執筆者:上島 英郎 氏
(ロート製薬株式会社)

 

日本人がブラジルに駐在員として赴任する時に感じる色々な驚きと不便さについて私自身の経験をもとに書いてみたい。

 

1、時間の掛かる外国人登録

常駐VISAが取れて、晴れてブラジルに入国すると、まず外国人登録が必要になる。これは、連邦警察が行っており、本人のIDなので、その後何をするにもまず必要になるが、登録には事前予約が必要だ。予約を取るのに、一週間以上かかる場合もあり、その間は一切の契約活動(アパート契約、銀行口座開設、運転免許申請等)を行う事ができず、旅行者と同じ状態になる。こういう情報はVISA取得のコンサルタント会社が持っているが、日本国内では分からず、ブラジルに到着して初めて知る事になる場合も多い。私の時(2013年11月)はグアルーリョス空港の連邦警察でも可能であった為、到着した翌日にコンサルタント会社の若者が連れていってくれた。内容的には必要書類を書いて、両手指の全ての指紋を取るだけだったが、指紋をコンピュータに写し取る機械が不調で、それだけの為に3時間程度掛かり、同空港への行き帰りを含めて1日仕事となった。登録希望の外国人の数を考えると、このペースでは話にならないと思ったしだいであった。駐在が決まった方々は、入国後の手続きについても充分な注意が必要である。

 

2、コンピュータ依存体質

ブラジルでは先進国とはまだ言えないにも関わらず、上記の事例のように何でもコンピュータ処理で片づけるケースが多く、それが不調の時でも何とか機械で行おうとし、完全にできない時は、業務そのものがストップする場合が多い。

事例として、空港のチェックインシステム、銀行、選挙等が挙げられる。空港の事例では、ある時大雨で交通事情が悪くなり、グアルーリョス空港への到着が遅れ、国内線のチェックイン30分前の制限にタッチの差で遅れた事があった。まだ、後続の便がある為、便変更の窓口(3か所あった)で並んでいたが、7・8組しか並んでいないにも関わらず列が一向に進まず、結局、その日の後続の2便か3便を逃し、翌日の朝の便になってしまった。

原因はやはりコンピュータシステムの不調で、処理スピードが非常に遅いにも関わらず、それでやるしか無い様子で、日本でたまにある、手書きの航空券での緊急対応等は行っていなかった。こういう時も、顧客が困るのは一向にお構いなしで、機械の不調だからどうしようもないというだけである。列の中で待っている間に、翌日のアポイントメントの変更を電話で依頼し、サンパウロのホテルを取り直してタクシーで戻り、ぐったりと疲れてしまった。

 

銀行の事例では、当初イタウ銀行に個人口座を作って暫くした後だったが、自宅の近くの支店のATMで現金を引き出そうとしたが、機械の中で音はするものの待っていても現金は出て来ず、ところが最後に画面上で希望した金額が引き落とされたように表示されており、引き落としを示すチケットも出てきて、びっくりした事がある。その日は週末だったので、月曜になってから、ブラジル人ダイレクターと一緒に当該支店を訪問し、事情を説明し、出てきたチケットを示して交渉すると意外にも(有り難いのだが)、お金を戻してくれた。銀行のATMでお金が出て来ないのも驚きだったが、それが大した証拠も無いのに、交渉ですんなり戻って来たのにもびっくりであった。そして、その翌日の夜、今度は別の機械でトライすると(先の機械は故障中の紙が貼ってあった)、今度はいよいよお金が出てくる段になって、ゼムピンがお金の出口のスリットに引っかかって、出金を妨げていた。とっさにスリットに指を入れて、ゼムピンを外そうとしたが、スリットが細くて指が奥まで入らず、ゼムピンに触れはするものの取り去る事ができなかった。そうこうしている内に機械は出金を諦めて、現金は奥に吸い込まれてしまい、やはり画面上には引き落としが終了した事を示す表示が出ていた。また、翌日の交渉でお金は戻って来たが、その時は事情説明の文書を書かされた。その2件が連続して発生した事で、イタウ銀行は信用できなくなり、銀行を替える事を決めたが、既にクレジットカードを作り、会社の費用も一件、毎月立て替えるようにしていた為、直ぐには銀行の変更ができず、結局メインはブラデスコ銀行にして、イタウ銀行口座も日々のクレジットカード対応口座として残す事にした。

