執筆者:塚本 恭子氏
(ブラジルサポートサービス社代表取締役、茶房未来代表)

今年のサンパウロは、雨が多く、肌寒い年の始まりとなりました。ブラジル経済の低迷を象徴するかのように、昨年末は、サンパウロ名物パウリスタ通りのクリスマス飾りつけもほとんどなく、なんともさみしい年末年始のパウリスタ通りでした。今年は少しでも経済がよくなるといいですねとブラジル人の友人に話すと、ほとんどの人が今年は無理、だってカーニバルが終わると、ワールドカップ、その後に大統領選があるし、祝祭日が月火と木金にかかる日が多いから、土日挟んだ長い休日が多くて仕事にならないよ、何もしないうちに今年は終わるよと言われます。よくならない理由は単純にお休みの多さや、ワールドカップ、大統領選だけではないのですが、とにかくそろそろ仕事モードに入りませんか・・と心の中でつぶやく日本人の私ですが、ま、カーニバルが終わるまでは仕方ないかのブラジルです。

さて、2018年は日本移民110周年でもあり、多様化した日系社会が日本とブラジル両国間で、またブラジル社会の中で、未来へ向けてどのような役割を果たしていくのか、改めて考える年にしなくてはいけないのではないかと感じています。一昨年より開催している「未来塾」と昨年開店した「茶房未来・Sabor Mirai」を通じて感じていることを書き連ねてみました。
「未来塾」
未来塾は、駐在員、特にご家族の皆さんのお役に立てればと思い、サンパウロ市パライゾ地区で始めましたが、昨年よりブラジル人向け日本語クラスも始まっています。駐在員やご家族の皆さんを対象に、乳幼児向けにはリトミックを基本としたリトルステップクラスで、たくさんの音を認識し始める時期に、家庭内だけでの日本語だと、どうしても日本語表現力が不足してしまうという専門家の意見もあり、お母さまと一緒に楽しみながら日本文化を組み込んだ内容を中心にブラジル文化も取り入れています。若いお母さま達が、不慣れで限られた生活の中、一生懸命に子育てをされている姿は、涙ぐましいものがあります。

ブラジル未来塾の挨拶状

就園児、小中学生には、音楽・スポーツ・ダンス・アートのクラスをメインとし、ワークショップで、レゴ教室やロボット教室、駐在員有志の協力を得た科学教室など、楽しみながら学ぶ空間作りを目指し、帰国後できるだけ子供たちが戸惑わないように、先生方には日本に帰国してから役に立つ要素を組み込んでもらっています。例えばここブラジルでは治安の問題があり、子供たちは外で遊ぶ機会は少なく、通学も外出も基本的に車での移動となります。そのため筋力が日本の子供たちより劣り、帰国時、ランドセルを背負って学校まで歩けない子もいますので、ダンスやスポーツクラスでは筋力と持久力をアップさせる運動を取り入れています。また、音楽クラスではブラジル人の先生が多いため、ブラジル風に楽しくおおらかに音楽を楽しんでもらいながらのクラスです。大人向けには、せっかくのブラジル駐在期間、サンバ教室や楽器習得などブラジル文化を体感してもらえるクラスが中心です。また、医療講座など生活に密接したクラスも不定期に開催しています。

文化や言葉の違いは、日々のことでもあり、ブラジルに着いて少しの間は大きなストレスを抱えてしまう方が多いようです。さらにお子様がいらっしゃるご家庭では、やはり教育の問題が大きな関心ごとです。ブラジルの公立校は問題が多すぎてなかなか難しいので、おのずと高額な授業料の私立校に頼ることになります。そして日本語能力が劣らないようにするためのオプションも限られます。教育だけではなく治安の悪化、衛生面(黄熱病等)、政治経済の不安定の中で、ブラジル生活をできるだけ快適に過ごせるような生活の知恵が今まで以上に求められています。

未来塾の様子

昨年中旬より始まったブラジル人向けのビジネス日本語講座(日本語検定1級取得者もしくは同レベルの日本語能力を有する人が対象)や幼児教育に関わる先生方へ日本語を使った授業構築の具体的な教育方法を紹介する定期的ワークショップ開催。今年は日本が大好きなブラジル人対象のイベント、アニメ・マンガで日本語を企画中ですが、日本大好きのブラジル人はとても多く、日本語関係のセミナーに何度か出席させていただきましたが、今や日本語を習う生徒の割合は、非日系ブラジル人のほうが多いという報告でした。よく日本語を流暢に話す非日系ブラジル人に会いますが、ほぼ全員がアニメやマンガのファンです。
日系人の若い世代には、出稼ぎ子弟として日本で義務教育を受け、日本語で会話ができる人も多いのですが、日本語で仕事ができる人は限られます。同時に母国語であるはずのポルトガル語能力に劣る人も少なくありません。教育と言語、言語教育、正しい日本語、継承日本語・・・日本語をキーワードとしてブラジルでの現状を考えると、今後の日系社会や日本の未来を垣間見る思いがします。

 

 

「茶房未来・Sabor Mirai」


ブラジルの3大カントリーリスクに悩まされ、約1年がかりでやっと開店にこぎつけた小さなカフェですが、ここは食の情報発信地グルメ倶楽部として、安全でおいしい食品、日本的喫茶文化、食文化の紹介をしていくことも目的としています。お出ししているコーヒーはドリップ中心で、最高級のコーヒー豆を使っています。コーヒー生産国とはいえ、高品質コーヒー豆は輸出、最近やっとグルメコーヒー専門店もでき始めましたが、まだまだ美味しいコーヒーをブラジル人はあまり飲む機会がありません。日本の喫茶風に一杯一杯丁寧に淹れたコーヒーはブラジル人の評判も上々です。

グルメ倶楽部で紹介する食材は昨年から探し始めましたが、こだわりをもって作られた食材、食品が次から次へと見つかり、改めてブラジルの食の豊富さと多様性を感じています。試食会では、お客様からは本当にブラジルで作られたものかと聞かれることも多く、こんなにたくさん一級品の食材・食品があるのかと驚きます。

そして美味しくて安全なものを探した先には、多くの場合、日系人、日本人、日本企業が関わっており、日本人・日系人・日本企業のブラジルの食への貢献度の高さを改めて知ることになりました。農産物はもちろんですが、食品の品質管理、衛生管理、その他技術も含め、幅広い分野で食を支えていることを、誇らしく思いました。

立ち上げたグルメ倶楽部は、口コミわずか2週間で、すでに100名以上の方が登録、半分以上がブラジル人です。生産者の顔が見える食品を、日本的ライフスタイルを提案しながらの紹介ですが、生活の質を向上させたいと思っているブラジル人は多く、さらにこれから高齢者社会突入のブラジルなので、定年退職したブラジル人は、体に優しい食と日本的快適空間を、生活の一部として取り入れたいと思っているような気がします。ブラジル人が日本に抱くイメージは、110年の日系移民の歴史と日本製品、技術、文化からくる、厚い信頼感です。

21世紀、世代や分野等の垣根を越えて、オールジャパン体制で、商品だけでなく日本語や教育システムも含んだジャパンブランド構築をする時期が来たのかもしれないと感じています。問題山積みのブラジルではありますが、まだまだのりしろいっぱいのブラジル。
小さいながらも、未来塾と茶房未来を通じて未来への種まき中です。