執筆者:川上 直久 氏
(日本ブラジル中央協会理事)

 私が初めてブラジルの地を踏んだのは1973年3月のことでした。大学で4年間ポルトガル語を勉強した私はそれなりの自信はあったものの、当初の数ケ月は現地の人のポ語が聴き取れずかなり苦労しました。しかし慣れるに従い、少しずつ理解出来るようになり、自信を取り戻してきました。ところが当時リアウインドウにCalma! Tem 22 carros em frente de mim.というステッカーを貼った車がリオの街を走っているのを良く見かけましたが、これは一体どういう意味なんだろう、とまったく理解できませんでした。あとで会社の日系社員に訊いたところ、これは非合法ながら庶民に人気のあったJogo do Bicho(動物富くじ)に由来しているものとのこと。動物富くじは第1組Avestruz(ダチョウ)から第25組Vaca(雌牛)までほぼアルファベット順にあるのですが、第24組Veado(鹿)には「おかま」の意味もあることはみなさんご承知の通り。つまり上記のステッカーの文言は「私の前に車が22台ある‐ということは、私の車は23台目、お前さんは24台目ということ」であり、「落ち着け、おかまよ。俺の車のけつを掘ってくれるな(=追突するな)」という意味であると知った時はブラジル人のユーモアの感覚に感心した次第でした。

 

ところで上述のJogo do Bichoですが第1組から第25組まではそれぞれ以下のbichoに組分けされています;1) avestruzダチョウ2) águia わし3) burro ロバ 4)borboleta 蝶 5) cachorro 犬 6) cabra やぎ 7) carneiro 羊 8) camelo ラクダ 9)cobra 蛇 10) coelho ウサギ 11) cavalo 馬 12) elefante 象 13) galo 雄鶏 14) gato 猫 15) jacaré ワニ 16) leão ライオン 17) macaco サル 18) porco 豚 19) pavão クジャク 20) peru 七面鳥 21) touro 雄牛 22) tigre トラ 23) urso クマ24)veado 鹿 25) vaca 雌牛。このように動物(animal)から昆虫(inseto)まで幅広く挙げられていますが、違和感を覚えるのは私だけではないと思いますが…。つまり犬、猫、雄鶏はまだよいとしてなぜ蝶、やぎ、雌牛などを入れたのでしょうか。例えば最後の雌牛に替わって25)zebra シマウマとした方がアルファベットの最後の文字でもあり、遥かに相応しいと思うのですが…もうひとつの大衆に人気のあるloteria esportiva (スポーツ宝くじ=毎週土・日 に行われるプロサッカーチームの試合を13試合選び、その勝ち・負け・引き分けを当てるくじで、3の13乗の組み合わせがあり、正解者が居ない場合は翌週に持ち越されるため賞金額が莫大になる)では試合前の予想で勝って当然と思われるチームが負けた場合に”Olhe aí, Ze~bra!” 「ありゃ、こりゃ番狂わせだ~!」と日曜日夜のバラエティー番組で画面片隅にシマウマの漫画が出てきてがなり立てていたものでした。と、いうわけでzebraはブラジル人にとり非常におなじみの言葉なのです。

 

ブラジルではビンゴ・ゲームが非常に盛んです。ほかにもAmigo Oculto (秘密の友人)というゲームもあり、会社のFesta de Natal では必ずと言ってよいほどどちらかのゲームが行われます。ここではブラジルのビンゴ・ゲームについてお話ししたいと思いますが、日本のそれのようにただ引かれた番号を読みあげるのではなく、ひとひねりした番号の読み方をします。例えば「51」は”Boa Ideia !” と言います。これはブラジルで大量生産されているピンガのブランド名で、TVの宣伝で「51(シンクエンタ・イ・ウン)!Boa ideia !」とやっていることから、ブラジル人はBoa ideia !と聞くと反射的に「51」を連想するからなんです。因みに東京にあるChurrascariaでカイピリーニャを注文すると大抵はこの「51」を使って作っています。また先述の「24」の場合は先述のケースに習いおかまっぽい男性社員(仮にA君とします)の方を向いて「次はA君の番号で~す」などと言ったりして笑わせてくれます。さてDois patinhos da lagoa と言ったらいくつのことか、お判りですか?そう、「22」です。

 

superとhiperが元々同じ意味(「超」「とても優れた」とか)の単語だったことご存知でしょうか。superはラテン語、hiperはギリシャ語を語源としていますが、本来まったく同じ意味だったとのこと。しかし現在のブラジルではsupermercadoといえば普通のスーパーマーケットで、概して街中にあります。一方hipermercadoといえば大都市の郊外にあり、大型駐車場を備え、商品の種類・数でも普通のスーパーマーケットを各段に凌ぐ大型スーパーマーケットの意味で使われる傾向にあります(hipermercado≫supermercado)。この違いはいまではふつうに受け入れられており、『言葉は生きている』ことを実感させてくれます。因みにhiperinflaçãoは存在してもsuperinflaçãoという言葉は存在しませんし、supercomputadorは存在してもhipercomputadorという言葉は存在しません。super-homemという言葉はあってもhiepr-homemがないのと同じことです。

 

ブラジルに在住していた人や旅行で行ったことのある人は経験済みかと思いますが、道路を車で走っているとき、道路の一部が平たい蒲鉾のように突起(幅:道路の横幅一杯、長さ150~200cm、高さ8~10cm)しているのに気づくことがあります。これはそこを通る自動車やオートバイの速度を強制的に落とさせる仕掛けで、交通事故軽減のためのブラジル人の知恵といえます。特に学校、病院、住宅街等に多くあり、住民が道路を横切り易くする効果も絶大です。この仕掛けは普通 lombada と呼ばれていますが、この存在に気づかず普通の速度で乗り上げると自動車やオートバイのスプリングを壊しかねないことから別名quebra-molas(スプリング・ブレーカー)とも呼ばれています。他にもobstáculoとかredutor de velocidadeなどの呼び方もあります。もちろんlombadaの手前30~50mには「前方にlombadaあり」との標識はあるものの、夜間等結構見え難く、乗り上げて事故を起こすことも…。

 

ホタルは通常pirilampoかvaga-lumeと呼ばれています。日本のホタルと同じように腹部後方の発光器が光るのが普通ですが、アマゾン地方には頭部が光るホタルが居るとのこと。ただし私の友人の中で頭部の光るホタルを見たことのある人は皆無!果たして本当に居るのか、居るなら是非一度は見てみたいものです。ところでブラジルの東北部ではホタルのことをmosca-de-fogo とも言うようです。なるほどと頷けます。

 

罷免されたDilma Rousseff大統領はブラジル連邦共和国の第36代大統領でした。では「Dilma Rousseff大統領は何代目の大統領ですか?」という疑問文はどう言うのでしょうか?この答を求めて2年前に訪伯した折に20名ほどのブラジル人の友人に訊いてみましたが、誰も答えられず、結局”O que é que é Dilma Rousseff ? ”で良いのでは、なんて呆れた答が出る始末。当時私の出身会社のサンパウロ支店で働いていた日本語・ポ語ともに堪能な日系社員に訊いたところ、ブラジルではそのような概念自体がない、とのことでした。昨年二宮正人弁護士に訊いたところ、彼も上手い翻訳はない、とのことでした。色々考えた結果、Qual é a ordem cronlógica de Dilma Rousseff como Presidente da República Federativa do Brasil ? ではどうかな、と思いついた次第。どなたかもっと適切な表現あったら教えてください。