ブラジル特報2018年9月号

『最初の物語』(J・ギマランイス・ホーザ著、高橋都彦訳)
最初の物語 (ブラジル現代文学コレクション)

作家ギマランイス・ホーザの作品は難解なことで知られ、文学研究者から「ポルトガル語のジェイムス・ジョイス」と称されるが、水声社版「ブラジル現代文学コレクション」の第四弾は、このホーザの短編集だ。収録されている佳作『第三の川岸』はモザンビークの作家ミア・コウトに「人生を変える」ほどの激震的インパクトを与え、ネルソン・ペレイラ・ドス・サントス監督によって映画化もされている。味読する価値のある名作集だ。

水声社
2018 年5 月 271 頁 2,200

 

『移民の魁傑・星名謙一郎の生涯』(飯田耕二郎著)

移民の魁傑・星名謙一郎の生涯―ハワイ・テキサス・ブラジル青山学院で学びキリスト教伝道師としてハワイへ移民し、その後テキサスへ転進した後、ブラジルの初期移民のリーダーとして活躍した星名謙一郎。
言論人としては邦字紙『週刊南米』を発行し、サンパウロ内陸部の開発(ブレジョン植民地経営)でも実績を残しているが、今ではほとんど忘れ去られている。1926 年事故死しアルバレス・マシャードに眠る星名に関する初めての本格的評伝だ。長年に亘る史料調査や関係者取材を踏まえた労作だ。

不二出版
2017 年11 月 330 頁 3,800 円+税

 

『移民政策のフロンティア』(移民政策学会設立10周年記念論集刊行委員会編)

移民政策のフロンティア――日本の歩みと課題を問い直す
2008 年に創設された移民政策学会が設立10 周年を記念して学会の総力をあげて集成した論考集だ。多文化共生政策の展開と課題、出入国政策をテーマ毎に論じ、社会統合政策では外国人学校の事例として朝鮮学校やブラジル学校についてコンパクトに叙述している。第5 章の、10 周年記念座談会を読むと、この現会員数400 名の学会
が、法学者から提起されて創設され、学際的に「日本の歩みと課題を問い直す」姿勢で一貫していることがわかる。

明石書店 
2018 年3 月 292 頁 2,500 円+税

 

『ラテンアメリカ所得格差論』(浜口伸明編)

ラテンアメリカ所得格差論―歴史的起源・グローバル化・社会政策 (アジア環太平洋研究叢書)①所得格差問題からラテンアメリカを視る意義と意味、②ラテンアメリカにおけるグローバル化と所得格差の関係、③ラテンアメリカにおける所得分配と社会政策、④ラテンアメリカの格差社会に対抗する連帯経済という選択、⑤メキシコにおける所得格差の変遷、⑥ブラジルにおける経済発展と格差縮小の要因、が各章のタイトル。第六章で、ブラジル経済史における所得分配構造をマクロで把握したうえで発展と格差縮小の共存を論じている。

国際書院 
2018 年8 月 256 頁 3,500 円+税

 

『ネイマール ピッチでくりだす魔法』(マイケル・パート著、樋渡正人訳)

ネイマール: ピッチでくりだす魔法 (ポプラ社ノンフィクション)ロシアW 杯でブラジルは準々決勝で敗退したが、ブラジル国民の希望の星ネイマールは“過剰倒れ込みパフォーマンス”を連発しすぎ、世界中の子供たちが“ネイマールする”ことを真似てしまった。そんなマイナスイメージが付いてしまったネイマールだが、本書を読むと彼の天性の天真爛漫さと練習によって鍛え上げられた足の技術の“カクテル”の魅力に惹かれることになる。小学校中級以上を対象とするポプラポケット文庫の一冊。

ポプラ社 
2018 年4 月 208 頁 700 円+税

 

 

 

 

ブラジル特報2018年7月号

『移民の町サンパウロの子どもたち』(ドラウジオ・ヴァレーラ著、伊藤秋仁監訳)

移民の町サンパウロの子どもたち刑務矯正医官としての体験に基づく話題作『カランジル駅』はバベンコ監督によって映画化されたが、その著者は医師にして大学教授、さらには作家にしてテレビ解説者としても活躍している。そんなマルチ才人の児童文学作品「ブラースの町で」は1940 - 50 年代のサンパウロを活写しているが、これをテキストにしていた社会人講座の勉強の成果がこのほど一冊になった。翻訳(共訳)+訳語解説+ブラジル事情解説という三部構成になっている。

