―ラテン世界の発展のためのおとぎ話的発想―

執筆者:桜井 悌司 氏(日本ブラジル中央協会常務理事)

 

 

これは起こりえないお伽話と思って、読んでいただきたい。

 

ラテンアメリカに関心を持ちだして、早50年になる。その動機は、ブラジルやメキシコ、ラテンアメリカは未来の国、21世紀の大陸と言われていたので、それを信じて、大学進学に当たり、スペイン語を専攻したことに始まる。時々望みを抱かせる時期もあったが、50年経った今でも、残念ながら期待されたような発展を遂げていない。

私は、昔から阪神タイガースのフアンである。私は、ちっと前から「ラテンアメリカ、阪神タイガース論」を唱えている。期待すれば負けるが、期待しなければ、そこそこやるというものである。阪神フアンから叱られそうだが、私もフアンなのでお許し願いたい。ラテンアメリカが期待されるほどに発展しない理由については、多くの学者が様々な説を主張するが、誰もどうすれば発展するかについての具体的処方箋を示してくれない。そこで難しい学説は学者先生に任せるとして、やや奇想天外な観点から私見を述べてみたい。

ラテンアメリカの人々とつき合ったり、友人になりと意見交換すると、総じて彼らは、「オプティミスト、楽観主義者」という印象を受ける。もちろん、人様々で、ペシミスト(悲観主義者)もたくさんいるに違いない。例えば、海外から投資誘致ミッションが来日して、誘致セミナーを開催しても、在京大使の講演を聞いていても、資源に恵まれ、常にポテンシャリテイが大きいことを力説する。そのことは事実であるので反論の余地はないが、それら資源をどのように活用し、そのポテンシャリテイをどのように開発するかについては誰も具体的に話さないし、不透明である。その結果、過去50年、期待された成果もなく過ぎ去り、今後の50年も同じことを繰り返すことになるかも知れないとふと危惧してしまう。もちろん、そうならないことを強く望んでいる。

当然ながら、「オプティミスト」にしても「ペシミスト」にしても、長所と短所がある。例えば、「オプティミスト」は、明るく、まさにポジティブ・シンキングであり、最後には何とかなると考える。しかし、そのデメリットとしては、危機感や切実感が無く、短期的な発想にならざるを得ない、最後には何とかなると考えているので、対策は無く、同じ失敗を繰り返してしまう。くよくよしないことは、他人を元気づけるが、メリットにもデメリットにも繋がる。

反対に、「ペシミスト」は、努力しても無駄だとすぐにあきらめるところは、短所であるが、最悪の結果を想定して物事を考え、対処すること、切実感を持ち、中長期的に物事を考え、努力するような点は、長所に繋がる。インターネットで調べると、興味のある内容が出てきた。「クールな悲観主義者は、防御的ペシミストとして、分類されるもので、その特徴は、常に最悪のシナリオを想定して当たる。物事を悲観的にとらえることで、集中力を高めて成功を呼び込む。」というものである。

そこで、奇想天外かつ実現大困難と分かった上での発想ではあるが、ラテンの人々に、一定期間に限り、「ペシミスト」的発想をする習慣をつけてもらうようにするのである。 要するに「ペシミスト変身宣言」をするのである。具体的には、政府でも民間団体でも市民団体でもいいが、「ペシミスト推奨週間」、「ペシミスト月間」等短い期間でも良いので、キャンペーン等を組織・制定するのである。本当は、1年間くらい継続してもらうのが効果的であるが、短期間でも難しく、中長期間だとほぼ不可能であるし、ラテンのアイデンティティである「オプティミスト」的性格が失われることになるかも知れないからだ。このキャンペーンはお金がかからないのでやる気さえあればいつでも実現可能である。もちろん1回限りではなく、毎年この「月間」、「週間」は継続し、実践されているかをチェックすることが大切である。

日本では、この種のキャンペーンが割合有効で、戦後、大々的に輸出振興キャンペーンを展開してきたし、80年代には、筆者も「輸入促進キャンペーン」や「輸入促進月間」の組織に直接担当してきた。当時の中曽根総理もテレビで、日本人一人当たり100ドルの外国製品を輸入しようと呼び掛けた。これらのキャンペーンをラテン世界でそのまま展開できるとは決して思ってはいないが、発想転換遊びと考えていただければそれで良い。

ではその期間中に、一体何をするのかが問題になろう。 ①一般国民・市民、②企業・企業人、③政治家・官庁・政府役人に分けて、具体的に、考えるべきこと、なすべきこと、努力すべきことをランダムに紹介してみよう。オプティミストでいられないくらいの宿題があるのだ。

 

