会報『ブラジル特報』 2013年5月号掲載
特集 日本ブラジル中央協会創立80周年記念シンポジウム

                                    鈴木 孝憲  


 2011年、ブラジルはGDPで英国を抜いて世界第6位になった。一人当たり国民所得は12,000ドルを超えた。その巨大な国内市場は大きな内需を生み、ブラジル経済を支えている。それには2つの政権が決定的な役割を果たした。まずカルドーゾ政権(19952002年)は「レアル・プラン」によりハイパーインフレを収束し、国民の購買力を一気に30%引き上げた。加えて大型民営化を実現し、市場の裾野を拡大した。次のルーラ政権(200310年)は「飢餓ゼロ計画」を最重要政策として打ちだした。

 ルーラ政権は2つの具体策を実施した。ひとつは最低賃金の実質引き上げだ。200312年の10年間で実質86%アップした。もうひとつはボルサ・ファミリアと呼ばれる貧困層への生活費補助。家族1人当たり月収70レアル未満の家族が対象で、貧困層を中心に1,350万世帯6,500万人が受給した。

 カルドーゾ、ルーラ両政権の施策により、ブラジルの貧困層4,000万人の所得が上がった。最低賃金の実質アップはジルマ・ルセフ大統領により2011年に「前年のインフレ率プラス前々年の経済成長率」とするよう法制化された。
 この最低賃金の実質アップは公務員の給与、年金、さらに民間の給与に波及、国民の半数を超える1億人超の新中間所得層Cクラスを出現させた。この新たな消費需要の波は地方にも及んでいる。併せて雇用も好転している。2003年の失業率は13%だったのが12年には5.5%まで低下した。


元ブラジル東京銀行会長、元デロイ
ト・トウシュ・ーマツ最高顧問。
『2020年のブラジル経済』(日本経済
新聞出版社 2010年)等著書多数。



 1995年の外資の直接投資のストック残高は425億ドルだったが、96年から2012年までの17年間に純流入した外資の直接投資は4,150億ドルと巨額にのぼった。

 欧米系外資の戦略は明確で「成長するブラジルにグループを支える新たな収益の柱を構築する」ことだ。日本企業が問題としてきたブラジル・コストや為替差損を乗り越えて、ブラジル国内市場の制覇に成功している。ここ数年、ブラジル拠点や現地法人が世界の中でトップになる企業が増えてきた。

 1位の例はフィアット、サンタンデール銀行、ワールプールなどだ。
 国際コンサルタント会社AT・カーニーは毎年新興国30か国を対象に最も魅力ある小売市場を選んでいるが2011年に次いで12年もブラジルを首位にした。ブラジルの消費需要はまだ拡大する。
 Cクラスの所得がさらに上がりBクラスにシフトしていく。 日本勢は出遅れたが、まだチャンスはある。