会報『ブラジル特報』 2012年7月号掲載
日系企業シリーズ第19回

                                    三瓶 弘行 TERUMO MEDICAL DO brASIL LtdA. 社長)


 テルモは,北里柴三郎博士をはじめとする医学者らの手によって、1921年に創設された会社です。「医療を通じて社会に貢献する」という企業理念を掲げ91年間の歴史を歩んで来ました。この間、体温計の製造からスタートし、医療の安全性を守るための使い切りのディスポーサブル医療器の開発、そしてより高度な医療機器の開発へと歩みを進めて来ました。現在では、カテーテル治療や心臓血管外科の心臓血管領域、血液製剤化システムなどの血液領域、輸液や栄養などのホスピタル領域を中心に全世界で事業を展開中です。また世界の人々の健康に貢献し、世界中でなくてはならない会社になるとの思いを胸に、早くから積極的な海外進出を進めて来ました。現在では、国内外に24か所の生産拠点、世界の主要国をカバーする58の販売拠点ネットワークを持ち、160カ国以上で弊社製品が使用されています。
 ブラジルとの縁は深く、既に戦前から弊社の体温計が輸出されていました。1960年代からは体温計に加えて、注射針、注射器、輸血用の血液バッグなどを主力商品としてブラジルへの輸出を拡大しました。売上は年々増加し、70年代にはテルモブランドは高級品のイメージが定着するに至りました。 その後のブラジル経済の困難な時期にも、当社は代理店を通じたビジネスを継続しましたが、90年代の終わりまで大きく販売を伸ばすことは出来ませんでした。
 この状況を打開するために、現在のテルモ・メディカル・ド・ブラジル社が設立されたのは、1999年のことです。当時の代理店が弊社ビジネスから撤退したのが契機となりました。薬事登録の保持とマイアミからの輸出ビジネスのサポートが当時の機能で、従業員一人、売上ゼロからのスタートでした。社員の採用、衛生監督局(ANVISA)の薬事登録の取得から始めて、代理店の設定、学会・展示会での販促活動、病院への直接売り込みを通じて徐々に販売を拡大して行きました。最初の1~2年は、販売網構築に時間がかかり、売上の立たない月もあるなど、苦難の連続でした。しかし、ブランドが浸透していた輸血用の血液バッグから拡大が始まりました。2006年には弊社の主力商品である心臓血管用のカテーテルを上市し、売上の飛躍が実現しました。さらに09年からは自社による輸入販売に切り替え、販売会社としての活動が出来る様になりました。現在では、40人を超える組織になり、4つの事業領域毎に全国をカバーする代理店網が出来、病院への直接販売も開始しました。設立から10年を経てようやく土台が出来てきた段階です。

 

テルモの事業領域





 医療機器の市場規模は日本の196億米ドルに対し、ブラジルは35億ドルでまだ日本の6分の1強に過ぎません。しかし、人口が日本の倍であること、そして経済成長を考えると、今後の伸びしろは非常に大きく、弊社がこれから益々力を入れるべき市場と確信しています。
 この数年、弊社が力を入れていることの一つに、患者さんに優しい心臓病治療法の推進があります。trans Radial Intervention(手首からカテーテルを挿入して心臓を治療する方法)と呼ばれる手技で、従来の手技に比べて、患者さんの負担を軽減し、医療コストも大幅に削減出来ます。弊社では、この手技の先進国である日本のトップドクターを招聘し、実際の手術の指導や講義を行って貰っています。2008年の日本移民100周年の際には公認イベントとなり、ブラジル全土より約250名の医師が参加しました。当初、この手技のブラジルでの普及率は5%程度でしたが、現在では25%まで伸び更に増え続けています。弊社は、この日本が生んだ患者さんにも社会にも優しい手技をブラジルで普及させることを責務の一つと考えています。
 先行している欧米の競合他社に負けないように、弊社の新技術導入や組織拡大を通じて、市場でのプレゼンスを飛躍的に上げて行きます。そして、優れた商品と独自の取り組みでブラジルの医療の発展にさらに貢献して行きます。

 

展示会における弊社ブース