執筆者:服部 則男 氏
日本ブラジル中央協会会員

はじめに

 

私たちには、“汽笛一斉新橋を”で始まる「鉄道唱歌」、“今は山中 今は浜”の「汽車」、“お山の中行く 汽車ぽっぽ”の「汽車ぽっぽ」と、子どもの頃から慣れ親しんだ鉄道の歌がたくさんあります。
また、鉄道や駅は、“汽車の窓から ハンケチ振れば”の「高原列車は行く」、“上野発の夜行列車 降りた時から”の「津軽海峡冬景色」、“汽車を待つ 君の横で 僕は”の「なごり雪」など、人生のワンシーンに出てきます。
ところで、日本の鉄道開通(明治5年、1873年)より20年ほど早く鉄道が開通し、広大な国土に豊富な資源を擁し、近代的な大都会、多彩な音楽文化を持つブラジルでは、“鉄道はどのように歌われ、親しまれているのだろうか”との疑問が、表題の「ブラジルの鉄道(唱)歌を尋ねて」であります。(注):ブラジルの鉄道は、1854年、当時の首都リオデジャネイロと、皇帝ドン・ペドロ二世お気に入りの別荘地ペトロポリスとの間、14Kmで開通した。
訪伯しての資料収集、日本の書籍、また、インターネットでの情報収集やYou Tube映像などにより、現在、調べているところです。この度、「連載エッセイ」に載せていただくことになりました。調査不足・理解未了が多々あります。忌憚のないご意見をいただければ幸いです。

 

ブラジルの鉄道の歌

 

最初は子ども達が親しんでいる鉄道の歌、そして、鉄道について係わりがあると思われる歌について、ご紹介してみたいと思います。

尚、私は、1982年から1986年の間に当時の国鉄より海外鉄道技術協力協会(JARTS)へ出向し、ブラジルとの鉄道技術協力業務(RFFSA:リオデジャネイロ近郊鉄道の保全業務、CVRD:カラジャス鉄道向け鉄鉱石貨車の開発、IPT:サンパウロ技術研究院鉄道開発センター設立準備など)で何度かブラジルを訪れ、すっかりブラジルに魅せられた者の一人であります。

 

