会報『ブラジル特報』 2011年9月号掲載
日系企業シリーズ第14回




                                     加藤 彰彦(Shimadzu do Brasil Comercio Ltda.社長)



 島津製作所は1875年の創業以来、日本発のX線写真撮影、医療用X線装置の製造、国産初のガスクロマトグラフの開発など、常に新しい科学技術の研究、開発、事業化に力を注いでまいりました。現在は、分析計測機器、医用画像診断機器、航空/産業機器を主力にグローバルに販売を展開しております。
 島津製作所は既に1960年代にはブラジルを含む南米諸国において、その代理店網を通じて分析計測機器、医用画像診断機器を販売しておりましたが、最初の自社拠点の設立は80年のラテンアメリカ事務所(在ブエノスアイレス)でした。それは南米における代理店等のビジネスパートナーをより効果的にサポートすることを目的としたものでした。その後、マーケティングや技術支援の機能拡大を企図してブラジルに事務所を移したのは88年のことです。さらに10年を経て、98年、駐在員事務所を独立採算の販売会社Shimadzu do Brasil Comercio Ltda.に改組し、事務所をパウリスタ通りからサンパウロ郊外の商工業地域へ移転、同年に医用画像診断機器の自社による販売およびサービスを開始しました。さらに2000年には分析計測機器の一部もラインに加え、以後現在まで顧客とダイレクトにつながる体制の拡充に、このブラジルで継続的に取り組んでおります。


 私事で恐縮ですが、Shimadzu do Brasil Comercio Ltda.が設立された1998年は私の一回目のブラジル駐在がスタートした年でもあります。当時は分析計測機器部門の責任者として働いておりましたが、設立当初はわずか5名の小所帯でブラジルだけでなく南米各国のお客様および代理店の支援に追われておりました。2004年に日本に帰国し5年半のブランクを経て幸運にもブラジルに戻ることができましたが、今では分析計測部門だけで31名、全社では92名を数えるまでの会社に成長させていただいております。
 精密機器を多品種少量生産している関係上、未だブラジルでの製造には取り組んでおりませんが、販売後の技術サポートが要となる製品を長年にわたり大過なく取り扱っており、生産に踏み出せるだけの技術的な素地は整ってきております。今後のブラジルの持続的な発展が確信できる今、現地での製造についても視野に入れていきたいと考えているところです。



サンパウロ市近郊にある島津製作所ブラジル事務所

 さて、このような現地での取組みの一方、島津製作所はブラジルと少し特殊なご縁を結ばせていただいています。1976年、当時のブラジル大統領ガイゼル氏が訪日された際に、島津製作所の社長であった上西亮二氏とガイゼル大統領の面談が実現いたしました。この面談がきっかけで、上西氏は在京都ブラジル名誉領事を拝命することになりました。日本の高度な科学技術をブラジルに積極的に導入したいとガイゼル大統領が強く望んでおられ、その橋渡し役を期待されてのことと聞き及んでおります。その時から、島津製作所は事業の枠を超えてブラジルとの技術交流や人的交流にも力を入れてまいりました。名誉領事の職は、上西氏から藤原菊男氏(現島津製作所相談役)に引き継がれ、現在も在京都ブラジル名誉領事館は当社京都本社内に設置されており、引き続き日本とブラジルの友好関係の発展に寄与すべく努めております。


 このように通常の事業を超えたところにもブラジルと当社の結び付きがあります。名誉領事を拝命した頃の理念を大切に、今後も最新の科学技術を体現した当社製品の導入/普及を通じて、ブラジルの科学技術の発展に寄与していくことが、ブラジルにおける島津製作所の、また現地販売会社としての弊社の最大の務めであると考えております。