演 題 : ラバジャットを追う~ブラジルの政治経済を毀損した汚職構造と出口
講演者 : 堀坂浩太郎 上智大学名誉教授

堀坂浩太郎氏(上智大学名誉教授)

年末から1月末までの休暇が明けて国会も司法も動き出したが、ポイントとなる人事並びに組織改革は;①上院議長(任期2年)エウニシオ・デ・オリヴェイラ、下院議長(任期2年)ロドリゴ・マイア(暫定議長から特例で再任)、いずれもテメル大統領と同じPMDB(ブラジル民主運動党)で政権支持体制が固まった、②ラバジャット担当判事、ファキン最高裁判事へ(事故死したザヴァスキー判事の後任)、③空席の最高裁判事にモラエス前司法相(但し、国会承認待ち)、④司法省⇒司法公安省へ(各地の監獄における反乱・抗争へ対応)、⑤大統領府総務庁の復活、⑥人権省の新設、を指摘しておきたい。

ラバジャット事件(別名:Petrolão)は、ブラジルの歴史上最大の疑獄事件であり、2014年3月、ガソリンスタンドを舞台にした資金洗浄容疑が捜査第一弾だったため、ラバジャット(カーウォッシュ=高速洗車機)と名付けられたが、昨年2016年11月のリオ石油精製コンプレックスを巡る捜査=第37弾まで、検察による3年がかりの解明作業が展開されてきた。この二頁にわたる一覧表(講演会添付資料)をみていただきたい。(ラバジャット捜査の第1弾から第37弾まで記載された、この表の詳細なる解説だけで30分以上となった)、その結果の数字をいくつかみておくと、家宅捜査730件、勾引令状197件、司法取引(個人71件、企業7件)、告発事案における贈収賄額約64億レアル、罰金を含む弁済要請額381億レアル、当局との協力を前提にした合意により回収が見込まれる額101億レアル、というようにとてつもない巨悪事件である。

取り調べ対象は、闇ドル業者、国営企業、納入業者(ゼネコンほか)カルテル、汚職政治家、政党(PT労働者党、PMDBブラジル民主運動党、PP進歩党)裏口座など。

罪状は、贈収賄、組織犯罪、カルテル、不正入札、不正契約、資金洗浄、詐欺、横領、背任、無申告海外口座など。

管轄裁判所は、パラナ州クリチバの連邦地方裁判所(担当判事:検察新世代のセルジオ・モーロ)。

ラバジャットほどの規模ではないが、更に数多くの汚職が摘発されているが、数例を挙げると①Zelotes(財務省税収行政審議会メンバーの指南による脱税・免訴)、②Custo Brasil(ベルナルド元企画開発管理相の収賄)、③Greenfield(四つの大手年金基金による投資ファンドの運用水増し)、④Acrônimo(経済社会開発銀行の資金調達に関わるピメンテル元工業貿易開発相の口利き)、⑤Calicute(リオ州元知事&前知事による収賄)、⑥Operação Eficiência(元百万長者エイケ・バチスタによるリオ前知事への贈賄)。

こうした摘発を可能とした政治社会状況の三要因として、①分水嶺となったメンサロンの摘発(2005年に発覚した、横領した公金の連立政党へのバラマキ)、②司法改革と検察の捜査能力拡大、③国民の反汚職気運醸成、を指摘したい。

最後に、テメル政権へのインパクトを若干考察しておく。政治不安の中での改革路線、といえるが、そのハイライトは、20年間の歳出上限設定法案(憲法改正)の可決である。但し年金改革などの大きな課題がまだ控えている。こうした状況はpinguela(小川に架かる丸太橋)と呼ばれている(ちなみに、そう表現したのはカルドーゾ元大統領)。まさに、ガバナンスの二つの側面(政権運営能力と政治能力)が問われているが、オーデブレヒト社幹部77名の証言・司法取引で今後どんな名前(政権関係者)が出てくるか、心配といえば心配である。国民視線からすれば、テメル政権の政治能力を国民が試している、といえるだろう。テメル政権への支持率は最近の世論調査でも13%前後と低いのが現実である。

マクロ経済について述べる時間はないが、一言でいえば、ブラジル経済は底を打っている。①インフレが収まっている、②農業生産が好調、の二点をポジティブ要因として指摘できるが、今後の経済復調が期待されるところだ。

日  時  2017年2月16日(木)
14:00~15:30
会  場 フォーリン・プレスセンター

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アクセス:東京メトロ 日比谷線、丸ノ内線、千代田線、霞ヶ関駅C4番出口,都営三田線 内幸町A6番出口

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