2018年6月時点の状況

鈴木 孝憲 氏

1 大統領選の行方
  1.  今年の大統領選は、州知事、上下院国会議員、州議会議員の選挙と共に10月7日に行われる。候補者は6か月前の4月7日までに選挙高裁(JES)に認められている政党に所属しなければならない。政党は7月20日~8月5日の間に大統領候補正副を党大会で選出することを要す。立候補の受付締め切りは8月20日だ。現在までマスコミや世論調査に名前が出ているのはまだ立候補の可能性ある人または意志ある人ということだ
  2. 名前の出ている中では与党MDB(ブラジル民主運動)候補のメイレーレス前蔵相、PSDB(ブラジル社会民主党)候補のアルキミン前サンパウロ州知事が2大政党をバックに抜きんでていくか。シーロ・ゴーメス元蔵相あたりがこれに次ぐか。その他候補のうち右派で軍部出身のボルソナーロ下院議員が、世論調査では15~20%の支持率で今のところトップ。その主張は民営化推進で小さな政府指向、対中国はブラジルを買うつもりだと警戒視、治安の早期解消など良い点を含んでおりブラジルのトランプと言われているが(貧乏人は不妊にさせろとも言って一部で反感も買っている)左派の30%支持と大政党候補者の間でどこまで票をのばせるか。足取り遅い経済回復―特に雇用―より治安の回復が最優先との国民の判断が出るかもしれない。
    何れにしても8月に入りテレビでの政見発表が始まればもう少し見通しがはっきりしよう。但し、入獄中の元大統領ルーラを政界浄化の殉教者としてPT(労働者党)や労組が選挙を混乱させる可能性もあり、注意する必要がある。
  3. なお、この人こそ大統領選に出てほしかった前サンパウロ市長ジョアン・ドリアは、PSDBからサンパウロ州知事選に立候補している。将来の大統領候補だ。上下院の国会議員選では年金制度改革など構造改革支持では当選できないといつもの顔ぶれが出てきているようだ。腐敗汚職の捜査ラーバジャットで政界の大掃除がかなり進んだ。汚職一掃と国の将来のかかる改革問題をブラジル国民はどう評価するのかが今回の大統領選以下の総選挙で問われるのだ。
2 経済回復はややペースダウン
  1. 年初から比較的安定していた為替レートが5月に入り対ドルのレアルレートで
    3.50から3.90までドル高となった。この要因は米国の金利上昇、イタリア発のEU政治不安などからの世界的なドル高がエマージング・カントリーの通貨安を引き起こしたものだ。とくにブラジルは5月最後の週にトラック運転手たちによる全国ストが起こり国民の経済活動は麻痺してひどい状況となりレアル安を加速した( 観光レートなど30%近く切り下がったが外貨資金繰りは全く問題なかった)。
  2. 5月の最後の週に起きたトラック運転手たちのストは燃料のデイーゼルの値上げ5%超に対しこれでは仕事ができないと主要幹線でトラックがストに入り瞬く間に全国に波及し、物流の65%を占める道路輸送が止まり、燃料、工業用部品、食料や医薬品、生活必需品などあらゆる物資供給がストップした。その結果、ガソリンスタンドや工場は閉鎖、パトカーやスクールバスは運休、スーパーの食料品など棚は空っぽ、病院は酸素ボンベなし、農家は絞った牛乳を破棄等々ブラジルの経済活動・生活は1種間にわたり停止した。この麻痺状態を解消すべくテメル政権は手を打ったのか、はっきりしないがメイレーレスたちが選挙のため退任した後の政府にはもはや緊急事態に対応する力がなかったのだろう。このストの損害額は莫大と見られるが実損以外にマーケットに与えたブラジルのイメージダウンは計り知れない。
  3. 2018年成長予測1%ダウン
    5月のトラックストの影響でGDP成長予測は年初の2.5~3%から1%下方修正されている。インフレ率は微増、政策金利Selicは6.5%据え置き、為替レートは年末には3.6レベルに。以下最新の中銀Focusレポートの予測をあげておく。

    「中銀フォーカスの予測」

    2018 2019
    成長率% +1.76 +2.7
    インフレ% 3.88 4.10
    政策金利% 6.5 8.0
    為替レート 3.63 3.60

    (注)中銀傘下の金融機関100社の予測平均値。インフレ率はICPA,政策金利はSeli為替レートは米ドルのレアル表示。政策金利と為替レートは各年末。

3 結び

GDPの13~14%の年金支出はドイツ(国民の税負担はブラジルと同じGDPの36%)より多くこのままでは払えなくなること、改革が不可欠なことをマスコミを総動員して国民に理解させることが国として急務だろう。良い点をたくさん持っているこの国が財政破綻しないよう改革実現を祈りたい。

(完)

すずき たかのり
ビジネス・アドバイザー、元ブラジル東京銀行頭取・会長、元デロイト・トウシュ・トーマツ最高顧問、前新東工業顧問、元サンパウロ州工業連盟Fiesp外資支援委員、スズキタカノリ経済ビジネスフォーラム創設者・サンパウロ、ブラジル関係講演・著書多数
ブラジル・サルバドール市名誉市民、日本倶楽部会員