執筆:桜井 悌司 氏
(日本ブラジル中央協会常務理事、元関西外国語大学教授)
4.大学生にラテンアメリカをより良く理解させるには
大学生活を数年経験している内に、どうすれば、学生にラテンアメリカを理解させることが出来るかを考えるようになった。真面目な講義や難しい講義をしても、なかなかついて来てもらえないことがわかってきた。そこで、種々の方法を試行錯誤で行ってみた。
1)オーデイオビジュアル手法を活用する
私の下手な講義より、各種ビデオやDVDを活用することにより、記憶と理解が深まる。とりわけ、短い場合は、5分から10分間、ビデオ、DVD、CDを流す。例えば、リオのカーニバルを流して、カーニバルのルールや見方を説明する。エクアドルの赤道直下の北半球と南半球でおこる水流の方向の違い、パナマ運河のメカニズム、タンゴ、サンバ、ボッサノヴァ、メキシコ音楽、キューバ音楽を聞かせる、世界遺産のDVDを見せる等々は効果的であった。30分とか40分の長いビデオの場合は、鑑賞後、感想文を書かせ、居眠りしていることがすぐにわかるようにした。怠りなく何年もダビングしてきたことが役立った。
2)極力参加させるようにする
次に考えたのは、どうすれば、学生に授業に参加してもらえるかということであった。学生は、先生が一方的に講義をしても、ほとんど頭に入っていない感じがした。そこで、受講生に、考えさせ、調査させ、質問させ、プレゼンテーションをさせることによって、学生の参加を促すことができるのではないかと気が付いた。そこで、上記のようにグループと座席を固定していたので、グループ別のプレゼンをさせることにした。半期15コマのコースの場合は、1回、半期30コマで大人数の場合は、2回、少人数(40名以下)の場合は、3回させることにした。以下、その方法を紹介する。
- プレゼンテーションが1回の場合
国別プレゼンテーションを行う。受講者数にもよるが、3~6名からなるグループにプレゼン日と国名を抽選する。学生には国を選ばせないことが重要である。なぜなら、自由にさせると好きな国を選ぶからである。国名は、ブラジル、メキシコ、コロンビア、アルゼンチン等々、原則10か国から12カ国を選ぶ。グループAは、例えば、チリ、○月X日の1番目というように抽選で決定する。留意事項は下記の通りである。
*プレゼンの持ち時間は20分とする。パワーポイントを使用する。
*プレゼンの内容の中で必ず含めなければならない項目を伝える。理由は、学生に任せると、世界遺産やお祭り等自分たちの好きなテーマや簡単な項目を選択するからである。私は、国の基本的な政治・経済・社会・歴史といった情報と日本との関係は、必ず含めること。後は自由とした。
*十分な調査時間が取れるように、1か月半から2か月前に、プレゼンの時期を伝えることとした。そして、私が昔、万国博覧会等でマスターした工程管理の方法を学生に教授した。
*調査に当たっての、情報源、例えば、外務省、ジェトロ、JICA、各国大使館等についても情報提供を行った。
*プレゼンは、全くその国を知らない他の学生にわかりやすく説明することを義務付けた。
- プレゼンテーションが2回の場合
国別プレゼンテーションで、ある程度の国別の情報を入手しているので、テーマ別のプレゼンを行うことにした。方法もいくつかある。例えば、経済、産業、貿易、政治、教育、貧困問題、社会、文化等々である。ここでも観光、世界遺産は原則取り上げなかった。テーマの決定は、各グループに任せ、同じテーマは認めず、先着順で決定していった。もう一つの方法は、旧大陸からもたらされた農産物、例えば、とうもろこし、トマト、かぼちゃ、じゃがいも、カカオ、たばこなどを同じく抽選で、産物とプレゼンの日を選ばせる方法をとった。それぞれの作物が旧大陸からどのように新大陸にもたらされ普及したかを説明させた。やり方は、1)とほぼ同様である。
- プレゼンテーションが3回の場合
前述のように、30回授業で、少人数の場合にのみ行った。2回のプレゼンでパワーポイントを作る技術や上手なプレゼンの方法をある程度マスターしているので、個人プレゼンとした。留意事項は下記の通り。
*プレゼンの持ち時間は5分とする。
*プレゼンの月日は抽選で決める。
* テーマは、全く自由とし、先着順に受付け、テーマのダブりは避けるようにした。それでも結構ダブリがあった。
- 他のグループのプレゼンを真剣に聞くための工夫
プレゼンをしている学生グループは真剣であるが、聞く方の学生は、集中して聞かないことが往々にして起こりがちである。そこで、下記の方法を実践した。
*私の方で、プレゼン評価表を作成した。
A4用紙に、学生の氏名、グループ番号、プレゼンするグループ番号、採点(5点満点)、総合評価、内容、プレゼンの技術・うまさ、チームワーク等を記入してもらい、評価表を出席簿とした。評価表をみると、学生の集中度が一目瞭然でわかるようにした。
*質疑応答時間を設ける
プレゼン終了後、各グループから質問させるようにした。質問は、各自2~3を用意するように指示した。恥ずかしがって質問をしない場合は、そのグループの構成している学生を指名して質問させるようにした。これによって、プレゼン・グループは、質問に対して、回答しなければならないので徐々に、質問を想定するようになった。また質問側のグループや学生も徐々に質問力をつけてきた。
5.その結果は?
