執筆者:田中 美果 氏
(輸出入サービス・フローラズール 代表)

今回、連載エッセイに執筆させて頂く機会を頂き深く感謝申し上げると同時に、他の方々のようにアカデミックで専門性の高い内容ではないことに不安を感じていますが、普段私が携わっているブラジルとの商取引において感じるブラジル人の気質について書きたいと思います。少々主観的な見解であることはご容赦頂きたく存じます。

現在、私は輸出入事業をメインとした貿易会社を経営しております。取引先はブラジル、中国、韓国、ヨーロッパ等ですが、その中で公私ともに一番長く関わった国が「ブラジル」です。大学の時の専攻学科がブラジルポルトガル語であったこともあり、当時としては珍しくブラジル文化には親しんでいました。卒業後は大手メーカーの国際事業部に就職しましたが、会社がブラジル現地工場設立、中南米市場の拡大をすることになったために担当部署に配属され、ブラジル中心に中南米ビジネスに関わることになりました。同社退職後はしばらくブランクがありましたが、ご縁があってブラジルビジネスに関わることとなり、又、在日ブラジル商業会議所の関西エリア委員会を担当することになりました。

一般的にブラジル人気質と言えば、「陽気、情熱的、おおらか」といった点が挙げられますが、「プライドの高い国民性」についてはあまり語られることなく、またこの点を理解することがブラジル人との円滑なコミュニケーションにおいて、いかに重要であるかを強く感じています。日本社会の商取引では顧客の立場が強いことが普通、又、会社内では上司の指示に従うことを常識とする傾向にありますが、ブラジル人との交流においてはこのスタイルが通じないケースが多々あります。相手がお客様であっても、上司でもあっても対等な立場で主張し、時としては上から目線の態度をとることさえあります。当方が顧客の立場でブラジルのメーカーと交渉する上でも、「欲しければ商品を見に来れば?値段が気に入らなければ他で買えば?」などといった横柄な返答が来ることもよくありますし、こちらからの発注が遅ければ、商品のエンドユーザー宛に「いつになったら注文くれるの?」といったメールを送りつけて来たこともありました。日本の取引先からは「何故、客である我々が怒られるのか理解できません。我々はお金を払う側ですよ。やはり地球の反対側の人たちの取引は無理!」とクレームを言われて、お詫びに参上し、「相手がどんなに偉い人でもフェアーな立場で主張する社会で、彼らのプライドの高さは日本人には理解できないこともあると思います。全て弊社で対応しますので、今後はご安心ください」とブラジル人気質について説明したことも何度かあります。顧客が求めるものを提供し、それに見合った金額と交換、企業が必要とする労働力を提供しその対価を受け取る、お互いの立場はフェアーです。顧客が納品先に、企業側が従業員に上から目線で指示しようものなら、抵抗し文句を言うのがブラジル人のスタイルです。

以前に駐日ブラジル大使館主催のセミナーで当時の大使が「日本の閣僚よりブラジルに技術援助をしたいとの発言があったが、援助などではなく相互協力という言葉が欲しかった」と述べられたことがありました。日本の最先端の技術が学べると聞けば、多くの新興国は歓迎するのが普通ですが、プライド高いブラジル人としては上から目線で「技術を教えてやる」と言われたように感じたのでしょう。セミナー後にある中南米専門家と大使の発言に関して話す機会があり、「その日本の閣僚はある意味、ブラジル人に対して一番言ってはいけないことを言ってしまったのですね」と、一緒に苦笑した覚えがあります。

日本のサービスの質に対する評価は高く、それに慣れるとブラジルの商店での対応には戸惑うことが多いです。事実日本に10年以上住んだ経験のある私のブラジル人ビジネスパートナーは、帰国したころ「こちらのサービスはひどいよ!客をほったらかしにして自分たちはお喋りしているし、人の話を聞かない!」といつも文句を言っていました。まずは自分自身の楽しみが大事、ブラジル人にとって「お客様は神様」なんて言葉は意味不明でしょう。日本の顧客を優先させる風潮が無理難題を押し付ける「モンスター客」、日本人の勤勉な気質が「ブラック企業」を育てているのではないかと考えると、自分自身が一番大事、誰に対しても対等な立場で主張するブラジル人気質を見習うべきではと思うこともあります。

プライドの高いブラジル人気質は豊かな天然資源に恵まれた大国であることが原因と言われています。多くのブラジル人が「そこがブラジル人の悪い所、だから経済が発展しない」と言います。「裕福な家に生まれて、何の苦労もなく育った人間が努力をしないのと同じ」という面白い例えで説明してくれたブラジル人もいました。昨今のブラジル経済の悪化は世界情勢の影響が強いですが、根本的にはブラジル人気質が影響しているのかもしれません。

日本人に理解しがたいブラジル人のプライドの高さを考慮することがブラジルビジネスにおいては語学力以上に重要であることを日々実感しています。