執筆者:小川善久
新年あけましておめでとうございます。2016年は世界的にも個人的にも様々なことがありました。
世界情勢で言えばアメリカの大統領がトランプ氏になったことは皆様の最大の関心事ではなかったでしょうか。私に関して言えば、記念すべきリオ・オリンピックの開会式に参加したことです。
ただ、オリンピック直前までは開会式に出ようという考えはなく、出張のついでにリオの雰囲気でも体感してみるか?と言った程度でした。ところがオリンピックを間近に控えた頃の日本のメディアの報道姿勢は、「ブラジルは危険」「オリンピックは準備不足」のコメントのオンパレード。さらに「ジカ熱(正式にはジカウィルス感染症)」を危惧してプロゴルファーが参加見送りになるなど、治安・インフラ・衛生面の三点セットで不安を煽っていました。
確かに、10万人あたりの殺人件数のデータ(2014年UNDOC参照)だけ見ると、ブラジルは24.6件、日本の0.31件と比べると実に79倍になりますが、世界平均に近いフィリピンでも9.9件で日本の32倍にもなるわけで、日本の数字が驚異的に低いわけです。また、北京のオリンピック直前もそうでしたが、日本のような計画的な国民性とは違い、大概は土壇場に一気に仕上げるのがグローバル標準なわけで、準備不足や不備を取り上げては南米初のオリンピックを蔑むような報道に違和感を覚え、「事件は現場で起きている!」との信念を実践すべく思い切って日本円で10万円もする開会式のチケットを購入しました。私の小遣いからすればまさに崖から飛び降りるような額でしたが、結果的には実に安い買い物、価値のある一枚になりました。
開会式の前日にリオに乗り込みましたが、夜の空港には写真のようなマスコットがお出迎え、心配していた治安も至る所に警察だけではなく軍隊も出動していて、開会式当日も含めると、この時期のリオがブラジルで一番治安がいいのではと思えるくらいでした。当日のマラカナンスタジアムには混雑を予想して早目に行きましたが、これがブラジル時間と言うのでしょうか、開会の時間が迫ってもスタンドは空席が目立ち、やはりマスコミの言うとおりリオのオリンピックは成功しないのか?という不安が脳裏をかすめましたが、挨拶やオープニングの音楽が流れ始めた頃には続々と人が押し寄せ、選手の入場行進の頃には超満員に膨れ上がっていました。
入場行進では、欧米の人気国や南米諸国には大歓声が起こるのですが、日本の行進の時には一際大きな声援をいただき日本人として嬉しかったです。そしてブラジル選手団入場はもう鳥肌が立つくらいの大歓声で、回りのブラジル人は歓喜し、抱き合い、涙を流す人まで・・・私もなぜか「見たか!このブラジルの底力!」とマスコミへの皮肉も込めて叫んだものです。「やればできる!」の言葉の通り、後に日系移民の方のご家庭で見ることとなった閉会式も含めて、オリンピックの向こうにブラジルの未来が私には見えました。
もちろん、2017年に入っても、ブラジルの政治は不透明でペトロブラス問題に端を発した政治家の汚職疑惑は鎮火していませんし、その影響で大きく崩れた経済も自動車販売などは停滞したままです。が、ブラジルはご存じのように「持てる国」です。資源があり、食料があり、水があり、人口があり、何より民主主義が確立しています。新興国の成長を妨げようとする勢力による邪魔が入ったとしても、あのオリンピックに見た完成度と熱意を見れば、緩やかだとしてもブラジルは必ずまた成長していくと確信しました。日本のメディアのマイナス報道や、ここ数年の落ち込みだけを指標にブラジルから撤退した日本企業もいますが、実に下手な手を打っていると感じます。一方で中国人は、ブラジルが株安、通貨安になればチャンスとばかりに進出してきます。
日本の経営者の方も是非「事件は現場で起きている!」を実践していただき、ブラジルに足を運んでいただきたいものです。多分、私の人生で最初で最後になるであろうオリンピックの開会式を通じで、この先も関わっていくブラジルの将来性を改めて実感した次第です。
動画《開会式のフィナーレ直前の花火に感動》
https://www.youtube.com/watch?v=nyg4IX7Pw6Y