1)最終授業でのアンケート調査にみる評価
各大学には、学期末に学生による評価がある。学生は匿名で大学が用意したアンケートにしたがって、記入し大学当局が集計し、各先生にフィードバックするシステムである。評価は常に大切であるが、このシステムには問題が多い。学生は匿名なので、かなりいい加減に回答する傾向にあること、また大学が用意するアンケート票もあいまいな質問が多い。私のように任期が決まっておれば、学生による評価が悪い場合でも、それほど気にすることはないが、将来の昇進に関わってくる講師や准教授は大変である。最初の年に1年生にスペイン語演習を教えたが、24名のクラスの2人から先生を変えて欲しいという評価がなされた。その後2人が1人になり、2年目からは、変えて欲しいという学生はゼロになった。少しずつ教授法が上達したと見える。
ラテンアメリカ関連の授業については、上記のような方式を2012年くらいから始めてみた。最初は試行錯誤であったが、PDCAサイクルを駆使し、少しずつ改善していった。2014年度の秋季授業については、大学の評価とは別に、私が目標とした項目の達成度を測るために、12月の最終授業でアンケートを行った。出席簿にするので当然記名式であったが、下記のような結果になった。
2014年秋季授業は、4クラスであった。スペイン語学科1年生対象の①「現代ラテンアメリカ」が2クラス、必須科目で、週1回の15コマで学生数は、22名と23名、スペイン語学科・英語学科1年生対象の②「ラテンアメリカ学」が、選択科目、週2回、30コマで、学生数は、48名、スペイン語学科・英語学科の全学年対象の③「ラテンアメリカ文化論」が選択科目で、週2回、30コマで学生数は、129名であった。
平均授業出席率は、上記4クラスの平均が、90.6%で各質問に対し、肯定的に回答したパーセンテージは、下記の通りである。
質問1 | ラテンアメリカについて基本的な知識がつきましたか? | 98% |
質問2 | 考える力がつきましたか? | 95% |
質問3 | 調べる力がつきましたか? | 98% |
質問4 | 協力して仕事を進める力がつきましたか? | 97% |
質問5 | 行動する力がつきましたか? | 92% |
質問6 | プレゼンテーション力がつきましたか? | 99% |
私も、大学での最終講義時であることもあり、①学生が少し遠慮して評価してくれた、②記名式アンケートなので学生の方で悪く書くと評価に左右されると考えた、③たまたま、学生との相性の良いクラスであった等が考えられるが、正直できすぎの結果であった。しかし、大学当局による匿名の学期末の私に対する評価は、私が期待したほどではなかった。
2)学生の関心をスペインからラテンアメリカにシフトさせる
関西外国語大学の強みの一つは、全世界の400にも及ぶ大学間の交換留学ネットワークである。世の中では、日本人学生の留学希望者が減少していると報道されているが、むしろ、当大学では、増加する傾向にあった。たまたま、私は留学委員であったので、留学の重要性を訴えた。そのために、職員と学生の協力を得て、A4で22ページの「スペイン、ラテンアメリカに留学する関西外国語大学の学生のための留学マニュアル」を作成した。その中には、①何のために留学するのか。②留学試験の準備、③合格してから留学までに行うこと、④留学中に心得るべきこと、⑤帰国後の勉強と就活対策である。第1稿を2013年春、第2稿を2014年秋に作成した。
それら一連努力の結果、スペインとラテンアメリカ留学者数は、2008年度、には、スペイン、16名、ラテンアメリカ、5名であったのが、2011年度には、スペイン、17名、ラテンアメリカ、23名、2013年度には、スペイン、22名、ラテンアメリカ、29名となった。