執筆者 : 桜井 悌司 氏
(日本ブラジル中央協会常務理事)

日本でもここ数年で「グローバル人材」という言葉が急速に、かつ頻繁に使用されるようになった。「グローバル人材」を育成する上で最も重要な機関は大学であろう。現時点において日本の大学が、スペイン・ポルトガル・ラテンアメリカの大学とどの程度の留学交流を持っているかを調べてみた。具体的には、日本の119大学のホームページを調査し、掲載したものである。実際は、150程度の大学のホームページをチェックしたが、対象地域の大学との交流が無いもの、ホームページで見あたらなかったものは割愛した。

 

「どの国との留学交流が多いか}

 

国別の人気ランキングをみてみよう。第1位が、スペインで、提携や協定関係を持つ日本の大学数が、84校、スペインの大学数、71校、交流案件総数は、260件に達する。第2位はメキシコで、日本の大学数が、65校、メキシコの大学数、44校、交流案件総数は、148件、第3位は、ブラジルで、日本の大学数が、57校、ブラジルの大学数、43校、交流案件総数、116件となっている。以下、第4位、ポルトガル、第5位、ペルー、第6位、アルゼンチン、第7位、チリ、第8位、コロンビア、第9位、エクアドル、第10位、コスタリカと続く。

 

日本の大学のスペイン、ポルトガル、ラテンアメリカとの留学交流データ
2018年3月

国  名 日本の大学数 相手国の

大学等数

案件総数 日本の大学当たりの平均案件数
スペイン 84 71 260 3.1
ポルトガル 25 11 36 1.4
イベリア半島国合計 109 82 296 2.7
メキシコ 65 44 148 2.3
ブラジル 57 43 116 2.0
ペルー 25 23 36 1.4
チリ 21 12 24 1.1
アルゼンチン 20 15 31 1.6
コロンビア 12 11 17 1.4
エクアドル 10 1.3
コスタリカ 1.0
グアテマラ 1.8
ウルグアイ 1.0
パラグアイ 1.5
キューバ 1.0
ニカラグア 1.0
ジャマイカ 1.0
ボリビア 1.0
ベネズエラ 1.0
ホンジュラス 1.0
パナマ 1.0
ドミニカ共和国 1.0
エル・サルバドール 1.0
ハイチ 1.0
その他合計 39
延べラテンアメリカ合計 242 184 429 1.7
延べ総合計 351 266 725 2.1

 

 

「留学交流の締結年は」

 

次に留学交流の締結の時期を調べてみよう。大学のホームページには、交流協定の締結年を記している大学と記していない大学があるので、カバー率はそれほど高くはないが、締結年の大まかな推移を理解するために、下記表に基づき、紹介しよう。今回の調査で判明したことは、1990年までに締結された協定は、全体の案件数246件のうち、わずか8件で、3%を占めるのみである。1991年から2000年までの締結数は、32件で、13%を占め、2001年から2010年までは、59件で24%を占める。残りの147件は、すべて2011年以降で、全体の60%に達する。1980年代~90年代に大学生の国際化のための国際人材育成が当時叫ばれていたにも関わらず、スペイン語やポルトガル語を話す「地域」には、ほとんど及んでいなかったことが理解できる。大学側に言わせれば、アジアや英語圏の欧米諸国には相当力を入れたので、スペイン語・ポルトガル語圏まで手が回らなかったと言うことになろう。全体の60%が2011年以降と比較的最近であることは驚きであるが、「グローバル人材」の育成を叫ばないと大学間競争に勝ち抜けないこともあり、ようやく重い腰を上げたとも言えよう。2014年度に開始された文部科学省による「スーパーグローバル大学創成支援事業によって、①世界大学ランキングトップ100を目指す力のある大学「タイプA トップ型」の13大学と ②我が国の社会のグローバル化を牽引する大学「タイプBグローバル化牽引型」の24大学が選ばれた。また2015年度には、文部科学省による「大学の世界展開力強化事業によって8つの大学が補助金の対象となった。おそらくこの2つのプロジェクトが無ければ、未だにラテンアメリカには注目されなかったと思われる。

 

