執筆者:桜井 悌司(ブラジル中央協会 常務理事)

 

ブラジル人の多様性・寛容性を理解する

ブラジル人が持つ多様性や寛容性を理解する上で、参考の一助となると思われるのは、サンパウロ・ゲイ・パレードである。毎年6月ともなれば、恒例の「サンパウロ・ゲイ・パレード」が開催される。サンパウロのビジネスの中心である全長2800メートルのパウリスタ通りの大部分を使い繰り広げられる世界最大の「ゲイ・パレード」である。主催者は、APOGLBT「ゲイ・レスビアン・性転換者のプライド・パレード協会」と呼ばれる組織で、1997年第1回パレードが組織された。主催者の発表によると、第1回の参加者は、2、000名と少なかったが、第2回、7、000名、第3回、3万5、000名、と年々増加し、ついに2003年の第7回には100万人を突破、2004年には、180万人、2005年には、250万人を突破した。2006年には、有名な米国サンフランシスコのゲイ・パレードをも凌駕し、世界最大のゲイ・パレードとしてギネス・レコードに登録され、ずっと首位をキープしている。その後、2011年には、410万人に達したが、このところ300万人台で推移している。

 

このイベントは、文化展示会や一連のデイベートなども組織されるが、何といっても最大の呼び物は、パレードである。各ゲイのグループが、全長20メートルに及ぶトラック上に巨大な山車をこしらえ、その上で所狭しと踊りまくる。山車の数は、当時、数えたところ合計24台あり、パウリスタ通りからサンパウロの中心部に数十メートル置きに並ぶ、京都の祇園祭の鉾をイメージすれば大体が想像できるが、祇園祭のようなエレガントな囃子ではなく、ロック調、サンバ調の音楽をガンガンやり、多数の一般市民もサンバの乗りで一緒に踊るのだ。通りには、女装したゲイが多数闊歩しており、一緒に写真を撮らせて欲しいと頼むと愛想良く引き受けてくれ、しっかりポーズもとってくれる。女装のゲイと言っても、日本風に可憐な女装の男性と思ったら大間違いで、180センチ以上の大男がほとんどなのだ。

 

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サンパウロ・ゲイパレードの山車

山車の上で踊っているゲイの多くは、一昔前日本で人気のあった「キンニクマン」や人気アニメ「ドラゴンボール」に出てくる登場人物のように筋肉隆々の大男たちで、皆なかなかのハンサムボーイである。(写真参照のこと)見学にきた一般市民、とりわけ若い女性グループからは、「どうしてあんないい男がゲイなの、もったいない」といったつぶやきが聞こえる。パウリスタ通りは、一般市民、ゲイ、レスビアン等が入り乱れて、まるで東京地下鉄の朝ラッシュアワー時の様相を呈する。(写真参照のこと)もちろんスリの類も出没するので、観光客や駐在員も要注意である。

 

サンパウロ市の観光イベントの目玉として、サンパウロ市当局も財政支援しているということであった。東京都や大阪市がゲイ・パレードに財政支援するかと考えると思わず笑ってしまう。このように紹介すると、ブラジルやサンパウロでも初めからゲイ、レスビアン、性転換者等に寛大であったかというと、カトリック教の国でもあり、大変な差別や迫害があり、現在まで続いている。

 

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パウリスタ通りの混雑ぶり

ブラジルには、ABGLT(ブラジル・ゲイ・レスビアン・性転換者協会)というNGP組織があり、31の創立グループで1995年に設立された。現在では、全国にまたがる257の組織が加盟しており、ラテンアメリカ最大の組織である。「ゲイ、レスビアン、バイセクシュアル、性転換者の市民権と人権を保障するための行動を促進し、ひいては、いかなる人も、性的方向性やジェンダーのアイデンテイテイゆえに、どのような形であれ差別、抑圧、暴力にさらされないようにする」ことをそのミッションとしている。

 

毎年、パレードには、テーマが設けられるが、そのテーマをみただけで、これら団体が、差別・迫害に対して一生懸命に闘っていることが理解できよう。そのいくつかを紹介しよう。

第1回(1997年)「我々はたくさんいる、我々はあらゆる職業についている」

第2回(1998年)「ゲイ・レスビアン・性転換者の権利は、人類の権利」

第5回(2001年)「多様性を包み込め」

第9回(2005年)「市民とのパートナーシップ、すでに同等の権利、それ以上でもな

くそれ以下でもない」

第11回(2007年)「マチスモ、人種差別、ホモ嫌いの無い世界に向けて」

第15回(2011年)「お互いに愛せよ、ホモ嫌いはもうたくさんだ」

第18回(2014年)「ホモ・レスビアン・性転換者嫌いのいない国が勝利者の国だ、ジェンダー・アイデンテイテイ法の承認のために闘おう」

 

まだまだブラジル国民もゲイやレスビアン等には寛大とは言えないが、イベントを通じて、オープンに包み隠さず、差別反対運動を展開しているのは注目に値する。また市民もこの問題についてどれほどの寛容性を持っているかわからないが、このイベントの参加者の顔つきを見ている限り、大いに楽しんでいるようだ。