トーマツから山崎彰三公認会計士(現在 日本公認会計士協会会長)が派遣され、英語も現在とは比較にならないほど通じない環境の中で、苦労しながら、現地の進出企業のお世話をさせていただいた。当時はブラジルの税制なども細かい内容はすべてポルトガル語しかなく、資料もほとんどなかったことや、現地でのカルチャーショックもあり、苦労されたと聞いている。
トーマツはその時点ではトーシュロスインターナショナルのメンバーファームではなく、トーマツ独自での事務所開設であった。その後トーマツはトーシュロスのメンバーファームとなり、海外に日本人会計士を派遣することで国際的な会計事務所としてのノウハウを習得していくことになる。国際的な大手監査法人が合併を行っていくなかで、90年からトーマツのブラジルでのサービス提供はトーシュロスから現在のデロイトトーシュトーマツブラジル事務所を通じて行われている。国際的な監査法人のサービスを使うメリットは、いうまでもなくその情報ネットワークにある。世界中の会計労務、税制などの正確な情報を短時間のうちにクライアントに提供していくことで、より高度なアテンドが可能となった。日本の企業も、最近は情報の入手がそれほど困難ではなくなってきているため、進出前にマーケットや採算が取れるかなどのフィジビリテイースタデイーを、以前と比べるとよりしっかりされるようになった。
ところで、ブラジルの会計の歴史を思い起こすにつけ、避けて通れないのはインフレ会計であろう。ブラジルは、1970年代から90年代に、インフレによる購買力の低下を補うために、インフレに自動的にスライドさせて、貨幣価値や価格を修正していくインデックス経済を導入した。現在でもその名残は家賃契約などに残っている。最後は1ヶ月のインフレ率が40%を超えるようなハイパーインフレになったのであるが、貨幣価値の目減りおよび時価をどのように財務諸表に表していくか、会計税務に従事する専門家たちがいくども思考し、かなり完璧な確立した制度を作り上げたことは特筆すべきことがらと考える。
この価値修正会計は95年に廃止されたが、経済構造、社会的慣習から、1桁台とはいえ、インフレは先進国から見ると比較的高い指数で推移して現在も続いている。インフレに苦しめられた時代を知っている者としては、インフレが悪化して貨幣価値の下落を、経済活動のなかでどのように考えるかというインフレ会計議論が再熱するような環境にならないことを望むものである。
最後に、ブラジルの日本企業にサービスを提供する者として、日本からの移民の方々が築きあげた日系人の信用力が、日本から投資をしてくる企業に対し、計り知れない恩恵を与えていることをあらためて明記することで日系の方々に対し、この場を借りて深く感謝申し上げたい。デロイトブラジル事務所でも、日系人や日系社会に対する敬意からと思うが、ブラジル人が日本人に対し親近感を持って接してくれることを筆者は日々感じている。
日本人にとってポルトガル語というなじみの薄い言語のため、法律、制度について熟知し、日本、ブラジル両国の文化や習慣の違いを理解する日系の方々が、今後も日本とブラジルの架け橋となって大いに活躍されることを期待したい。