 

さて、つい最近の事だが、駐在が終了してブラジルを去る事になり、終了の2週間前にイタウ銀行サルト支店の口座を締めに行き、残額を現金で受け取って、会社の経理担当にその旨を告げると、直近の経費の支払手続きをイタウの口座宛に行ったとの事で、実行は翌日であるとの事だった。口座は締めたので、金額が戻ってきたらブラデスコの口座に送り直すように頼んだが、2日経ってもお金が戻ってないというので、イタウに問い合わせると、口座を締めた時と同じ担当者が、お金は締めた口座に入っていると言う。それでは、会社に戻して欲しいと頼むと、締めた口座からは振り込みができないとのこと。それでは何故口座を締めた翌日に入金したのか聞くと、それは締める手続きの途中だったからと悪びれずに話す。どうすれば取り戻せるのかと聞くと、分からないので調べて明日までに電話するとの事だった。ブラジルでは良くある事だが、約束の電話連絡は無く、週を超えてしまった。さて、ブラジル滞在の最終週になり、同支店に連絡すると、まだ方法が分からないとの返事で、業を煮やしてマネージャーを出すように言い、水曜までに解決するように約束させて電話を切ったが、木曜になって外出先で、やっとお金は自由になって引き出せる事になったと、くだんの担当から電話があった。どうすれば良いか聞いたが、早口でぞんざいに話すので何を話しているか分からず、会社の経理担当に電話して欲しいと頼んで電話を切り、会社に戻ると銀行からの電話は無いという。そこから経理担当と何度も同支店に電話をするが、一向に通じず、ついに最終の金曜日を迎えた。あいにくその日はワールドカップのブラジル戦があり、銀行は午前中が閉店であった。午後になってやっと電話が通じると、支店に来てサインして貰わないと出せないとの事。何故それを前日にきちっと私にわかるように言わないのか。最終日の午後はJundiaiのアパートで荷物整理をしていたが、TV業者のNETが締切日で、比較的早くに機械を取りに来てくれたので、サルト支店に出向いて、やっとお金を取り戻す事ができた。全体を通じて、担当者の対応は非常に横柄でぞんざいであり、迷惑を掛けているのは私ではなくイタウ銀行の方だよと話したが改まらず、最後まで謝罪の一言もなく、非常に残念だった。

 

長話で申し訳ないが、ブラジルはコンピュータ頼みで、それが不調にならないように予防措置をするとか、不調になった時の対応・対策が決められていない場合が多いと思う。いつでもどこでも「コンピュータが不調になったので、できない。」と言うだけであり、何の対策も取られていない。ちょっと話が違うが、これで良く飛行機が落ちないものだとも思うのである。

 

さて、ブラジルの選挙に関しては、候補者にナンバーが割り振られ、投票はコンピュータでそのナンバーを入れるとかボタンで選ぶようになっているらしい。これはまだ文盲の人がある程度(8%)居る為と不正を防ぐ為だそうだが、逆にハッカー等を通じて電子的な操作で不正が行われているのではないかという危惧が存在する。しかし、選挙には行ったことが無いので詳細は知らず、この話はここで止めることとする。

 

