地元住民がブラジル一美しい道と誇る「ポルトガル通り」

 サンルイスの魅力を一つ挙げるとすれば、意外にも安全に満喫できる歴史地区である。

 今から15 年ほど前、白い巨大砂丘レンソイス・マラニャンセスが世界で注目されるようになってからは、砂丘への中継都市として多くの観光客が立ち寄るようになり、外国人観光客の数も一気に増えた。ただ、単なる通過点とされては、誕生400 年の歴史あるサンルイス市民は心外かもしれない。
北部マラニョン州の州都サンルイスは、1612 年にフランス人によって築かれ、一時はオランダ植民地にもなった国内でも珍しい都市である。「Cidade dosAzulejos アズレージョの街」とも呼ばれ、コロニアル建築が残る古い街並みはヨーロッパから運ばれた彩色タイル(アズレージョ)が多用されていて、一帯は世界遺産にも登録されている。
ブラジル主要都市のセントロ(旧市街)の治安がなかなか改善されない中、サンルイスは1980 年頃には建築物の保存活動をスタートし、最近ではレストランや宿泊施設、お土産屋の整備に加え、地元警察の見回りも徹底している。大砂丘を満喫する前に、外国人観光客が昼も夜も歩ける貴重な歴史地区となっている。
昼間は、美術展スペースやお土産屋など一軒一軒を回りながら、ぶらぶらと歩く。地元の民芸品は、手編みレースや椰子の一種であるブリチの繊維で作られたアクセサリーや敷物などで、サンパウロやリオ市内より種類は豊富な上、断然割安な「原産地

地元に伝わる独特な
レース編みの技術

価格」で購入できる。日本では世界各地の自然素材やフェアトレード商品が高級デパートで売られるようになったが、ここでは素朴なままの商品が無造作に売られている。
日没後は、多くの人が集まる広場で風に吹かれながら一休みしたい。広場の角にある「Restaurante Antigamente」はおすすめ。「レストラン・あの頃」と訳してみると、なんだか廃れたスナック風になるが、確かに郷愁を誘うビアガーデンだ。生ぬるい空気に包まれ、マラニョン料理をつまみに呑むビールはどこか懐かしい。そこから少し歩くと、暖かい街灯の光に照らされて、壁面一面のアズレージョが一際美しく輝く通り(写真上)がある。広場からはギターの生演奏と雑踏の音がかすかに聴こえ、古いブラジルにタイムスリップしたような不思議な感覚を体験できる。

山本綾子
(『ブラジル・カルチャー図鑑』著者)