなアートの魅力が濃縮された一冊だ。

P ヴァイン
2017 年1 月 144 頁 1,850 円+税

ブラジル特報2018年9月号

『最初の物語』(J・ギマランイス・ホーザ著、高橋都彦訳)
最初の物語 (ブラジル現代文学コレクション)

作家ギマランイス・ホーザの作品は難解なことで知られ、文学研究者から「ポルトガル語のジェイムス・ジョイス」と称されるが、水声社版「ブラジル現代文学コレクション」の第四弾は、このホーザの短編集だ。収録されている佳作『第三の川岸』はモザンビークの作家ミア・コウトに「人生を変える」ほどの激震的インパクトを与え、ネルソン・ペレイラ・ドス・サントス監督によって映画化もされている。味読する価値のある名作集だ。

水声社
2018 年5 月 271 頁 2,200

 

『移民の魁傑・星名謙一郎の生涯』(飯田耕二郎著)

移民の魁傑・星名謙一郎の生涯―ハワイ・テキサス・ブラジル青山学院で学びキリスト教伝道師としてハワイへ移民し、その後テキサスへ転進した後、ブラジルの初期移民のリーダーとして活躍した星名謙一郎。
言論人としては邦字紙『週刊南米』を発行し、サンパウロ内陸部の開発(ブレジョン植民地経営)でも実績を残しているが、今ではほとんど忘れ去られている。1926 年事故死しアルバレス・マシャードに眠る星名に関する初めての本格的評伝だ。長年に亘る史料調査や関係者取材を踏まえた労作だ。

不二出版
2017 年11 月 330 頁 3,800 円+税

 

『移民政策のフロンティア』(移民政策学会設立10周年記念論集刊行委員会編)

移民政策のフロンティア――日本の歩みと課題を問い直す
2008 年に創設された移民政策学会が設立10 周年を記念して学会の総力をあげて集成した論考集だ。多文化共生政策の展開と課題、出入国政策をテーマ毎に論じ、社会統合政策では外国人学校の事例として朝鮮学校やブラジル学校についてコンパクトに叙述している。第5 章の、10 周年記念座談会を読むと、この現会員数400 名の学会
が、法学者から提起されて創設され、学際的に「日本の歩みと課題を問い直す」姿勢で一貫していることがわかる。

明石書店 
2018 年3 月 292 頁 2,500 円+税

 

『ラテンアメリカ所得格差論』(浜口伸明編)

ラテンアメリカ所得格差論―歴史的起源・グローバル化・社会政策 (アジア環太平洋研究叢書)①所得格差問題からラテンアメリカを視る意義と意味、②ラテンアメリカにおけるグローバル化と所得格差の関係、③ラテンアメリカにおける所得分配と社会政策、④ラテンアメリカの格差社会に対抗する連帯経済という選択、⑤メキシコにおける所得格差の変遷、⑥ブラジルにおける経済発展と格差縮小の要因、が各章のタイトル。第六章で、ブラジル経済史における所得分配構造をマクロで把握したうえで発展と格差縮小の共存を論じている。

国際書院 
2018 年8 月 256 頁 3,500 円+税

 

『ネイマール ピッチでくりだす魔法』(マイケル・パート著、樋渡正人訳)

ネイマール: ピッチでくりだす魔法 (ポプラ社ノンフィクション)ロシアW 杯でブラジルは準々決勝で敗退したが、ブラジル国民の希望の星ネイマールは“過剰倒れ込みパフォーマンス”を連発しすぎ、世界中の子供たちが“ネイマールする”ことを真似てしまった。そんなマイナスイメージが付いてしまったネイマールだが、本書を読むと彼の天性の天真爛漫さと練習によって鍛え上げられた足の技術の“カクテル”の魅力に惹かれることになる。小学校中級以上を対象とするポプラポケット文庫の一冊。

ポプラ社 
2018 年4 月 208 頁 700 円+税

 

 

 

 

ブラジル特報2018年7月号

『移民の町サンパウロの子どもたち』(ドラウジオ・ヴァレーラ著、伊藤秋仁監訳)

移民の町サンパウロの子どもたち刑務矯正医官としての体験に基づく話題作『カランジル駅』はバベンコ監督によって映画化されたが、その著者は医師にして大学教授、さらには作家にしてテレビ解説者としても活躍している。そんなマルチ才人の児童文学作品「ブラースの町で」は1940 - 50 年代のサンパウロを活写しているが、これをテキストにしていた社会人講座の勉強の成果がこのほど一冊になった。翻訳(共訳)+訳語解説+ブラジル事情解説という三部構成になっている。

