演題:「テメル政権によるメルコスール再構築への動きと日本」
会場:新橋ビジネスフォーラム

子安昭子 上智大学教授

まず、メルコスールの成り立ちとこれまでの推移について要約的におさえておきたい。北米のNAFTA(米国、カナダ、メキシコ)がビジネス視点から成立したのに比し、Mercosulはブラジルやアルゼンチンの民主化に並行して構想・具体化され、1995年からスタートした。90年代末の「存亡の危機」を経て、2003年以降は各国の左派政権によって「通商よりも政治色の強い」同盟に変容し、ベネズエラの加盟(2012年)がそのピーク。2016年アルゼンチンにマクリ政権が、ブラジルでテメル政権が発足し、ここからメルコスールの刷新(再構築)が始動した。その最初の成果が、ベネズエラ無期限資格停止(2017年8月)である。

この大きな流れを確認するためにも、『大統領教書』を読んでみたい。Dilma政権による2016年版では、EUとの交渉については短い言及があるのみで、第三世界(中東のチュニジア・レバノン)外交を進めることが先、となっていたが、テメル政権による2017年版2018年版では、「孤立主義と通商の保護主義化に立ち向かう」姿勢を明確にし、ブラジル外交の根幹は「ユニバーサリズム」にあり、と明言。

こうした再構築の諸アクションの結果、2017年4月には、メルコスール投資円滑化協定を調印、同年12月に、メルコスール公共入札契約協定を調印している。これらがテメル政府にとっては「結果を出した2017年」との主張に繋がる。

域外との関係強化の代表例であるEUとの交渉については、2016年10月に交渉が再開され、2018年4月(第33回ラウンド)までに計8回開催されている。EU側の要求する無関税枠(牛肉やエタノール)に対しメルコスールとして合意に至らず、引き続き、交渉が続けられる。(以前は早期の合意が予想されていたが、ズルズルと長引いているのが現状だ。)

もう一つの大きな動きとして、太平洋同盟(加盟:メキシコ、チリ、ペルー、コロンビア)との関係深化を指摘できる。2016年12月に行われたチリのバチェレ大統領とアルゼンチンのマクリ大統領の会談が契機となり、2017年4月には第1回メルコスール・太平洋同盟外相・財務相会議がブエノスアイレスで開催され、両地域の統合に向けたロードマップ作りについて合意がなされた。

さらに、新たな“戦線”として、カナダ(今年3月、オタワにて第1回交渉)とメルコスールとの「包括的で野心的なFTA」交渉が進行中であり、さらには韓国とのFTA交渉は5月25日に第1回交渉が行われた。

この文脈において、ヌーネス外相が、5月7日から23日まで、アジア諸国(シンガポール、タイ、インドネシア、ベトナム、日本、中国、韓国)を訪問している。

最後に、日伯通商関係の進展状況について、のべたい。

2015年9月、第18回日伯経済合同委員会(日本側:経団連、ブラジル側:CNI全国工業連盟)において「日本ブラジルEPA」実現に向けたロードマップが作成され、2017年9月には、ブラジルからメルコスールに対象を拡大することが決定された。今年7月の第21回経済合同委員会において「ロードマップ」更新がなされる見込み。

こうした新潮流を裏付けたのが、5月19日から26日まで中南米を訪問した河野外相の発言(「TPP11への加盟条件は「環太平洋」ではない。ブラジルをはじめラテンアメリカ諸国の加盟も歓迎する」)であった。

今回の講演のまとめ図表化として「メルコスールと他地域・他ブロックとのFTA交渉(試案)」と題した、子安教授手作りのカラー図が提示された。

日 時 2018年5月30日(水)14:00-15:30
会 場 新橋ビジネスフォーラム会議室

住 所:港区新橋1-18-21 第一日比谷ビル8階
(西新橋交差点の紳士服店 ビッッグヴィジョンが出店しているビルの8階)
http://biz-forum.jp/access.html

参加費  個人会員1,000円, 法人会員 2,000円, 非会員 3,000円
※会費は当日会場にて申し受けます。領収書もご用意します。
申込み 下記お申込みフォームにてお申込み下さい。
問合せ 日本ブラジル中央協会 事務局   (E-mail : info@nipo-brasil.org)