  1. 「 O Trem de Ferro 」(蒸気機関車)― Bob Zoom
    子ども向け歌の本、CDには常に取り上げられている曲です。子どもたちが、腰をふりふり、踊り楽しむ「遊び歌」です。幼稚園などで歌われています。
    “蒸気機関車がベルナンブーコを発車して、フックフックと音を出しながらセアラーに行く。お父さんが踊る、お母さんも踊る、娘さんも踊る。僕だって家族だ、踊ってみたいな。”
    SL列車に乗って、楽しそうに踊っている子どもたちの姿が想像できます。ベルナンブーコやセアラーは、ブラジルの北東部に位置して、かっては砂糖や綿花で繁栄した都市です。ベルナンブーコは、1817年に共和主義革命を起こすなど、1822年のブラジル独立以前は、影響力のある都市でありました。
  2. 「 O Trenzinho 」(汽車ぽっぽ)― A Tuma do Balao Magico
    Tuma do Balao Magicoは、1980年代、ブラジルのテレビ番組で活躍した、リオデジャネイロを拠点にする人気の少年少女グループ(男子4名、女子1名)です。You Tubeをひらくと、可愛い幼い子どもの声で歌と映像が出てきます。
    “赤ちゃんは、幸せそうに眠り、夢を見る。
    汽笛が聞こえる。シュッシュ、ポッポ、シュッシュ、ポッポ。
    目を覚ました朝には、幸せの笑みがある。”映像では、豪華な優等列車も登場しますが、すやすやと眠る赤ちゃんの姿、お母さんの胸元で眠る赤ちゃんの姿があります。
  3. 「 O Trenzinho 」(汽車ぽっぽ)― Roupa Nova
     You Tubeでは、リズミカルなメロディにのって、子どもたちが登場するアニメで始まります。
    “ボー、ボー、シュッシュ、シュッシュ。
    汽車は、精一杯走り、多くの人々を乗せ、そして降ろしていく。
    そこには、感動に満ちた出会いがあり、また、悲しい別れもある、涙を流す恋人たち。”
    “ボー、ボー、シュッシュ、シュッシュ、チッキ、チッキ、チッキ、チッキ。”客車の窓からは、子どもたちの笑いと手の振り、そして、何故か楽団を乗せた客車が最後に連結されています。汽車の旅を楽しんでいる様子が伝わります。
  4. 「 La Vem o Trem 」(汽車がやってくる)― Cristina Mel
    ポップ曲のシンガーソングライター、Cristina Melお姉さんが機関士役となり、9人の子どもたちを引き連れて、床の上に描かれた線路の上を歌いながら進みます。子どもたちは、左手を前の子の肩にかけ、右手は頭上にあげたり、前後に動かしてシュッシュ・ポッポと、お姉さんの後に付いて行きます。
    “あそこを汽車が行く、愛情を一杯積んで、ピウピウ。
    汽笛を鳴らす、蒸気を拡散させながら、ピウピウ。
    機関士さん、お願い、もっと昇って。僕は行きたい、空の中へ。”Cristina お姉さんと9人の子どもたちの映像は、私たちが子どもの頃に唄った童謡「電車ごっこ」を思い出させます。“運転手は僕だ、車掌は君だ。あとの4人は電車のお客。お乗りはお早く、動きます。チーン、チン。”
  5. 「 Trem Das Estacoes(part. Milton Nascimento)」(美しい四季を通り抜ける汽車)- Mundo Bita
    You-Tubeのアニメ映像では、美しい四季の情景の中を走る客車4両を牽いた汽車が出てきます。
    “春になると、ミツバチが全ての花を咲かせる。うっとりさせる庭、緑の果樹園。
    心地よい大気を感じる、春を彩る色鉛筆”
    そして、夏は海で小船にゆられ、秋は紅葉の中を、そして、冬は雪原を走る汽車、が美しいアニメ映像となって表現されています。機関車には老練な機関士と、何故か中年のおばさんが乗っています。子ども達3人はトロッコ客車より景色を眺めるという展開です。繰り広げられる映像はブラジル南部の情景を描いていると思います。子どもたちに美しい四季の変化を知って欲しいという、願いを強く感じる映像であります。
  6. 「 Trem Mineiro 」(鉱山鉄道列車)-  A Turma do Balao Magico
    テレビで人気の子ども達のグループ(A Turma do Balao Magico)の歌に、映像が付いています。映像では、昔、鉱山鉄道が走っていた線路を、小型のSLと無蓋貨車1両、客車1両が実際に走ります。子どもたちは喜び一杯で乗っています。途中で停車しては野山を歌いながらハイキングもあります。そして、停車駅では、SLへ給水も行っています。
    “この世の鉄道には心があり、本当の遊びがある。
    それぞれの夢が列車の鐘を鳴らす。ブレム、ブレム。
    生きる喜びを運ぶ、多くの子ども達、多くの友達。
    一緒に行く、列車は魅惑的である、高い警笛の響き、
    全てが美しい、この列車に乗っている時は!“
  7. 「 O Trenzinho do Caipira 」(田舎の小さな汽車)― Heitor Villa Lobos
    ブラジルの生んだ世界的な作曲家、エイトル・ヴィラ・ロボスのブラジル風バッハに収められている曲です。ヴィラ・ロボスは、音楽教育にも携わり、初心者向けの作品や子どもを題材にした作品も多いと言われています。「 O Trenzinho do Caipira」も、その一つです。
    子供向けアニメ映像では、田舎の小さな駅から、可愛らしい客車2両のSLが走り出します。豊かな田園風景、坂を上がり山を越え、トンネルをくぐり抜けて、橋を渡り、小さな田舎の駅に静かに停まります。
    “夢を抱いた少年を乗せて、汽車がやってくる。
    生命が踊る、子どもたちは輪になって踊る、街をさまよい、一日中さまよう。
    運命を持たない汽車がやってくる。新しい未来を見付けて、大地を走る、山地へ、海へ。
    月光に照らされた山地を、シュッ、シュッと。
    星々が消えている中を、走り続けている。ガタコト、ガタコト。”歌詞は、もっと深い意味を持っていることと思います。ベテランの歌手、Edu Lobo がオーケストラをバックに大舞台で歌っている映像もあります。
  8. 「 Maria Fumaca 」(蒸気機関車)- kleiton e kleidir