行路社
2018 年3 月 196 頁 2,000 円+税

『日本人と海外移住』(日本移民学会編)

日本人と海外移住――移民の歴史・現状・展望「移民の歴史・現状・展望」についての論稿が複数収録されている論集。ブラジル関連では、第5 章ブラジルの移民政策と日本移民(三田千代子)が、ブラジル史における人種主義と外国移民との関連を論じ、第9 章在日ブラジル人/デカセギ移民(アンジェロ・イシ)、は在日の「日系/ブラジル系」移民が歴史的には二面性があることを明らかにしている。北米・南米・アジア・満州移民について、改めて多面的かつ多義的に考察されている。

明石書店
2018 年4 月 302 頁 2,600 円+税

『ブラジル映画史講義』(今福龍太著)

ブラジル映画史講義: 混血する大地の美学「移民の歴史・現状・展望」についての論稿が複数収録されている論集。ブラジル関連では、第5 章ブラジルの移民政策と日本移民(三田千代子)が、ブラジル史における人種主義と外国移民との関連を論じ、第9 章在日ブラジル人/デカセギ移民(アンジェロ・イシ)、は在日の「日系/ブラジル系」移民が歴史的には二面性があることを明らかにしている。北米・南米・アジア・満州移民について、改めて多面的かつ多義的に考察されている。

現代企画室
2018 年5 月 472 頁 2,700 円+税

『被抑圧者の教育学 50 周年記念版』(パウロ・フレイレ著、三砂ちづる訳)

被抑圧者の教育学――50周年記念版識字教育における「意識化」、「銀行型教育ではない問題解決型教育」といったタームによって世界の教育思想界にインパクトを与えたフレイレ(1921-1997)のポレミックな教育哲学書も今や半世紀を迎えた古典になった。ポルトガル語からの新訳(2010 年)に、米国で刊行された「50 周年記念版」に付された「まえがき」「あとがき」「複数の研究者とのインタビュー」を加えた特別記念版がこの度刊行された。

亜紀書房
2018 年5 月 406 頁 2,600 円+税

『話したくなる世界の選挙~世界の選挙をのぞいてみよう』(コンデックス情報研究所著)

話したくなる世界の選挙―世界の選挙をのぞいてみよう世界各国の選挙制度の特徴を図解入りで紹介・解説している中高生向けの
ムック本。世界の法制事情に詳しい太田雅幸弁護士が監修しているので、正確にして客観的な叙述になっている。
話したくなるランキング1 位はオーストラリア、その理由は投票率の高さ。
2 位に選ばれたのがブラジルで、選挙権は18 歳からだが希望すれば16 歳で選挙権を取得できるから。世界第2
位に評価されたブラジルの総選挙は今年10 月だ。

清水書院
2016 年8 月 143 頁 2,376 円+税

ブラジル特報2018年5月号

『地図で見る ラテンアメリカハンドブック』(オリヴィエ・ダベーヌ著、太田佐絵子訳)

地図で見るラテンアメリカハンドブック大きく6 章(歴史の遺産、広大な土地・資源・入植、発展―安定と不安定、文化と革命、政治体制、ラテンアメリカと世界)に分け、ラテンアメリカ諸国をマクロとミクロ両面からあぶり出している。歴史地図や図表を多用した解説が特徴。米国の歴史的影響力はもちろん、「ラテンアメリカ征服に乗り出す中国」についてもコンパクトに叙述されている、フランスの研究者(パリ政治学院教授)による最新ラテンアメリカ案内(原著2016 年)だ。

原書房 2017 年12 月 165 頁
2,800 円+税

『世界イディッシュ短編選』(西成彦編訳)

世界イディッシュ短篇選 (岩波文庫)世界各地に離散した東欧系ユダヤ人によるイディッシュ語文学の“世界性”を感得できる短編集。作家たちの活動場所は欧州、米国、アルゼンチン、南アフリカ、ブラジルなどだが、作家ロゼ・パラトニクの『泥人形メフル』はリオに移住した主人公がフラメンゴやコパカバーナで行商をしながら恋人に出会って、とブラジル社会における生き様をユーモア交え描く佳品だ。これはイディッシュ語表記によるブラジル文学ともいえるだろう。

岩波文庫 2018 年1 月 345 頁
920 円+税

『移民が紡ぐ日本』(河原典史・木下昭編)

