執筆者:五十嵐・松酒・早苗・クリスチーナ氏
(サンパウロ市 松の実学園 日本語教師)

2016年より、サンパウロ州ビラ・ローボス・サンパウロ州立図書館に日本語の図書を寄贈する活動をしています。その経緯と困難さも含めて、簡単にお話しさせていただきます。私は1988年から、サンパウロで日本語を教えています。サンパウロは、日本語の図書が一番豊富にあるように見えますが、それは移住者が船で持ってきたものや、こちらで継承教育と思って高い金額を支払って購入した図書があるからだと思います。また大切に保管されている図書もありますが、それは研究者を対象としたものなので、ごく限られた人の手にしか届きません。

 

現在サンパウロ市で日本語の書籍を取り扱っている書店は3店で、主に駐在員とアニメファンと日本的な趣味(園芸、書道等)を持っている人が購入している感じがします。値段も日本で買うより3倍以上の価格なので、良く考えてから買わないといけません。私の場合、両親は岡山市出身の移住者で、私達に日本語とポルトガル語のできるバイリンガルに育てるために、いろいろ工夫してくれたお蔭で、書籍が手に入ったものだと思っています。家の中では厳しく日本語を使うように言われ、日本語の図書も与えてくれました。また日本の祖母が船便で毎月小学館の1年生から中学生まで長期にわたって本を送ってくれました。子供の頭ですから、先ず付録が目当てだったと思います。しかし、付録を組み立てるためには、日本語が読めることが必要で、徐々に日本語も読めるようになりました。本に恵まれた生活をしたお蔭で、読書の重要性を実感しました。

 

2012年に息子が生まれた時も、主人と共に日本語とポルトガル語の本を読み聞かせました。その息子が現在5歳で、日本語の本もポルトガル語の本も読むことが好きになりました。週末に家族でビラ・ローボス公園に行き、とても広い敷地のスペースに素敵な図書館ができ、子供から大人まで楽しんで本を読んでいました。いつかこの図書館で日本語の本も読めるようになったら良いなぁ~と思った時がありました。

 

以前勤務していたブラジル日本語センターより、図書寄贈の話が出ました。ある方が図書寄贈をしたのですが、センターで行われているブック・フェアにはあまりにももったいない本なので、どこかの図書館に寄贈できたらという相談でした。そこで日本語の図書を取り扱っているところをインターネットで検索してみたところ、あまり無いことが解りました。その上、非常に限られた人しか読めないところだという感じを受けました。

 

図書寄贈の活動の難しさをいくつかあげることができます。まず、図書を寄贈していただく方々の難しさです。サンパウロ市にお住まいの駐在員に声をかけてみたのですが、寄贈するよりガレージセールで売りたいという人が多い感じがしました。それでも、中には、息子の学校の父兄に聞いてみたところ、箱ごと寄贈してくれた駐在員の方もおられました。もう一つの問題は、ガレージセールやブック・フェアを行っているところからのクレームが来たことです。駐在員が日系団体に寄贈した本を売って、団体の維持費に回しているということで、私のこの地味な働きかけは迷惑とされてしまったこともありました。

 

図書館に寄贈する時の困難さもあります。図書館へまず寄贈する図書をポルトガル語に訳し、そのリストを送り、図書館がOKを出した本しか送れないのです。最初のリストでだめだった本を2回目のリストに書いて送ってみたらOKが出てびっくりしました。この繰り返しをしているうち数か月が経ち、徐々に入りだしましたが、今度は図書館側から日本語の図書の専用の本棚を用意するために1,000冊ぐらい必要だと言って来ました。200冊入った段階で本棚のことを再び聞いてみたところ、日本語のみの本棚を作ると他の言語話者からクレームが来るので、図書館側は最初に言った約束を取り止めたいと言ってきました。図書を入れてから一年が過ぎ、今度は日本語の本を読みに来る人が少ないため、日本語の図書を取り止めることを考えていると連絡してきました。

 

