日本ブラジル中央協会 常務理事 岩尾 陽 氏

かねてより前立腺癌で療養中だったネルソン・サルジェントが2021年にコロナウイルスにより齢96にして天国に召されました。
彼の死を悼む日本の関係者の尽力で、その追悼式が2023年1月14日、横浜にある野毛シャーレで執り行われましので、当協会の岸和田常務理事と参列しました。

リオデジャネイロを代表するサンバチームであるマンゲイラにおいて、特に作曲家及び歌手として多大な貢献をしたネルソンの追悼という事で、グリーンと赤い薔薇色がシンボルカラーであったマンゲイラに因み、会場入口で赤い薔薇を手渡されました。

ステージの左側には大きなネルソンの肖像画が飾られ、その前に献花台が。 参加者はそれぞれの思いを込めて不世出のサンバ界のレジェンド、メストリ・ネルソンに哀悼の薔薇を供えました。追悼式の第一部は、そのネルソンが2019年に、当日の追悼式と同じ会場、野毛シャーレで行ったコンサート映像の上映。
第二部では、そのコンサートでも伴奏を担当した5人のミュージシャンからなるGrupo Cadênciaと、リオ在住の日本人女性歌手MAKOさんによる追悼ライブでした。

まずは、2019年のネルソンの映像を観て、正直大変に驚きました。 当時すでに94か95歳。遠いブラジルから日本に来るだけでも老体には大変だったとおもいます。
そして、ステージにスタッフの押す車椅子で現れたネルソン。 普通に歩くのも困難なネルソンが、いったん歌い始めると

ハリのある力強い声で、90分近く沢山の曲をずっと歌いっぱなし。しかも一度も歌詞を間違ったり音を外したりすることなくそして一見奔放に歌っているようで、実はバックの伴奏メンバーと完全に息の合った、計算しつくされたような抜群のテンポ感覚と音程のコントロールに脱帽でした。
あの年齢で90分間、聴衆に感動と興奮を与え続けられる彼のようなアーチストは日本には、いや世界的にも殆ど存在しないでしょう。これは驚異的と言っても過言ではありませんぞ。さらに彼の歌と同様、追悼イベントの成功に貢献したのは、ホントにネルソンと、その歌、つまりはサンバが大好きな日本の熱狂的ファンの力でもあったと感じました。 大観衆ではなかったけれど、地球の反対側の日本でネルソンの音楽やサンバが今も熱狂的に支持されている事を知って、今回のイベントへのビデオメッセージを寄せた彼の息子夫婦も感激しておりました。

MAKOさんに就いては、日系ブラジル人だと思ったほど、ブラジルに同化している印象で、ビブラートの綺麗な美しい歌声と素晴らしいポルトガル語に関心しました。こんな女性がいたんだ!とびっくりです。 GRUPO CADENCIAのメンバーも正式な音楽教育をしっかり受けたと思しき素晴らしい演奏を聴かせてくれました。 とにかくサンバが大好きで、ガムシャラに演奏する素人っぽいグループ(それはそれで好ましくもありますが)も多い中、このバンドは正しい音楽理論の上に実績ををみっちり積み上げた、まさにプロのアーチスト集団と聴きました。 MAKOさんが言った通り、しばし横浜を忘れて、リオのマンゲイラチームの練習場へ空間移動したような体験でした。
とても質の高い音楽と映像を楽しんだ余韻を身体に溜めたま家路に就きました。

以下の関係者の皆様(敬称略)大変お疲れさまでした。そしてmuuuuuito obrigado!Grupo Cadência

(◎尾花毅 8弦ギター ◎ ダリオ・サクモト カヴァキーニョ、 ◎土井徳浩 クラリネット・フルート◎和田充弘 トロンボーン ◎宮澤摩周 パーカッション)

ヴォーカル:MAKO
司会: 中原仁

Banda Da Saúde