移民が紡ぐ日本―交錯する文化のはざまで日系移民研究の進展をめざした共同研究論集。全9 章から成るが、第三章の半澤典子「ブラジル移民知識人香山六郎の言動―移民俳句と日本語新聞を通して」は、邦字紙『聖州新報』を発行した言論人として知られる香山六郎が、現地の環境・風土に合ったブラジル風俳句を創作した俳人でもあることを明示した、貴重な論文だ。確かに、ホトトギス派の日本俳句崇拝主義とは異なるブラジル移民文芸を志向した特異な知識人なのだから。

文理閣 2018 年3 月 260 頁
3,000 円+税

『外地巡礼「越境的」日本語文学論』(西成彦著)

外地巡礼博覧強記の比較文学者による「外地の日本語文学」の拡散、収縮、離散を論じた著作だが、この研究対象にはブラジル日本語文学も含まれる。1920 年代から本格的に展開されてきた「コロニア文学」だが、「ブラジル社会への同化が進んだだけ、その同化方向の多様性が、ブラジル日本人が同胞を見る目の多様化をあおるかたちとなって」いるが、著者は戦後移民作家リカルド・宇江木の歴史長編『花の碑』で描かれた歴史観に注目している。

みすず書房 2018 年1 月 303 頁
4,200 円+税

新盤紹介

『ウン・コルポ・ノ・ムンド』(ルエジ・ルーナ)

アフロ・バイーアの新潮流を代表するルエジはサルヴァドール生まれの若手(30 歳)シンガー・ソングライター。
このファーストアルバムに収録された曲のほとんどが彼女のオリジナルで、カンドンブレのリズムからノルデスチ音楽に通じるものまで多様なアフロのリズムに、アフロ・ブラジル宗教色に富む歌詞が融合している。バイーア出身ミュージシャンが昨年リリースしたアルバム約150 枚のなかで音楽批評家たちが一位に選出したものだ。

インパートメント 2018 年2 月
3,000 円+税

 

ブラジル特報2018年3月号

『珈琲( コーヒー) の世界史』(旦部幸博著)

珈琲の世界史 (講談社現代新書)快著『コーヒーの科学』でコーヒー好きの理系頭脳を唸らせた著者が、今度は、歴史好きな文系頭脳にコーヒー並みの覚醒・興奮という薬理効果をもたらす「コーヒー通史」を書きあげた。コーヒーの発見からイスラム世界~欧州~世界への普及、はもちろん、昨今の日本におけるスペシャルティコー
ヒー需要も、栽培・生産サイドの各国別歴史についても薀蓄が語られる。著者は医学博士であるが、コーヒー特任博士であることも自ら証明した。

講談社現代新書 2017 年10 月
254 頁 800 円+税

『老練な船乗りたち』(ジョルジ・アマード著、高橋都彦訳)

老練な船乗りたち―バイーアの波止場の二つの物語 (ブラジル現代文学コレクション)ブラジル現代文学コレクション第二弾。文豪アマードの、社会主義リアリズムで一貫した前期作品群とは対照的に政治色が霧消した後期作品群のなか
でも玄人筋の評価が高い小説。副題が
「バイーアの波止場の二つの物語」となっているように、バイーアの近海や遠洋で活躍した船長らの冒険談やら恋愛物語やらが、豊饒な文体で語られる、アマード流魔術的リアリズム文学作品だ。1978 年に刊行された旺文社文庫版の改訳版。

水声社 2017 年11 月
372 頁 3,000 円+税

『ラテンアメリカ500 年』(清水透著)

収奪された大地―ラテンアメリカ500年
「考える歴史学」を唱え、かつて『コーラを聖なる水に変えた人々』(1984年)という画期的なメキシコ史研究書によって「インディオ証言に基づくリ
アルな歴史」叙述を行ったベテラン歴史学者によるラテンアメリカ史公開講座の活字化である。ブラジルは、黒人奴隷問題など部分的に触れられているだけだが、ラテンアメリカ史総体を体系的にとらえており、読む者を惹き込む語りの妙味を感得できる作品となっている。

岩波現代文庫 2017 年12 月
322 頁 1,200 円+税

『家宝』(ズウミーラ・ヒベイロ・タヴァーリス著、武田千香訳)

家宝 (ブラジル現代文学コレクション)ブラジル現代文学コレクション第三弾。女流詩人・作家ズウミーラ・ヒベイロ・タヴァーリスの代表作で、芥川賞ブラジル版といえるジャブチ賞の受賞作品。女主人公マリア・ブラウリアが少女時代から老女に変わっていくプロセスを錯綜的に小説化した作品だが、全ての登場人物が複数の顔を持ち、あとがきで「タヴァーリスの濃密で複合的なテクストをそのまま日本語に置き換えることは不可能」と訳者が告白するほどの手ごわい小説だ。