  • 一般国民

*明日は、今日より悪くなると考えるようにする。

*今日のことより、明日、あさって、将来のことを考えるようにする。

*我慢、忍耐の必要性を認識する。

*給与は自動的に上昇するものではないと考える。

*年金制度はいずれ破綻すると認識する。

*すべて最悪の事態を予想し、それに備える。

*自然災害、人的災害は常に起こりうると考え、被害を最小限に食い止めるにはどうすれば良いかを考え、予防する。

*ポピュリズムは、遅かれ早かれ破綻するものであると考える。

*労働組合員の労働条件や社会保障は、恵まれ過ぎていると考える。

*ばら撒きによる収入は身につかず、後で後悔することになると考える。

*タダほど怖いものはないと考える。

*浪費をせず、少しでもいいから貯蓄をする。

*より一層真面目に仕事をする。

*子供の教育には、より一層力を入れる。

*お互いにいたわりあう。

*悪事には手を出さない。

*悪いことをすれば、懺悔しても神様に許してもらえないかもしれないと考える。

*ブラジル人の場合、ブラジルの国旗に書かれている「ORDEM e PROGRESSO」(進歩と秩序)はやり方次第で実現できると考える。

*政治家の動向を常にウオッチする。

*各種不正に対しては声をあげ、行動で示す。

*汚職に手を出すような政治家には決して投票しない。

*1つの政権を倒しても次の政権によって事態が改善されるかわからないと理解する

 

  • 企業・企業人

*企業の社会的責任をより一層認識する。

*鉱山ダムの決壊や橋梁の崩壊等企業による責任と考えられる人災に対する最大の対

策を講じる。

*従業員の利益をより一層考える。

*従業員や従業員の家族の教育にもっと配慮する。

*従業員のボランテイア活動をより一層推奨する。

*脱税をしない。

*政府に頼らなくても良いような状況に組織を持っていく。

*より付加価値の高い商品・サービスを開発する。

*特に大企業は、研究開発に力を入れる。

*海外にもっと目を向ける。

*リスクコントロール意識を持つ。

*不況が続く覚悟で会社経営をする。

*贈賄をしない。贈賄は重大な犯罪と考える。不正に加担しない。

*うまい話に飛びつかない。ぼろ儲けは考えない。

*ビジネスの推進に障害となることを積極的にアピールする。

*政府の政策に対し、積極的に意見を述べる。

*海外市場に積極的に挑戦する。

 

  • 政治家・官庁・政府役人

*時折、ブラジルは必ずしも世界の中心ではないのではないかと考える。

*国の税金は、国民のものと考える。

*自分のためではなく、献身的に国民ファーストで考える。

*利益誘導型の政治は機能しなくなると考える。

*資源価格は、自分が思うようにはうまく上昇しないものと考える。

*豪雨、洪水、台風、旱魃、飢饉、などの自然災害や鉱山ダム・土木・建築の決壊等

の人的災害は常に起こり得るものとして、予防・対策をすること。

*国民、州民、市民のためにやらせていただいているという考えを持つ。

*ブラジルの場合、政治家さえしっかりすれば、「ORDEM e PROGRESSO」(進歩と秩

序)はやり方次第で実現可能と考える。

*企業が活動しやすい環境造りを常に考える。企業経営にとって阻害となることを廃取り除く。

*年金制度の改革なくして、国家財政の改善は無いと考える。

*軍人・公務員等一部の人々の年金が大いに優遇されているのは理不尽ではないかと考える。

*取れるところから税金を取るというような発想をせず、公正かつ持続可能な税制を作り上げる。

*教育、とりわけ、初等教育、中等教育への適切な投資無くては、国の発展を望めないと考える。

*医療の充実は、国民の健全な生活に欠かすことのできないことと考える。

*限界を超えるネポテイムズ、アミーゴ優先主義は控える。

*収賄には手を出さない。悪事をすれば、次回の選挙は落選するものと覚悟する。

*収賄をした政治家、悪事を働いた政治家は、懺悔しても神様は決して許してくれないと考える。

*自分の活動は常に公開し、隠し事が無いようにし、説明責任を果たす。

*国の発展のための中長期のビジョン・政策を考え、行動する。

*コストパーフォーマンスを常に考える。

*自分たちの給与だけを上げようなどと決して考えない。

*ばら撒き政策やポピュリズム的政策は、後でツケが回ってくると確信する。

*濡れ手に粟は、最後には、破綻すると考える。

*悪事後のリカバリーショットは、困難かもしれないと考える。

*国民、内外の有識者の意見を真剣に聞く習慣をつける。

*世界の動向に目を向け、優れた施策は積極的に導入する。

*井の中の蛙に陥らない。

*常に行動する。

 

以上、国民、企業、政府の3部門が、行うべき盛りだくさんの実行案を提案した。起こりえないこと、全く現実的ではないこと、夏の夜の夢的なことを分かった上での提案である。日本人読者、とりわけラテン・ブラジル大好き人間は、どちらかというとオプティミストが多いと思われるが、時折、ペシミスト的観点からラテンアメリカを見ることをお勧めしたい。読者のコメントをお待ちしたい。