留学交流協定の締結年  **締結年の明記がある協定

国  名 1990年以前 1991年~

2000年

2001年~

2010年

2011年~ 合計

**

スペイン 2件(2%) 10件(11%) 17件(19%) 59件(67%) 88件
ポルトガル 0件(0%) 1件(8%) 2件(15%) 10件(77%) 13件
メキシコ 1件(2%) 5件(11%) 13件(29%) 26件(58%) 45件
ブラジル 4件(8%) 9件(18%) 13件(26%) 24件(48%) 50件
ペルー 0件(0%) 1件(7%) 5件(33%) 9件(60%) 15件
アルゼンチン 1件(145) 2件(29%) 1件(14%) 3件(43%) 7件
チリ 0件(0%) 4件(29%) 3件(21%) 7件(50%) 14件
コロンビア 0件(0%) 0件(0%) 1件(17%) 5件(83%) 6件
エクアドル 0件(0%) 0件(0%) 1件(50%) 1件(50%) 2件
コスタリカ 0件(0%) 0件(0%) 3件(50%) 3件(50%) 6件
合 計** 8件(3%) 32件(13%) 59件(24%) 147件(60%) 246件

 

「ブラジルとの留学交流」

 

ブラジルの大学との留学交流を行っている日本の大学数は、57校で、ブラジルの大学数は、43校で、案件数は、113件である。ここでは、数字上の紹介で、実際に各大学が毎年実際に留学交流を行っているのか、どの程度きめ細かく行っているかはわからないことを予め断っておきたい。

 

「ブラジルの大学との提携年」

締結年がアップされている合計50件の内、2000年以前の締結が、11件(22%)、2001年~2010年の間の締結が、15件(30%)、2011年以降では、24件(48%)が締結されている。この中には、文部科学省が、平成27年度(2015年度)に「大学の世界展開強化事業」に採択された5大学(筑波大学、東京大学、東京農業大学、上智大学、南山大学)の案件は入っていないので、実際は、2015年以降の提携が多くなる。

 

「留学交流に熱心な日本の大学、ブラジルの大学」

 

では、日本の大学で、ブラジルとの留学交流に熱心なところはどの大学であろうか?日本の大学でブラジルの大学3校以上の交流協定・提携を締結している大学は、下記の通りで、上智大学、神戸大学、北海道大学、横浜国立大学、信州大学、名古屋大学、東京外国語大学、東京外国語大学、神田外語大学、慶應義塾大学、明治大学、芝浦工業大学、京都外国語大学、関西大学、広島大学、九州大学の15大学である。

一方、日本の大学が交流を望むブラジルの大学のランキングは、下表の通りであるが、日本の3大学以上の提携があるのは、サンパウロ大学、35校、カンピーナス州立大学、8校、ブラジリア大学、7校、リオ・デ・ジャネイロ州立大学、5校、パラナ連邦大学、ロンドリーナ州立大学が各4校、パラナ連邦工科大学が3校となっている。日本の大学の有名大学好みが反映されていると同時に、サンパウロ州、パラナ州、ブラジリア、リオ・デ・ジャネイロに偏っていることが理解できる。

 

ブラジルの大学と留学交流の多い日本の大学 大学数 日本の大学と留学交流の多いブラジルの大学 大学数
上智大学 5校 サンパウロ大学 35校
神戸大学 5校 カンピーナス州立大学 8校
北海道大学 4校 ブラジリア大学 7校
横浜国立大学 4校 リオ・デ・ジャネイロ州立大学 5校
信州大学 4校 パラナ連邦大学 4校
名古屋大学 4校 ロンドリーナ州立大学 4校
東京外国語大学 4校 パラナ連邦工科大学 3校
神田外語大学 4校 ヴィソーザ大学 2校
明治大学 3校 リオ・グランデ・ド・スル州立大学 2校
慶應義塾大学 3校 リオ・グランデ・ド・スル・カトリック大学 2校
芝浦工業大学 3校 リオ・デ・ジャネイロ連邦大学 2校
京都外国語大学 3校 アマゾナス州立大学 2校
関西大学 3校 サンタ・カタリーナ連邦大学 2校
広島大学 3校 サン・カルロス連邦大学 2校
九州大学 3校 パウリスタ大学 2校
南山大学 3校

 

「ポルトガルとの留学交流」

 

参考までにブラジルの旧宗主国のポルトガルの大学との留学交流の状況をみてみよう。ポルトガルの大学との留学交流を行っている日本の大学数は、25校、ポルトガルの大学数は、11校で、案件数は、36件である。提携数の多い大学は、リスボン大学が9件、ポルト大学が8件、コインブラ大学が6件、ミーニョ大学が3件、アルガルヴェ大学とフェルナンド・ペッソア大学が各2件となっている。締結年を見ると、2000年締結が1件、2001年から10年が2件、残りの10件は、すべて2011年以降となっている。ポルトガルとの提携は比較的最近と言える。

 

なお、日本の大学とブラジルの大学との個々の交流及び、スペイン・ポルトガル・ラテンアメリカの大学との交流の具体的ケースについては、桜井(teisakurai@gmail.com)まで連絡ください。