水声社 2017 年12 月
141 頁 1,800 円+税

『カヌードスの乱』(住江淳司著)

カヌードスの乱――19世紀ブラジルにおける宗教共同体9 世紀末バイーア奥地のカヌードスで展開された千年王国運動は政府軍との軍事対立によって死者2 万人以上という実質的な内戦として終結した。
ノーベル賞作家バルガス・リョサは『世界終末戦争』においてこの悲劇をフィクション化して描いたが、本書は日本における最初の本格的なカヌードス研究書である。但し、「反乱」は住民側からでなく政府側が押しつけたもの故、今日の歴史学では「カヌードス戦争」と呼称するのが通例となっている。

春風社 2017 年12 月
265 頁 3,200 円+税

ブラジル特報2018年1月号

『写真家三木淳と「ライフ」の時代』(須田慎太郎著)

写真家 三木淳と「ライフ」の時代かつてメディア世界をリードした報道写真誌「LIFE」の、日本人唯一の正規契約カメラマン三木淳は、報道写真家として朝鮮戦争も1950 年代のアメリカも記録したが、ブラジルやメキシコにおける先駆的な仕事でも知られる。移民50 周年祭(1958 年)以降10 年もブラジルに通い続けた成果は、写真集『サンバ・サンバ・ブラジル』(1967 年刊)に集約されたが、このほど刊行された評伝でもこの辺の仕事ぶりが冷静な筆致で叙述されている。

平凡社 2017 年9 月
445 頁 3,400 円+税

『LINA BO BARDI』(和多利恵津子監修)

リナ・ボ・バルディ1946 年イタリアからブラジルに移住した建築家リナ・ボ・バルディは、自邸「ガラスの家」やMASP( サンパウロ美術館)、SESC ポンペイア、などの建築作品を生み出し、市民に開かれた建築を追究した。彼女の社会派モダニズムが国際的に認知されるのは、つい最近でしかないが、国際的に著名な建築批評家でもあるアンドレ・コヘア駐日大使は序文において、この遅れて来た国際的評価を正視している。リナの全貌が収められたヴィジュアル本だ。

TOTO 出版 2017 年11 月
288 頁 4,300 円+税

『エルドラードの孤児』(ミウトン・ハトゥン著、武田千香訳)

エルドラードの孤児 (ブラジル現代文学コレクション)水声社版ブラジル現代文学コレクションの第一弾。現代のブラジル文学を代表する作家ハトゥンは、サンパウロ大学建築学部を出てから文学研究に転進し、カリフォルニア大学でも教壇に立った大学教授だ。その代表作が描く世界は、出身地マナウスに巨万の富をもたらした20 世紀初めのゴムブームを背景に一財産を築いたアルマンドとその遺産を食いつぶす息子アルミントの物語だ。日系人も登場し、近代とアマゾン的神話世界が交錯する。

水声社 2017 年11 月
188 頁 2,000 円+税

月刊『思想』2017 年12 月号(E・ヴィヴェイロス・デ・カストロ特集)

レヴィ=ストロースは唯物論哲学研究から人類学研究に転進し、構造主義人類学の山脈を構築したが、その弟子ヴィヴェイロス・デ・カストロ教授(リオ連邦大学・国立博物館教授)は人類学研究から哲学(相対主義的認識論)研究へ新地平を切り拓いている。主要著作『食人の形而上学』、『インディオの気まぐれな魂』が邦訳されているカストロ教授のポスト構造主義哲学をめぐる、気鋭の研究者たちによる論稿集だ。

岩波書店 2017 年11 月
131 頁 1,400 円+税

『抵抗と創造の森アマゾン 持続的な開発と民衆の運動』(小池洋一・田村梨花編)

抵抗と創造の森アマゾン: 持続的な開発と民衆の運動本書刊行を支援したマリナ・シルヴァ元環境大臣からの寄稿文のタイトルが「日没する国から日出ずる国への教え」となっているが、これまでのアマゾン開発の在り方を批判し、持続的開発のための対案としてアグロエコロジー、アグロフォーレストリーを提示し、さらには先住民の現状や土地なし農民運動を論じている。セラード開発に象徴される工業型農業がもたらす環境破壊へのオルタナティブ構築を目指す論集である。

現代企画室 2017 年11 月
319 頁 2,700 円+税