3、配達や訪問の約束は有って無きがごとし

さて、駐在になって、アパートを契約すると色々な家具や家電品を購入することになるが、面倒を避けたいなら、家具付きアパートをお勧めする。とは言っても、私の場合は家具付きアパートで良い物件は無く、“家具無し”になってしまった。単身赴任の場合、土曜日でない限り、仕事を休んで配達を待つ事になる。これが約束の日時に1時間以内の遅れで来てくれるのは、五分五分程度の確率と考えておいて良い。私の場合、ソファの配達の日は月曜日の朝9時だったが、会社を休んで待っていて10時半を過ぎた時点で、何の連絡もないので一度会社に戻った。午後にも洗濯機の約束があったので、アパートに行ったが、また何の連絡もなく、電話では分からないので店に行って聞くと、今日の約束では無いとのこと、では前日の約束の電話は何だったのか?と話している内にソファの配達員から今から行くとの連絡が入った。朝9時ではなかったのか?と聞くとそんな話は聞いてないとの返事で、取りあえずアパートに戻って受け取った。その他の家具の時も一度土曜日に約束したが、全く一日待ちぼうけに終わった。土曜日なので仕事には差し支えないが、駐在当初は買い揃えたい物も多く、外出できない事にイライラした。電話で理由を聞くと、クレーム対応の電話では、配達の車の故障との事だったが、店で私に対応した販売員に電話で実際の理由を聞くと、担当の配達員が急に休んだ(サボった)為との事だった。それらの家具は次の週の水曜日の3時の約束で3時半頃届けられた。組立を必要とするものが5つあったが、簡単な物を2つ組んで4時過ぎになったところで、今、組み立ての物が終わったら帰ると話され、配達は6時までと聞いていた事を言うと、我々の仕事は5時までで、それまでに会社に戻るには4時半には出ないといけないとの事で、習慣の違いにびっくりしたが仕方なかった。そして最も大変な洋服ダンスは別に組立の予約を取らないといけなくなってしまった。

 

後になって分かるが、これは、ブラジルの厳しい労働法が関係する。時間外労働は最低通常の1.5倍は支払わないといけない為、時間外労働を従業員に求めるのは会社に取って割りが合わないのである(化粧品業界は1.7倍になっており、時間外労働で作った商品は利益が出ない)。また、会社が従業員を信用していないか、あるいは間違いが起こるのを避ける為、必ず5時までに会社に戻るように決めている為であろう。

 

4、自動車免許の取得は時間が掛かる

サンパウロやリオデジャネイロ市内の中心部でない限り、鉄道は未発達の為、ブラジルの生活では自動車が必須となる。ところが、この免許取得にはざっと4か月を見ておく方が良い。ブラジルは大雑把に言うと、諸制度は割と厳しく決められている(運用が人それぞれでいい加減であるが)事が多く、国際免許では運転できない。特に日本のように左側通行の国の人々は実技の講習が義務付けられている。但し、過去に右側通行の国の免許を持っていたりすると、この講習は必要が無い。私は、会社がサンパウロ州サルト市にあったので、同市で免許取得を申し込んだ。申込にはまず、ディスパシャンテと呼ばれる手続き代行業者に行わないといけない。それから10日程して、該当の役所に正式に申し込める事になる。出頭日時の知らせを受けて、総務の女性に当該役所の窓口に連れて行って貰うと、申込の名前は書けたが、担当者が居ないので写真が撮れないという。指定された日時に来たのに、どうして担当者が不在なのか名前登録の係員に聞くと、それは知らない、来るはずの日だが来ていないとの事、カメラも椅子も固定されているので、あなたは撮れないのかと聞くと、仕事が違うのでできないという。つまり通常は1人でもできるような仕事をわざわざ係を分けており、しかも専業化している為に、他の人間は代行できないのである。全く市民を馬鹿にした対応であり、私が行った時、既に15人程度の人は待っていたので、それら全員に迷惑を掛けていることになる。結局、写真撮りは、また10日後となった。

 