    舞台での演奏風景は、ギター、ピアノ、打楽器のミュージシャン4人と共にkleiton と kleidirがギターを弾きながら歌っています。そして、別の映像では、白黒の静止画像ですが、大型、小型のSLが次々に出てきます。ディーゼル機関車もあります。そして、何故か、日本のSLが雪国の鉄橋を渡っている映像や東海道新幹線700系電車も登場していました。
    “蒸気機関車がゆっくりと停まった。火夫が炉に火を入れている。
    金曜日までは大丈夫だ。Pedro Osorio駅。
    この列車は、時間内に着かない。私は、婚姻を失う。機関車の炉に石炭を入れる。
    結婚はしない、花嫁を失う。娘は才能に恵まれていて、父親は有名な農場主だ。
    しかし、エゴイストだ。“曲は、リズミカルで元気のいい陽気な歌のように感じますが、歌詞の内容とはどうも調和していないように思います。
  9. 「 Maquinista 」(機関士) ― Palmeira e Luizinho
    ブラジル中西部のセルタネージョ音楽の名コンビ、Palmeira と Luizinho による真面目なSL機関士のお話しです。
    “私は、ソロカバナで電信技士であった。モギアナで火夫になった。
    決してストはやらなかった。私は弱気な人ではない。
    モギアナからサンパウロへ行って、機関士なのでセントラルへ行った。
    急行貨物列車で駅を出た。貨車は15両、火夫は頑張ってボイラー圧力を高めてくれた。
    山脈を超え高原を走った。今日は旅客列車の機関士、ベロホリゾンチからリオまで走った。
    私の保護神は聖ジョージ、命と乗客を守ってくれている。“軽快なリズムのアコーディオンの演奏による二人の歌は8番まであります。真摯に人生に向き合った機関士の一生を歌っています、心に沁み入るところがあります。
    日本では、昔、「僕は特急の機関士で」というコミックソングがありました。“僕は特急の機関士で 可愛い娘が駅毎に いるけど三分停車では キスするヒマさえありません 東京 京都 大阪 ウウウウウウウウ ポポ”。これは、地球の反対側の歌でした。
  10. 「 Trem de Ferro 」(汽車)- Milton Nascimento
    リオで生まれ、ミナスジェライスで育ったミルトン・ナシメントは、ベロホリゾンチとビトリア間の鉄道(ビトリア・ミナス鉄道)を思い出させる曲が幾つかあります。「Minas(Ultimo Trem)」、「Morro Velho」、「Trem Azul」などです。You Tube では、SLが駅を出発して、野山を走り、終着駅で停車するまでの4分間です。
    “パンとコーヒー、煙、火夫、橋、電柱、あひる、雄牛、牛の群れ、サトウキビ畑、可愛い女の子、・・・。”
    と沿線の風景が、SLのドラフトのリズムにあわせて二拍子で歌われています。ビトリア・ミナス鉄道を走る旅客列車に乗っていて感じるであろう、広大な大地を走る車窓風景を表現しているように思います。
  11. 「 Seguindo no Trem Azul 」(青空の下、電車が走っていく)― Roupa Nova
    3分40秒のYou Tubeで、映像と共にメロディが静かに流れていきます。青空の下、電車は、下り勾配が続く高原の中を、一本の線路の上を、ゆるやかに走って行きます。スイスの高原を走っているような素敵な風景であります。実際は、ブラジル南部の風景と思います。
    “お話ししましょう、正直に、印象に残ったことを。
    私は思っているのに、あなたは感じてはいない。
    電車の色彩はあなたの夢見る色彩です。あなたと旅をするのは喜び。
    青空の下、電車は走っていく。“
    と、恋人との心の交流をメロディにのせて歌っている、ロマンチックな歌のように思います。
  12. 「 Olha a Unidos da Ferrovia!」(Vale社の鉄道安全ソング)
    カラジャス鉄道のホームページに出ていました。カラジャス鉄道は、1985年に開通、当初は鉄鉱石輸送専用鉄道でしたが、その後、旅客輸送も始まり、Valeのホームページを見ると豪華旅客列車が走っているようであります。カラジャス鉄道とビトリア・ミナス鉄道を運営するValeが、安全安心の鉄道輸送の誓いを、サンバ調の歌で表明しています。
    “みんな、ここにある鉄道会社を見ましょう。素晴らしい安全性、そして何という美しさ。
    私は、鉄道会社です。安全輸送はお祭り騒ぎのようです。サンバと共に楽しみましょう。“
    なお、ブラジル南部のリオ・グランデ・ド・スル州に、Maria FumacaというSLの旅を扱う旅行会社があり、コマーシャル映像はイタリア民謡「フニクラ・フニクラ」で始まります。客車の中で、そして、停車する駅のホームで、皆さんとっても楽しく歌い、そして踊っています。カンツォーネもあります。日本のカラオケ列車と同じです。
  13. 「 Trem das Onze 」(11時の夜汽車)― Adoniran Barbosa
    サンパウロの市民なら誰でも歌える、親しまれている、アドニラン・バルボーザの有名な歌です。非公式ながらサンパウロ市歌とも称されています。
    “ごめん、愛しい人よ。1分たりとも、あなたと一緒に居れない。
    ジャサナンに住んでいるから、この電車に乗り遅れると、11時に出ると明日の朝になるんだ。母は寝ずに待ってくれているんだ。僕が帰ってくるのを。僕は一人っ子で、家族の面倒を見なくちゃならないんだ。“アドニランは、イタリア系移民が多く住むビシーガ地区に住み、街を愛し、生涯その日暮しのボヘミアン的な生き方を送った、との事です。サンパウロで生まれた5人グループ、アドニランと行動を共にしたDemonios da Garoaによるライブハウスでの演奏映像では、演奏の途中からバンドマスターの合図で、お客さんが全員立ち上り、手拍子の大合唱になっていました。市民に親しまれている様子が良く分かりました。
    尚、「夜が遅くなったので、もう帰ろうじゃないか。」と、飲み会グループが帰り際に「Trem das Onze」を合唱してお開きにする、というお話しもあります。

 

 

このように鉄道に係わる歌を書いてきましたが、まだ調査不足の段階ではあります。

ブラジルでは、第一線から退いた蒸気機関車がとても大事に歌われているように思いました。そして、SLのポッポッポッという煙を排出する「ドラフト音」、シューシューシューという蒸気を排出する「ブラスト音」が、曲の中でリズムとして、とてもよく溶け込んでいるように感じました。

広大な大地を走る鉄道が、おおらかなブラジル文化とともに歩んでいるように思えました。