藏掛忠明
(丸紅㈱南米支配人兼丸紅ブラジル会社社長)

ブラジルへの進出
 丸紅ブラジル会社は、1955 年8 月、サンパウロに駐在員4 名、現地社員9 名の陣容でスタートした。コモディティ取扱商品では食料、チップ・パルプ、繊維原料、化学品、非鉄金属・鉄鋼原料、鉄鋼製品分野など多岐に亘り、当時は日本の商社が仲介して第三国に商品を売る「三国間貿易」を盛んに行っていた。
1960 年代に入ってブラジルを含む海外事業が全社的に本格化するなか、1961 年にはニチボー(現ユニチカ)がブラジルに設立していた紡績会社への出資を行った。70 年代以降、特にプラント輸出、製油所、セメントプラント、発電プラントなどを中心に取り組んでおり、ブラジルでの大型案件としては、1978 年ツバロン製鉄所向け製鉄プラントの受注をはじめ、ブラジル景気が回復した90 年代以降にもツバロン、アソミナス、ウジミナス製鉄所向け製鉄プラント改修案件や高炉ガス回収発電プラント、スラブ鋳造設備、郵便電報公社向け郵便仕訳自動化システム、教育省向けAV デジタルテレビ機器納入、ペトロブラス向け原油輸送プロジェクト、海底油田プラットフォーム建設プロジェクトへのファイナンスなど、ブラジルを代表する大企業や公官庁向けの受注が相次いだ。近年ではペトロブラス向け浮体式生産貯蔵積出設備チャーター事業や、サンタカタリーナ州における穀物ターミナル事業など、ブラジルにおける丸紅グループの資産は約70 億ドルまで積みあがっている。

 

ブラジルにおけるインスタントコーヒー事業の展開
 丸紅は様々な分野で資本参画してきたが、ブラジルに根差した事業展開の事例としてイグアス社(インスタントコーヒー製造・販売事業)を紹介したい。イグアス社は、パラナ州が、一大コーヒー産地であった時代に大農家が出資し合って設立された。当時、ブラジル経済の主流をなしていたコーヒー生産が徐々に供給過剰となり、コーヒー豆の在庫が積み上がり始めていたことから、付加価値を付けて海外に輸出するため、連邦政府によりインスタントコーヒー会社設立する政策が推進されていた。この政策に対し会社設立の申請は72 件あり、認可が得られたのはイグアス社を含め5 社のみであった。土地の選定、工場の建設、許認可の取得等の様々な苦労があったが、1967 年にサンパウロから南西500kmにあるパラナ州コルネリオプロコピオ市にイグアス社の設立に至る。
1972 年、丸紅はブラジルでイグアス社への参画を決定。イグアス社は、インスタントコーヒーの海外販売を拡大するため、コーヒーの貿易を幅広く行っていた丸紅に対して協力の要請を行った。丸紅はコーヒー豆も取り扱っており、当時の日本の食生活は欧米化にシフトしていた。日本のコーヒー豆輸入量が1960 年からの10 年間で8 倍強伸び、市場に明るい展望を描いていたため、本社ではコーヒー事業の機会を窺っていた。
しかしながら、経営は万事順風満帆という訳ではなかった。インスタントコーヒーの生産はイグアス社にとっても丸紅にとっても初めてのことであった。新技術の機械トラブル、輸出戦略、資金繰りなど難題が山積みで、丸紅が参画を果たしたときはサンパウロ証券市場に上場こそしていたが、試行錯誤が続く経営状態であった。

その後も、資金に目途が立った矢先に工場で発生した火災や、パラナ州における霜害でコーヒーの木が全滅するなどの様々な困難に直面した。イグアス社は、安定操業のために日本からの技術による水資源(井戸)の確保や、5S 等による製造工程の改善、品質管理の徹底等により、こうした困難をも乗り越え、業界トップレベルのインスタントコーヒーメーカーの一つに成長した。現在では年間22,000 トンのイン
スタントコーヒーを生産し、世界50 カ国以上へ輸出している。稼働開始から50 年以上経過した現在でも、フリーズドライの製造能力の増強計画を進めるなど、継続して事業拡大を図っている。

 

ブラジルにおける今後の取り組み
丸紅ブラジル会社は、輸出入、投融資の両面からビジネスの拡大に努めてきた。ブラジルで過去に取り組んできた事業案件は多数あるが、世界的な経済低迷の煽り、ハイパーインフレなども経験しながら現在に至るイグアス社のような事例は丸紅グループの中でも決して多くはない。社会貢献面では2005 年の丸紅ブラジル会社創立50 周年を機に、丸紅ブラジル会社とイグアス社が共同で丸紅イグアス教育基金の設立を決め、2006 年より運営を開始した。運用益で毎年ブラジル国内の職業訓練学校等に通う低所得家庭の学生の授業料、学校教材費等の教育補助を行っている。
ブラジルでは2019 年1 月よりボルソナーロ新政権が発足し、ボベスパ指数も好調でブラジル経済の回復には大きな期待が寄せられている。今後も伸びしろのある農業分野やインフラ分野などを中心に、ブラジルとともに成長して行ける機会を追求していく。