私は、駐在の終了時には、各地の駐在員やその夫人を対象に、「駐在生活の楽しみ方」というテーマで報告会・講演会を開くのを常としていた。
サンテイアゴでは、駐在員夫人の集まりである「コピウエ会」メンバー40名を対象に行い、ミラノでは、イタリア日本商工会議所のセミナーの一環として、2回に分けて行った。サンパウロでは、ブラジル日本商工会議所・ブラジルを知る会・BUMBAの3者共催でセミナーを開催した。サンパウロ州・市の観光局からバッグやパンフレットを多数入手し、10レアルの参加費を徴収した。100名を上回る参加があった。
開催理由は、各地で少しずつ異なるが、共通して言えることは、多くの駐在員が駐在生活を十分にエンジョイしていないことである。単身赴任であるとか、ご主人がゴルフに夢中で家族を十分にアテンドしないとか、子供が小さいので自由に動けない等の理由からである。
ミラノは、見るもの、聞くもの、食べるもの、買うもの等魅力に満ちた都市であったが、スカラ座でオペラを一度も見たことがない、サンシーロ・スタジアムでサッカーのセリエAを見たことがない駐在員が少なからずいた。スペインでも闘牛やサッカーを見ていない駐在員も結構いる。サンテイアゴやサンパウロには、見る物が何もないあるいは少ないと本当に思っている駐在員も少なくなかった。私はチリとイタリアではすべての州を訪問した。それぞれの州や都市は、魅力に満ちており、何かしら興味あることを発見した。ブラジルは駐在期間が2年5カ月と短期間であったため、全27州は回れなかったが、それでも19州を駆け巡った。土曜や日曜には、家内と極力出かけるようにした。ショッピング、食べ歩き、テアトロ・ムニシパルやサラ・サンパウロでのオペラやコンサート、テアトロ・アブリルでのミュージカル鑑賞をエンジョイできる。日系コロ二ア社会は数多くのイベントを組織してくれる。「日本フェステイバル」、「アチバイヤの花とイチゴの祭り」、「桜まつり」などの郊外で行われる大規模なイベントには嬉々として出かけた。文協の大ホール等では「紅白歌合戦」、「全国民謡大会」、「カラオケ大会」、「全国太鼓大会」、「よさこいソーラン」もやってくれる。「全国民謡大会」に2日間通えば、北は北海道から南の沖縄までの民謡を鑑賞できる。日本でもそのような機会はほぼ皆無である。博物館や美術館にしても、欧米の有名な博物館や美術館とは規模、内容において比較すべくもないが、それなりに楽しめる。
image_photo_16  「移民博物館」を見学すれば、あらゆる移住者の中で日本人がいかに重要な役割を果たしたがわかる。
「ブラジル日本移民資料館」を見れば、日本人の辿ってきた足跡がよく理解できる。世界的に有名な「サンパウロ美術館」(MASP)に出かければ、ルノアール、モネ、マネ、モジリアーニ、セザンヌ、ゴッホ等印象派を中心とした絵画を鑑賞できるし、特別展も頻繁に組織されている。サンパウロ州立美術館の「ピナコテカ」に行けば、ポルチナリ、カルカヴァンチ、マルファッチ等ブラジル人の著名な画家の展示のほか、マナベ・マベやトミエ・オータケなど日系人の作品が沢山展示されており、ブラジル画壇でいかに日系人が影響を与えたかがわかる。建築も植民地時代の建築に加え、少し前に亡くなったオスカル・ニーマイヤーの作品がセントロやイビラプエラ公園に行けば見られる。日系のルイ・オータケの作品も所々で見られユニークである。イピランガ独立記念塔とパウリスタ博物館も必見である。忘れてはならないのは、フェイラ(見本市)である。サンパウロは南米最大の見本市都市であり、日本のレベルを相当上回る。駐在員の奥さまからみても、観光、ビューテイ、靴・ハンドバッグの見本市は興味津々であろう。
さらに習い事の天国でもある。刺繍、料理、装飾、ダンス、サンバ、パンデイロ等たくさん学べるものがある。
ショッピングセンター巡りも特に女性にとって喜びであろう。主として日曜に開催される骨董市にも出かけることをお勧めする。レプブリカ広場、リベルダージ広場、サンパウロ美術館界隈である。旅行も駐在員の楽しみであろう。ブラジルには世界遺産が19あり、日本と並んで世界で11番目である。メキシコの33には及ばないが、中南米では堂々第2位である。自然遺産、文化遺産がバランスよく存在している。数年前には,パカエンブー・スタジアムにサッカー博物館もできたし、水族館もオープンした。子供連れには動物園や植物園もある。
そう考えてみると退屈している暇はないのである。しかし、駐在生活を楽しむには、次のような心構えが必要となってくる。

  1. 計画を立てること(3~5年計画)。
  2. あらゆるチャンスを逃さないこと。
  3. 生活、趣味、仕事のバランスをとること(ゴルフのみに集中しないこと)。
  4. 旅行、博物館等に行く場合は、事前にある程度の情報を収集しておくこと。
  5. フットワークを軽くするために日頃訓練を積むこと。気楽に出かける習慣をつけること。
  6. 主人が多忙な場合は、女性だけで旅行できる仲間をつくっておくこと。
  7. 情報の提供はGIVE & TAKEを心がけること。
  8. 情報収集ネットワークを常日頃心がけておくこと。
  9. 治安状況に留意し、自分の身は自分で守ること。

投稿者:桜井悌司 氏