行路社
2018 年3 月 196 頁 2,000 円+税

『日本人と海外移住』(日本移民学会編)

日本人と海外移住――移民の歴史・現状・展望「移民の歴史・現状・展望」についての論稿が複数収録されている論集。ブラジル関連では、第5 章ブラジルの移民政策と日本移民(三田千代子)が、ブラジル史における人種主義と外国移民との関連を論じ、第9 章在日ブラジル人/デカセギ移民(アンジェロ・イシ)、は在日の「日系/ブラジル系」移民が歴史的には二面性があることを明らかにしている。北米・南米・アジア・満州移民について、改めて多面的かつ多義的に考察されている。

明石書店
2018 年4 月 302 頁 2,600 円+税

『ブラジル映画史講義』(今福龍太著)

ブラジル映画史講義: 混血する大地の美学「移民の歴史・現状・展望」についての論稿が複数収録されている論集。ブラジル関連では、第5 章ブラジルの移民政策と日本移民(三田千代子)が、ブラジル史における人種主義と外国移民との関連を論じ、第9 章在日ブラジル人/デカセギ移民(アンジェロ・イシ)、は在日の「日系/ブラジル系」移民が歴史的には二面性があることを明らかにしている。北米・南米・アジア・満州移民について、改めて多面的かつ多義的に考察されている。

現代企画室
2018 年5 月 472 頁 2,700 円+税

『被抑圧者の教育学 50 周年記念版』(パウロ・フレイレ著、三砂ちづる訳)

被抑圧者の教育学――50周年記念版識字教育における「意識化」、「銀行型教育ではない問題解決型教育」といったタームによって世界の教育思想界にインパクトを与えたフレイレ(1921-1997)のポレミックな教育哲学書も今や半世紀を迎えた古典になった。ポルトガル語からの新訳(2010 年)に、米国で刊行された「50 周年記念版」に付された「まえがき」「あとがき」「複数の研究者とのインタビュー」を加えた特別記念版がこの度刊行された。

亜紀書房
2018 年5 月 406 頁 2,600 円+税

『話したくなる世界の選挙~世界の選挙をのぞいてみよう』(コンデックス情報研究所著)

話したくなる世界の選挙―世界の選挙をのぞいてみよう世界各国の選挙制度の特徴を図解入りで紹介・解説している中高生向けの
ムック本。世界の法制事情に詳しい太田雅幸弁護士が監修しているので、正確にして客観的な叙述になっている。
話したくなるランキング1 位はオーストラリア、その理由は投票率の高さ。
2 位に選ばれたのがブラジルで、選挙権は18 歳からだが希望すれば16 歳で選挙権を取得できるから。世界第2
位に評価されたブラジルの総選挙は今年10 月だ。

清水書院
2016 年8 月 143 頁 2,376 円+税

ブラジル特報2018年5月号

『地図で見る ラテンアメリカハンドブック』(オリヴィエ・ダベーヌ著、太田佐絵子訳)

地図で見るラテンアメリカハンドブック大きく6 章(歴史の遺産、広大な土地・資源・入植、発展―安定と不安定、文化と革命、政治体制、ラテンアメリカと世界)に分け、ラテンアメリカ諸国をマクロとミクロ両面からあぶり出している。歴史地図や図表を多用した解説が特徴。米国の歴史的影響力はもちろん、「ラテンアメリカ征服に乗り出す中国」についてもコンパクトに叙述されている、フランスの研究者(パリ政治学院教授)による最新ラテンアメリカ案内(原著2016 年)だ。

原書房 2017 年12 月 165 頁
2,800 円+税

『世界イディッシュ短編選』(西成彦編訳)

世界イディッシュ短篇選 (岩波文庫)世界各地に離散した東欧系ユダヤ人によるイディッシュ語文学の“世界性”を感得できる短編集。作家たちの活動場所は欧州、米国、アルゼンチン、南アフリカ、ブラジルなどだが、作家ロゼ・パラトニクの『泥人形メフル』はリオに移住した主人公がフラメンゴやコパカバーナで行商をしながら恋人に出会って、とブラジル社会における生き様をユーモア交え描く佳品だ。これはイディッシュ語表記によるブラジル文学ともいえるだろう。

岩波文庫 2018 年1 月 345 頁
920 円+税

『移民が紡ぐ日本』(河原典史・木下昭編)

