講演者:浜口伸明 氏(神戸大学経済経営研究所教授)
演 題:回復サイクルに入ったブラジル経済(空間経済学からブラジルを俯瞰する)

浜口伸明氏
(神戸大学経済経営研究所教授)

ブラジルは統計データがいい加減なようで、意外としっかりした数値も出しており、例えばIBGE(地理統計院)による賃金階級別雇用の実態調査は50万人ものサンプリングを四半期ごとに行っている。こうしたデータ類のグラフをいくつか、まず俯瞰的に眺めてみたい。

いうまでもなく、経済政策のトリニティの不可能性という経済学のイロハがあるが、①金融政策の自律性⇔②為替レートの安定性⇔③自由な資本移動、の三要素を同時にアクセルをふかすことはできない、という前提を復習したうえで、いくつかのグラフをみていく。

 

  •  その1)SELIC金利
    SELIC(政策金利)の推移(かつては20%以上、直近は6.75%)から読み取れることは、①Dilma政権後半はインフレ対策の金利引き上げで景気悪化、②Temer政権で金利引き下げ、最も低い水準へ、③銀行貸し出しの活発化で景気浮揚効果が期待される、④社会保障改革が頓挫すれば、これ以上の金融緩和はなさそうだ。
  • その2)消費者物価上昇率(かつて二けた、現在2%レベル)
    現在のインフレ目標(日本は2%、ブラジルは4%)とのズレに注目。
    ①Dilma政権後半にインフレ悪化、目標圏外へ、②Temer政権で急速に収束、目標を下回り、金利引き下げ、③今後目標圏はより低く、より狭く、来年に目標数値に漸近する見通し。
  • その3)レアルの対ドルレート
    ①Dilma政権後半、インフレに伴いレアル安が進む、②Temer政権で1ドル=3レアル前半維持、安定化、③輸出競争力が回復し、景気回復を助ける、物価の安定化。
  • その4)実行実質為替レート(名目レートにインフレ率を加味したもの)
    ①PT政権期(2003-2016)はレアルが過大評価傾向にあった、②現在は概ね是正されている。
  • その5)経済活動指数(IBC-Br)&GDP成長率
    ①ピークは2010年の7.5% ②2015年▲3.6%、2016年▲3.5%と二年連続大幅なマイナス
    ③(IMF予測値)2017年1.1% 2018年1.9% と緩やかな回復へ。
  • その6)工業生産(2012年=100)
    ①2014年以降の不況はリーマンショック時よりも深く、長い、②耐久消費財、資本財の落ち込みが大きい、③直近では耐久消費財の回復が急。
  • その7)対個人与信残高
    ①金利低下で対個人与信残高が増加傾向に転じている、②消費(例えば自動車販売)を後押し。
  • その8)小売数量指数
    ①マクロ安定、為替安定で需要も回復、②消費は下げ止まり、回復傾向に乗った。
  • その9)国内自動車生産台数
    ①2013年の360万台をピークに3年連続マイナス、②2017年減少傾向を脱した、③レアル安で競争力を増した輸出も貢献。
  • その10)失業率
    ①一番低かったのは2013年11月、②雇用状況の改善によって失業率低下、③まだ失業率は高水準が続いている。
  • その11)賃金階級別雇用の変化
    ①2012年のデータでは、Eクラス(最低賃金以下)が減少し、D+Cクラス(最低賃金1倍から5倍)が増加、②2017年のデータでは、Eクラスの雇用・仕事がまず拡大しているが、D+Cクラスに好循環及ぶかは、第四四半期のデータを見る必要あり。
  • その12)企業信頼指数(日銀短観に相当)
    ①2016年以降、企業の景気拡大への信頼は高まっている、②遊休設備の稼働から、更に設備投資へ結びつくか、がポイント。
  • その13)ブラジル輸出コモディティ価格指数
    ①鉄鉱石価格は上昇、②大豆は価格が下落したが輸出量増加でカバー。
  • その14)財政収支(プライマリー・バランス)
    ①2013年まで黒字、2014年以降、赤字転落、2016年▲156billionレアル、②2017年は歳出上限設定もあって▲110billionレアルへ“改善”、③黒字回復までに時間がかかる、社会保障改革が焦点。
  • その15)社会保障改革の主な改正点
    ①改正案は提出されたが、②リオ州の治安悪化に対応するための連邦政府(軍)の直接介入が急遽決定されたため、憲法改正となる社会保障改革案は採決できず、ペンディング、③ブラジル的ジェイチーニョがあるかもしれないが、改革案はストップ状態。

 

以上のポイントを復習すると、

  1. ブラジル経済が2014年以降、深刻な景気悪化状態にあって、その要因は2014年以前のマクロ経済運営の失敗にある。
  2. テメル政権になってから、インフレに対して金融政策による調整が機能して効果を出し、マクロ経済の安定が取り戻された。
  3. 金融緩和による内需の成長と、競争力を保ち得る為替レート水準のおかげで輸出が伸長し景気回復を牽引することになった。
  4. 2017年後半から、生産、雇用は回復サイクルに戻った傾向にある、と経済データから読み取れる。
  5. より安定的な成長が担保されるには、質の高い雇用が創出されること、社会保障改革を含む財政の構造改革が進むこと、この二点がキーポイントとなる。
  6. 長期的な視点からいえば、インフラと人的資源を充実させて生産性を向上させる必要がある。

 

以上要するに、ブラジル経済が「完全に回復サイクルに入った」と断言できるかというと、まだ疑念がゼロではないということだ。

日 時 2018年2月20日(火)14:00-15:30
場 所 新橋レンガ通りホール

住 所:東京都港区新橋2-14-4 マルイト新橋レンガ通りビル 4F (MAP)
アクセス:新橋駅 徒歩3分
※auショップの隣が入口です。エレベーターがありませんので、階段にて4階にお越しください。

参加費 個人会員1,000円, 法人会員 2,000円, 非会員 3,000円
※会費は当日会場にて申し受けます。領収書もご用意します。
問い合わせ 日本ブラジル中央協会 事務局
(E-mail:info@nipo-brasil.org)