佐藤宗一(協会理事)
トレードという町の名前からは、世界遺産に登録されているスペインの古都トレードを思い浮かべるが、ブラジルのパラナ州西部にもトレードという名前の町がある。パラナ州の州都クリチバに駐在していた 2008年前後、何度か同市に出張した。トレードはクリチバの西方約 540㎞に位置し、クリチバから車で約7時間かかる。出張目的は、同市の日系人団体を訪問し、親睦を図るととともに、日系社会の状況を把握すること。因みにパラナ州は、サンパウロ州に次いで日系人の多い州であり、州内の多くの町に日系人団体が存在する。
トレードは比較的新しい町である。「イグアスの滝」があるフォス・ド・イグアス市から分離し、トレード市が創設されたのは 1956 年。同地への入植が始まったのは 1946 年で、最初の入植者はリオグランデ・ド・スル州の農民とされる。
人口は約 15 万人。土地は肥沃且つ平坦、穀物栽培が盛んであり、パラナ州では有数の穀物生産地である。このため農牧業分野の企業が集積しており、農業ビジネスが市の主要経済になっている。また、同地を流れるサンフランシスコ川には滝や急流など風光明媚なところが多く、将来の観光開発が有望視されている。主要観光スポットの一つは 1988 年 オ ー プ ン の DivaPaim Barth エコロジー・パークだ。園内には、森や湖、水族館、動植物園、ウォーキングコースなどがあり、市民の憩いの場になっている。
市の最大のお祭りは Festado Porco no Rolete。豚の回転丸焼きフェスタとでも言えるだろうか。串刺しにした豚を回転させながら丸焼きにし、その肉を賞味するという食のフェスタだ。この祭りには毎年何万人もの人が訪れる。
トレードには「トレード日伯協会」という日系人団体が存在する。日本人が住み始めたのは 1958 年だが、日系住民の数は僅かであり、2008 年当時、100 家族に満たないと推定されていた。数は少ないが、日本文化継承に務めるなど、良き市民として存在感を示してきたところ、市は 2008 年の日本人ブラジル移住 100 周年を記念し、「日本広場」を建設した。道路のロータリーの中に建設された小さな広場だが、池と太鼓橋が設けられ、池には金閣寺の模型が設置され、鯉が放たれた。2009 年7月、夕闇迫る中で行われた落成式の感動的な情景は今でも目に浮かぶ。日本広場は照明に照らされ暗闇にくっきりと浮かび上がり、その中で市長が述べた祝辞の一節が「日本人及びその子孫は市の発展に多大な貢献をした」。