移民が紡ぐ日本―交錯する文化のはざまで日系移民研究の進展をめざした共同研究論集。全9 章から成るが、第三章の半澤典子「ブラジル移民知識人香山六郎の言動―移民俳句と日本語新聞を通して」は、邦字紙『聖州新報』を発行した言論人として知られる香山六郎が、現地の環境・風土に合ったブラジル風俳句を創作した俳人でもあることを明示した、貴重な論文だ。確かに、ホトトギス派の日本俳句崇拝主義とは異なるブラジル移民文芸を志向した特異な知識人なのだから。

文理閣 2018 年3 月 260 頁
3,000 円+税

『外地巡礼「越境的」日本語文学論』(西成彦著)

外地巡礼博覧強記の比較文学者による「外地の日本語文学」の拡散、収縮、離散を論じた著作だが、この研究対象にはブラジル日本語文学も含まれる。1920 年代から本格的に展開されてきた「コロニア文学」だが、「ブラジル社会への同化が進んだだけ、その同化方向の多様性が、ブラジル日本人が同胞を見る目の多様化をあおるかたちとなって」いるが、著者は戦後移民作家リカルド・宇江木の歴史長編『花の碑』で描かれた歴史観に注目している。

みすず書房 2018 年1 月 303 頁
4,200 円+税

新盤紹介

『ウン・コルポ・ノ・ムンド』(ルエジ・ルーナ)

アフロ・バイーアの新潮流を代表するルエジはサルヴァドール生まれの若手(30 歳)シンガー・ソングライター。
このファーストアルバムに収録された曲のほとんどが彼女のオリジナルで、カンドンブレのリズムからノルデスチ音楽に通じるものまで多様なアフロのリズムに、アフロ・ブラジル宗教色に富む歌詞が融合している。バイーア出身ミュージシャンが昨年リリースしたアルバム約150 枚のなかで音楽批評家たちが一位に選出したものだ。

インパートメント 2018 年2 月
3,000 円+税

 

ブラジル特報2018年3月号

『珈琲( コーヒー) の世界史』(旦部幸博著)

珈琲の世界史 (講談社現代新書)快著『コーヒーの科学』でコーヒー好きの理系頭脳を唸らせた著者が、今度は、歴史好きな文系頭脳にコーヒー並みの覚醒・興奮という薬理効果をもたらす「コーヒー通史」を書きあげた。コーヒーの発見からイスラム世界~欧州~世界への普及、はもちろん、昨今の日本におけるスペシャルティコー
ヒー需要も、栽培・生産サイドの各国別歴史についても薀蓄が語られる。著者は医学博士であるが、コーヒー特任博士であることも自ら証明した。

講談社現代新書 2017 年10 月
254 頁 800 円+税

『老練な船乗りたち』(ジョルジ・アマード著、高橋都彦訳)

老練な船乗りたち―バイーアの波止場の二つの物語 (ブラジル現代文学コレクション)ブラジル現代文学コレクション第二弾。文豪アマードの、社会主義リアリズムで一貫した前期作品群とは対照的に政治色が霧消した後期作品群のなか
でも玄人筋の評価が高い小説。副題が
「バイーアの波止場の二つの物語」となっているように、バイーアの近海や遠洋で活躍した船長らの冒険談やら恋愛物語やらが、豊饒な文体で語られる、アマード流魔術的リアリズム文学作品だ。1978 年に刊行された旺文社文庫版の改訳版。

水声社 2017 年11 月
372 頁 3,000 円+税

『ラテンアメリカ500 年』(清水透著)

収奪された大地―ラテンアメリカ500年
「考える歴史学」を唱え、かつて『コーラを聖なる水に変えた人々』(1984年)という画期的なメキシコ史研究書によって「インディオ証言に基づくリ
アルな歴史」叙述を行ったベテラン歴史学者によるラテンアメリカ史公開講座の活字化である。ブラジルは、黒人奴隷問題など部分的に触れられているだけだが、ラテンアメリカ史総体を体系的にとらえており、読む者を惹き込む語りの妙味を感得できる作品となっている。

岩波現代文庫 2017 年12 月
322 頁 1,200 円+税

『家宝』(ズウミーラ・ヒベイロ・タヴァーリス著、武田千香訳)

家宝 (ブラジル現代文学コレクション)ブラジル現代文学コレクション第三弾。女流詩人・作家ズウミーラ・ヒベイロ・タヴァーリスの代表作で、芥川賞ブラジル版といえるジャブチ賞の受賞作品。女主人公マリア・ブラウリアが少女時代から老女に変わっていくプロセスを錯綜的に小説化した作品だが、全ての登場人物が複数の顔を持ち、あとがきで「タヴァーリスの濃密で複合的なテクストをそのまま日本語に置き換えることは不可能」と訳者が告白するほどの手ごわい小説だ。

