執筆者:西岡 勝樹 氏
(日本旗章学協会会員)

はじめに

現在のブラジルの国旗(図1)は誰でもブラジルの町々で、否世界中で見ることができる。ブラジルは長くポルトガルの支配下にあり、その当時はもちろん今の国旗ではなく、ポルトガル本国の国旗がはためいていたはずだ。そして、ブラジルは独立した。その時に今のブラジル国旗の基となる帝国の国旗(図2)が出来た。今はあまり見ることがないそのブラジル帝国国旗の不思議を探ってみたい。

図1 現在のブラジル国旗

出所:ブラジル大統領府(Palácio do Planalto)ホームページより。
http://www2.planalto.gov.br/acervo/simbolos-nacionais/bandeira/bandeira-nacional

図2 ブラジル帝国国旗(最終版)

出所:Casa Imperial do Brasil ホームページより
https://www.monarquia.org.br/bandeirashistoricas.html

1.ブラジル帝国国旗
①1822年9月18日~12月1日までの帝国(当初は王国)国旗
独立直後の最初の帝国国旗

図3 帝国国旗 第一版

●黄・緑・菱形
●現在のブラジル国旗の原型
●現ブラジル国旗の色の意味はこの帝国国旗が起源。
●星は19個 19の県(当時は州ではなく、県)

②1822年12月1日~1870年の第一帝国期の国旗
1822年12月1日、ペドロ一世が正式にブラジル皇帝となり、国旗の王冠から皇帝冠に変更。

図4 帝国国旗 第二版

●初期の国旗の王冠を皇帝冠に変更。
●19の県(Provincias)は変更なし。

③1870年~1889年11月19日までの第二帝国期の国旗
ペドロ二世の治世下(在位:1831年 – 1889年)、県が一つ増え20県となり、星が20個となった。

図5 帝国国旗 第三版(最終版)

●シスプラチナ県(旧ウルグアイにあった県、ウルグアイ共和国の独立))が消失し、パラナ県(1853年創設)とアマゾナス県(1850年同)の2つの州の増加となり、19個から20個となる。

2.ブラジル帝国国旗の誕生~ブラジルの独立~

ポルトガル王国皇太子ドン・ペドロ(後のペドロ一世、図6)は、1822年9月7日、土曜の青空の下、サンパウロのイピランガ川の辺にて、ポルトガル本国議会の召還命令を拒否し、ブラジルの解放を宣言、(イピランガの叫び~独立か死か~)を行った。

図6 ペドロ一世

出所:http://www.monarquia.org.br/dompedroi.html

図6 イピランガの叫び “Independência ou morte!” 『独立か、死か!』

出所:http://www.monarquia.org.br/dompedroi.html

1822年9月18日政令(DECRETO – DE 18 DE SETEMBRO DE 1822)にて、ペドロ一世は、ブラジル独立に関する三つの法令を制定。その第三番目の法令にて国旗に関する規則を定め、ブラジル帝国国旗は誕生した。

3.ブラジル帝国国旗の特徴

●帝国国旗の下地は緑色の長方形、その中に黄金(黄色)の偏菱型(形)方形を置き、またその中にブラジル帝国国章を配する。(1822年9月18日政令)
この法令の条文が今に繋がる現国旗の原型となっている。
●ブラジル帝国国章(1822年9月18日政令文)
緑の盾の下地に黄金色(黄色)の天球儀を配し、キリスト騎士団の十字架を重ねる。天球の周りに青色の縁飾り、その中に銀色(白)の19個の星を並べる。盾の上部にダイヤをあしらった王冠を置く。盾両側にカフェとタバコの枝を配する。これは富みと国内の絆を象徴する証となる。
(カフェ、タバコ、当時の商業の要であり、国家を都市部と内陸部を結ぶ象徴でもあった)

4.1.ブラジル帝国国旗の詳細 

・緑色:緑の長方形はポルトガルのブラガンサ王家に繋がる。もう一方でペドロ一世の言葉の中にある『永遠の春』の国を象徴している。
・黄色:最も受入れられる説明はハプスブルグ家の色に繋がる。(皇妃ドナ・レオポルディ‐ナはハプスブルグ家の出。
・帝国国章(帝国旗の中央に配される。)
国章の特徴
・植物の枝:コーヒーとタバコの枝、二つは帝国の豊かな産物。(現連邦共和国国章にも引き継がれる。)
・キリストの十字架:キリストの十字架は国章の中央部に配される。(十字架の一種)その十字架はポルトガルとキリスト騎士団を思いこさせる。その名テンプル騎士団に遡る。十字の姿はカラベラ船の帆に見える、その起源から、新大陸発見時代において富とその地位を象徴していた。
・天球儀:ポルトガルにおける国家権威であり、国民におけるシンボルである。天球はブレスレット(腕輪)の金属の輪で形造られる、その形は世界をも象徴する。
・青色の縁取りと星:星は帝国の県(のち州)を表す、その数は19個。
・王冠(皇帝冠):国章盾上部に皇帝冠を配する。(王冠から変更)
・皇帝冠上の十字架:皇帝より上の神を意味する。

図7 当時のブラジル帝国国旗の写真

出所:http://revistapesquisa.fapesp.br/2015/05/15/resgate-de-conhecimento/


3.2.ブラジル帝国国旗の作者

フランス人画家 ジャン・バプティスタ・デブレ(Jean-Baptiste Debret)にて1822年製作される。民俗学的価値の高い当時のブラジルの人々の生活を描いた絵画(図10)を残した。

図8 ジャン・バプティスタ・デブレ

図9 ペドロ1世の二度目の結婚 ジャン・バプティスタ・デブレ作

図10 当時のブラジル ジャン・バプティスタ・デブレ作

4.ブラジル国旗のひし形の不思議  

現ブラジル国旗には帝国国旗から明らかに大きな影響を受けたと思い起こさせる形が潜んでいる、見た目に最初に目に飛び込んでくるひし形である。その起源はどこにあるのか。皇帝ペドロ一世その人はブルボン‐ブラガンサ家の出で、フランス王家の血を引く、また帝国国旗の製作者のフランス人デブレ(図8)はブランスの革命の旗(軍旗)にそのインスピレーションを得たという。すわなち、帝国国旗の作者、デブレは明らかに帝国国旗の長方形の中にひし形を置く発想をフランス革命軍の旗とナポレオン大陸軍の軍旗にインスピレーションを得たのである(図11)。
出所:A BANDEIRA DO BRASIL- Raízes Histórico –Culturais p266

この軍旗のひし形(図11)がブラジル帝国旗のひし形につながり、現在の国旗に見ることができるのである。

図11 フランス革命軍 戦列歩兵 Infanterie de ligneの軍旗

図12 二つのひし形 帝国国旗(左)と現国旗(右)