日本語の図書を読む人に届かない困難さもあります。現在、ブラジルで日本語を学習している生徒は、22,993人と言われていますが、日本語の図書が設置されている図書館があることを知っている人はごく少数です。日本語の学習者に、日本語の図書が無料で読めるという情報がまず届かないのです。サンパウロとパラナ州では、CEL(サンパウロ州立学校言語センター)、CELEM(パラナ州立学校現代外国語センター)という教育システムがあり、公立校(サンパウロ州及びパラナ州の州立中学校、高校)に様々な言語を無料で教えるというプログラムが、1986年からスタートし、徐々に日本語を学習する生徒が増えてきています。公立校に通っている学習者も日本語の図書が無いことを嘆いていますが、同じように、無料で日本語の図書が読めることが、いまだに伝わってはいません。図書館側から、一度ブログを通して宣伝をしてくれたのですが、日本語の図書が読みたい人たちには届かないのです。届かないのか、興味がないのかはっきりしたことは解りません。

 

この運動を通して、直接、著者から新しい図書を受け取って寄贈できましたし、日系社会で活躍されている方々や日系の団体、ニッケイ新聞(日本文化等)の図書を寄贈していただきました。ビラ・ローボス図書館で読めるようになったことは、とても有り難いことです。残念なことに、ブラジルでは、日本語が読める人たちが年々減少しつつあります。アニメファンが日本語を学びたがるケースは少なくありません。このタイミングを逃したら日本語(外国語、継承語)を維持することができなくなってくるのではないかと心配しています。

 

A)サンパウロ州で日本語の図書を扱っている図書館:

http://www.bunkyo.org.br/pt-BR/biblioteca
ブラジル日本文化福祉協会

会員制。年会費を支払った人のみ。(R$504レアル、約17,500円)、25歳未満の場合(R$118レアル、約4,100円)
http://fjsp.org.br/biblioteca/
国際交流基金 図書館(無料)

サンパウロ州内在住18歳以上。外国人の場合、最低1年滞在予定の人のみ。
提出書類:身分証明書または、運転免許証、パスポート。

在住証明書(電気代、水道代等)

写真二枚(3×4 )持参
http://letrasorientais.fflch.usp.br/japones/276
サンパウロ大学文学部内図書館

(サンパウロ大学の学生または研究者のみ)
http://www.cenb.org.br/n_ja_immigration_books/about
CENB-サンパウロ人文科学研究所
(研究者のみ)
http://www.saopaulo.com.br/museu-da-imigracao-japonesa-possui-um-acervo-com-mais-de-97-mil-itens/
移民資料館内図書館

(大学生及び研究者のみ)
http://biblioo.info/maior-biblioteca-japonesa-no-brasil/
サンパウロ州サンミゲル・アルカンジョ市コロニア・ピニャール図書館(開店日は土曜日のみ。豊富な図書館ですが、非常に遠い)。7万5千冊。
http://g1.globo.com/sao-paulo/itapetininga-regiao/tem-noticias-2edicao/videos/v/biblioteca-de-sao-miguel-arcanjo-sp-tem-maior-acervo-de-livros-japoneses/1758529/
サンパウロ州サンミゲル・アルカンジョ市コロニア・ピニャール図書館の説明ビデオ

  1. B) ビラローボス図書館内の日本語書籍リスト(一部のみ)。

ブログを通して日本語の図書があることを呼びかけてはいるが、本当に読みたい人には届いていない。

http://www.bvl.org.br/bvl-recebe-doacao-de-livros-em-japones/

図書館の真ん中にイベントスペースが設けられ、読書会やイベントが無い時には、利用者が自由に寝そべって本が読めるところ。畳が用意されているので、靴を脱いでから畳の上で本を読むようにというアドバイスがされる。本を読んだりゲームをしたりしても良いが、寝てはいけないと書いてある。

子供の目線にあわせて、本が用意されている。普通の図書館とは違い、子供が話をしても走り回っても可能なところ。普通の図書館のイメージとは全然違う。