会報『ブラジル特報』 2009年11月号掲載
大竹 茂 (TAKATA-PEtrI S.A.社長) |
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昨年9月のリーマンブラザーズ証券会社の破綻に端を発した世界的な金融危機は、特に金融機関と自動車産業に大きな爪跡を残し、クライスラーとゼネラルモーターが破綻(Chapter11米国会社更生法を申請)し、政府の支援により再建を進めていることは広く知られている。このような国際経済の環境の中で、ブラジルはいち早く危機を脱し、自動車産業においても、本年1〜9月の新車の国内累計販売台数が昨年同時期を上回り、年間ベースでも過去最高となる300万台超えを予測するなど、好調に推移している。以下簡単ではあるが、ブラジル自動車産業の現状と展望について、私見を述べたい。 ブラジル自動車産業の現状 本年1〜9月の輸入車も含めた新車の国内累計販売台数は2,302千台で昨年同時期の2,209千台を上回った。
一方、輸出は国際経済の低迷を反映して本年1〜9月の実績は完成車、CKD(セミ・ノックダウン)を合わせて326千台と、前年同時期の572千台を43%程下回っている。
前述のとおり、乗用車・軽商用車部門の販売は前年を上回っているが、トラックやバス、それに輸出部門は前年実績を大きく下回った。トラックやバスの販売が伸び悩んでいるのは、販売対象先が企業であり、経済は回復基調にあるものの、まだ、新規購入や買い替えに慎重な姿勢を示しているためだと考えられる。 また、輸出については、基本的には近隣諸国を含め、世界経済の本格的回復が必要であり、また年初来レアルは対ドルで27.2%切上がっており(10月15日R$1.699/U$)、輸出不振の一因でもある。 (1)マクロ経済が底堅く推移していること ブラジル経済はリーマンショック後、GDPが2008年第4四半期には対前期比マイナス3.37%と大幅なマイナス成長に陥ったが、2009年に入り徐々に持ち直し、2009年第1四半期は対前期比マイナス0.97%,第2四半期は対前期比プラス1.91%となり、2009年度年間ベースでプラス1%まで回復するのではとの予想も出ている。 (2)個人消費が堅調なこと GDPの約6割を占める個人消費が堅調で、特に中間所得層の拡大が消費の拡大に繋がっていると見られている。
本年1月に、自動車販売を刺激するために政府はIPI(工業製品税)の減免を行い、9月まで継続したが、最も影響があったのは1,000cc以下の小型車で(IPI 7%をゼロに減免)、1〜9月で972千台を販売、前年同期比9.1%の伸びを示した。因みに1,000ccから2,000ccの車(Flex車はIPIを11%から5.5%へ、ガソリン車はIPIを13%から6.5%へ減免)の販売は833千台で、前年同期比2.4%の伸びだった。 (4)金融の拡大 昨年9月のリーマンショック後、ブラジルの金融機関も融資に慎重になり、自動車ローンについても融資条件が厳しくなったが、ブラジル経済がいち早く危機を脱出してきたこともあり、融資条件も元に戻ってきており、最長80ケ月のローンが組めるようになった。また金利も低下して、いろいろなファイナンスを組みやすくなっているのも、販売を下支えしている要因のひとつと考えられる。因みにANEF(自動車メーカー系金融会社協会)によると、本年上半期の販売形態は、現金42%,リース27%,クレジット26%,コンソルシオ5%である。 ブラジル自動車産業の今後の展望 最近、中国、インドと並び、ブラジルの好調さが頻繁に報道されるようになった。ブラジルは、政治的、経済的、社会的にも安定しており、なんといっても豊富な資源と大きな市場を有する強みがある。自動車産業は高い技術力を要する裾野の広い産業であり、ブラジルはかなりのノウハウを蓄積してきている。 また自動車産業は今やグローバルベースでの経営がなされて、人材の交流も頻繁に行われ、実務を通しながら相互に技術移転が行われている。ブラジル自動車産業はこれからも国内市場の拡大と各自動車メーカーのグローバル戦略の重要な拠点としての役割を担っていくものと考えられる。最後に、これまでに公表された主要メーカーの投資計画を掲載する。 1)フォルクスワーゲン 生産拡張計画 2009年90.5万台を2011年には110万台へ。投資計画16億ドル 2)フィアット 生産拡張計画 2009年75万台を2011年には100万台へ。投資計画25億ドル 3)GM 生産拡張計画 2009年66万台を2011年には81万台へ。 4)フォード 生産拡張計画 2009年45万台を2011年には65万台へ。投資計画11億ドル 5)トヨタ 生産拡張計画2009年6.5万台を2011年には21.5万台へ。 |