ブラジル・ヤマハ  ヤマハ音楽教室を再開して

ブラジル特報 2014年5月号より
内藤 修 <ヤマハ・ムシカル・ド・ブラジル社長>

 1887 年のオルガンの修理 ・ 製造に始まり、「山葉風琴製 造所」を経て 1897 年「日本楽器製造 ( 株 )」として設立され、 現在に至る弊社の変わらぬ特性として、開発・製造・販売 という通常の製造業の業務活動に加え、教育・普及の重 視があります。創業のきっかけが学校のオルガン修理、そ れを生業として製造する過程で国産振興の国策のもと文部 省の指導を受け、教育需要を担うようになった創業期。終 戦後軍需工場から楽器製造に回帰する中で、学校音楽のた めのハーモニカに始まる学校音楽用の楽器開発 ・ 供給協力。 更に下って鍵盤楽器の演奏人口拡大のため、1954 年にオ ルガン実験教室、66 年には ( 財 ) ヤマハ音楽振興会を発足・ 独立させ、純粋に文化 ・ 教育的な見地からヤマハ音楽教育 システムを構築しています。現在の弊社グループの主な教 育・普及活動は、特に海外ではこの音楽教室と学校音楽振 興が主なものです。
学校音楽振興というのは、楽器供給だけでなく、授業で 先生が指導し易い教材を提供したり、講師を学校に派遣し たりといった活動が具体的なものですが、それに先立ち学 校で音楽を教えることの意義を伝えることが難しいところ です。また主に使われるリコーダーは、よく玩具扱いを受 け軽んじられますが、価格に比べて楽器としての完成度は 高く、その特性から義務教育課程など広い範囲に向けての 音楽教育に適しています。こうした音楽の意義、リコーダ ーの有用性を伝えるのはなかなか骨の折れる仕事です。
弊社のブラジル現法(Yamaha Musical do Brasil Ltd.: YMDB)創業は 1973 年ですが、初期から鍵盤を使う音楽 教室は大事な活動でした。最盛期には全土で 2 万名ほど の生徒を数えたと聞いています。残念ながら輸入制限によ り営業活動を休止し、教室運営を支えた駐在員も帰国、休 眠状態に入った 85 年から数年後に、音楽教室も活動を停 止しました。当時の駐在員は、子供達や講師さん達への思 い入れが強かった分、断腸の思いだったといいます。その 後 1990 年、いろいろ制約は残るものの輸入が可能になり、 駐在員事務所として再開しました。音楽教室の再開も検討 しましたが、当時の状況では安定した運営に自信がなく、 将来に向けての課題としました。営業はインポーターを介 したものから次第に業容を拡大することができ、97 年に 商品を限定しながらも輸入 ・ 卸売業務の再開を果たすこと ができました。徐々に取扱商品を拡大して今日に至ります。

ブラジル・ヤマハSopro Novo セミナーの風景

再開当時、私はマイアミにあった現地法人 ( 現在はパナ マに移転 ) から担当者として、毎月出張して直接サポート をしていました。音楽教室は無理でしたが、普及活動は当 社の DNA ですから、代わる活動として、より広い範囲に アプローチできるリコーダーに取組むことにしました。需 要層が大きいことと価格の障害や在庫による品質劣化の心 配が比較的少ないことも大きな要素でした。
リコーダーの普及活動というのは、教える人を養成する 活動です。1992 年からサンパウロ、クリチバ、リオデジ ャネイロからべレンまで、展開の種を求めていろいろな場 所へ、日本から招いた講師と共にでかけました。人 ・ 仕組 みを作り現地だけでの自転を目標に何年か連携先の模索を 続けましたが、特にブラジルでは州や市などの公的機関が 当てにならず、活動継続の仕組み作りがもっとも悩んだ点 でした。仕組みを作るにはその活動主体が必要ですが、会 ってみると話が違うことばかりで、ひどい時にはセミナー 当日になって受けた情報と全く違う実態が判明した、とい ったことを繰り返しました。その後私は帰国しましたが、 現場で試行錯誤を続けた末、2005 年に Sopro Novo とい うボランティアの活動主体を結成することができました。 今日までの 8 年間で、145 都市で 1,000 回近くのセミナ ーを開催、約 3,300 名の指導者養成ができました。彼ら に教わる子供達は、40 万人近くになるはずです。
一方、ヤマハ音楽教室は、やっと昨年 (2013 年 ) 再開に 着手できました。3 月に直営センターを暫定開業、8 月に 幼児科パイロットクラスを開講し、今年 3 月、建物の手 入れが完了、講師も安定数確保できたことで、改めて開所 式を催すことができました。活動停止前の講師さんも招き、 喜んでもらうことができたのは幸いでした。今後は協力先 を確保しながら、徐々に活動地域を広げていくつもりです。
以上の演奏する人を増やそうという普及とは別に、ブ ラジル独自に、楽器そのものの認知をしてもらうための Play Now という活動も行っています。Shopping Center 内に設けた特設会場でより多くの人に楽器の実物に触れて もらう機会を提供する活動です。ブラジル各地の主要都市 にある Shopping Center で 2013 年は 16 回 ( 例;Patio Brasil/Brasilia、Rio Mar/Recife、 Salvador Shopping、 Boulevard/Belo Horizonte、 Barra Shopping/Porto Alegre、Vila Olimpia/São paulo、等々 ) 来場者は、計約 26.5 万人、1 会場平均 1.6 万人強でした。今年は 17 回を 予定しています。