水声社 2017 年12 月
141 頁 1,800 円+税

『カヌードスの乱』(住江淳司著)

カヌードスの乱――19世紀ブラジルにおける宗教共同体9 世紀末バイーア奥地のカヌードスで展開された千年王国運動は政府軍との軍事対立によって死者2 万人以上という実質的な内戦として終結した。
ノーベル賞作家バルガス・リョサは『世界終末戦争』においてこの悲劇をフィクション化して描いたが、本書は日本における最初の本格的なカヌードス研究書である。但し、「反乱」は住民側からでなく政府側が押しつけたもの故、今日の歴史学では「カヌードス戦争」と呼称するのが通例となっている。

春風社 2017 年12 月
265 頁 3,200 円+税

ブラジル特報2018年1月号

『写真家三木淳と「ライフ」の時代』(須田慎太郎著)

写真家 三木淳と「ライフ」の時代かつてメディア世界をリードした報道写真誌「LIFE」の、日本人唯一の正規契約カメラマン三木淳は、報道写真家として朝鮮戦争も1950 年代のアメリカも記録したが、ブラジルやメキシコにおける先駆的な仕事でも知られる。移民50 周年祭(1958 年)以降10 年もブラジルに通い続けた成果は、写真集『サンバ・サンバ・ブラジル』(1967 年刊)に集約されたが、このほど刊行された評伝でもこの辺の仕事ぶりが冷静な筆致で叙述されている。

平凡社 2017 年9 月
445 頁 3,400 円+税

『LINA BO BARDI』(和多利恵津子監修)

リナ・ボ・バルディ1946 年イタリアからブラジルに移住した建築家リナ・ボ・バルディは、自邸「ガラスの家」やMASP( サンパウロ美術館)、SESC ポンペイア、などの建築作品を生み出し、市民に開かれた建築を追究した。彼女の社会派モダニズムが国際的に認知されるのは、つい最近でしかないが、国際的に著名な建築批評家でもあるアンドレ・コヘア駐日大使は序文において、この遅れて来た国際的評価を正視している。リナの全貌が収められたヴィジュアル本だ。

TOTO 出版 2017 年11 月
288 頁 4,300 円+税

『エルドラードの孤児』(ミウトン・ハトゥン著、武田千香訳)

エルドラードの孤児 (ブラジル現代文学コレクション)水声社版ブラジル現代文学コレクションの第一弾。現代のブラジル文学を代表する作家ハトゥンは、サンパウロ大学建築学部を出てから文学研究に転進し、カリフォルニア大学でも教壇に立った大学教授だ。その代表作が描く世界は、出身地マナウスに巨万の富をもたらした20 世紀初めのゴムブームを背景に一財産を築いたアルマンドとその遺産を食いつぶす息子アルミントの物語だ。日系人も登場し、近代とアマゾン的神話世界が交錯する。

水声社 2017 年11 月
188 頁 2,000 円+税

月刊『思想』2017 年12 月号(E・ヴィヴェイロス・デ・カストロ特集)

レヴィ=ストロースは唯物論哲学研究から人類学研究に転進し、構造主義人類学の山脈を構築したが、その弟子ヴィヴェイロス・デ・カストロ教授(リオ連邦大学・国立博物館教授)は人類学研究から哲学(相対主義的認識論)研究へ新地平を切り拓いている。主要著作『食人の形而上学』、『インディオの気まぐれな魂』が邦訳されているカストロ教授のポスト構造主義哲学をめぐる、気鋭の研究者たちによる論稿集だ。

岩波書店 2017 年11 月
131 頁 1,400 円+税

『抵抗と創造の森アマゾン 持続的な開発と民衆の運動』(小池洋一・田村梨花編)

抵抗と創造の森アマゾン: 持続的な開発と民衆の運動本書刊行を支援したマリナ・シルヴァ元環境大臣からの寄稿文のタイトルが「日没する国から日出ずる国への教え」となっているが、これまでのアマゾン開発の在り方を批判し、持続的開発のための対案としてアグロエコロジー、アグロフォーレストリーを提示し、さらには先住民の現状や土地なし農民運動を論じている。セラード開発に象徴される工業型農業がもたらす環境破壊へのオルタナティブ構築を目指す論集である。

現代企画室 2017 年11 月
319 頁 2,700 円+税