その次のステップは、適正検査の視力や聴力の検査だが、写真撮りまでに3週間程度掛かった為に12月に入り、適正検査を行う医師が一か月以上のクリスマス休暇に入ってしまい、それだけで私の適正検査は1月に行われる事になってしまった。その身体的な適正検査はブラジルの決まりでは医師が行わなければならず、サルト市の担当医師は1人だけなので、彼が休暇に入ってしまうと万事休すなのである。隣接市やサンパウロではダメなのかと聞くと、既にサルト市で申し込んでいるので、今さら変えられないとの事だった。1月15日になって、やっと身体的な適正検査が行われ、さんざん待たされたにも関わらず、3分程で終了した。日本で行われていることと変わりなく、特に医師が行う必要性を感じさせない検査だった。その次は知能や性格的な適正検査で、これもまた2週間後の1月末になって行われた。ここまで2か月以上掛かって、やっと適正検査に合格したことになる。何故、半日でできるようなプロセスに2か月以上掛かるのか、全く理解できなかった。その次は、前述の実技講習である。次のステップは意外に早く、2月の第2週に講習とその4日目に実技試験が行われた。30年以上車を運転している者に取って、実技はたやすく、直ぐに合格し、1週間程で免許が届くと告げられたが、一向に届かない。ディスパシャンテに問い合わせても、私の免許は既に該当の役所から郵送されており、取りに行くこともできなかった。その年はカーニバルが3月初めから4日まで続く事になっており、免許はカーニバル開けの3月5日に届けられた。

 

11月11日に入国してから、およそ4か月掛かった事になる。この間、移動にはバス・タクシー・自転車を利用、通勤は他の人に毎日送り迎えして貰って、非常に不便な思いをした。12月中に届いた新車は、免許が届いた時にはバッテリーが上がっており、始動にも苦労をした。医師の一か月以上のクリスマス休暇という不運もあったが、全てが超お役所仕事であり、それを受け入れる覚悟が必要である。

 

5、郵便は、支払期限が過ぎてから届く

前述の免許証の配達もそうだが、ブラジルの郵便制度は機能していない。同一市内のはがきや封書であっても、3週間程度は掛かり、外国からでは2か月以上掛かるのが常である。最近は無くなったが、駐在して初めの頃は様々な支払通知書が支払期限を過ぎてから届くのが常であった。従って、もっぱらインターネットメールによる支払通知書の送付が行われている。また、クロネコヤマトのような宅配便業者は発達しておらず、郵便局自身がセデックスと言う名前の早期配達便事業を行っており、要は割増金を取って、それでも通常の各国の郵便よりは遅い配達を行っているのである。従って、各企業は至急の書類等を送る場合は、モトボーイと呼ばれるバイク便を利用する。バイク便は1000円から2000円程度で、書類を数時間でサンパウロまで届けてくれるので便利だが、ブラジルの経済水準からすれば値段が高い為、各企業は無用の高額出費を強いられていると思える。私は当初、日本の新聞を郵送で受け取っていたが、サンパウロで日本での発行の翌日に印刷・発送されているにも関わらず、手元に届くのが早くて3週間後、遅ければ2か月後になった為、馬鹿らしくて止めてしまった。その後はインターネットで購読していた。日本から8月下旬に送った雑誌も10月下旬になってから届き、関係者を驚かせた。

 

ところで、モトボーイは自動車の間をすり抜け、信号無視、スピード違反、反対車線の逆走等やりたい放題であり、大いにサンパウロの交通の妨げになっているが、警察がそれを咎める様子も無い。郵便事情が好転すれば、結果的に交通事故も減ると私は信じている。

 

さて、ブラジルの不便さは他にも色々とあり、これから駐在される方は、多かれ少なかれその不便さを強いられてしまうと思う。そこは、我慢のしどころである。良い部分としては、従業員の超過労働が殆ど無く、駐在員がそれを補うにも限りがあり、一般的に言われる昼夜を問わず働かざるを得ない激務の駐在員生活とは無縁な部分である。これは厳しい労働法と更にその元であるキリスト教に根差す社会的な合意があると思う。しかし、超の付くお役所仕事ぶりや、コンピュータ依存でその不調時のバックアップ制度を全く考えていない部分、人との約束を守らなくても良しとする部分等は、今後先進国になっていくとすれば、改善されていくべきであろう。逆に言えば、そういう事が改善されない限りは先進国になっていく事はできないと思われるのである。