Yasuko(コロリーダス㈱代表)

 北東部のフォークアートや手工芸のアーティスト達を訪ねてペルナンブーコ州の州都レシーフェから内陸の乾燥地帯、セルタゥンへ続く国道232 号線を旅した。レシーフェから車で2時間程のブラジル最大の野外マーケットが立つ町カルアルは有名だが、その少し手前の人口6万人程のベゼーホス市にブラジルを代表する木版画家ジョゼ・フランシスコ・ボルジス= 愛称 J.Borges(ジョタ・ボルジス)のアトリエ「Memorial J. Borges」がある。
その頃の私は、なんとなく北東部に素朴で素敵な版画があって、その版画家はかなり高齢だという程度の知識しかなく、果たして本人に会えるかどうか疑問だった。が、アトリエを訪ねると、全くの現役のご本人が木版を力強く彫っていた。周りには数名の弟子もせっせと作業中で、家族を含め10 名程度のスタッフが手分けをして版画に色付け、擦る作業をしていてとても活気があった。
ボルジスの版画はこの地方のフォークロアや動植物を題材とし、素朴で馴染みやすい。ペルナンブーコ州の人間文化遺産に指定されている。
1935 年に農家の息子として生まれたボルジスは、8才で父の仕事を手伝い始め、自分で編んだ籠を市場で販売するなどして家計を助けていた。テレビや新聞がない時代で、6 行詩スタイルのコルデル文学を市場で買って繰り返し読むことが大好きになったが、コルデルはヒーロー物やラブストーリー、社会風刺、政治批判などを題材とする小冊子文学で木版画が表紙を飾っていた。学業優秀で小学校は10 ヶ月で繰上卒業、その後木工細工を製作販売したり、肉体労働をしたりしていたが、やがて自分自身でコルデル制作を始め、20才で自作の木版画で表紙を飾ったコルデルを発刊した。独特の版画技量が認知されるようになって木版画の制作依頼が急増、30 代半ばごろから様々な賞を受賞しており、版画家として国内のみならず、世界的にも認められる芸術家となった。
18 人いる子供のうち17 人目のパブロは7才で版画を彫り始め、現在後継者として高齢のボルジスをサポートしている。「父の様になりたい」と子供の頃からの想いがあり、後継者として誇りに思うと語る。
この11 月に駐日ブラジル大使館で「ブラジル北東部の木版画展」の開催が決定し、パブロが来日してくれる事になった。
木版画という北東部の素朴で伝統的なアートが若手後継者によって受け継がれ、世界中で愛されていく事に熱い想いが込みあげる。