会報『ブラジル特報』 2011年11月号掲載
エッセイ

                     佐倉 輝彦(元CIATE 国外就労者情報援護センター専務理事・協会会員)



 筆者は2007年と日本ブラジル移住100周年の2008年の2年間、ブラジル日系人のための支援団体であるCIATEというNPOで勤務していました。ここではデカセギで日本に行く、そして後に帰国した日系人のために就労支援・各種相談・日本語教授等いろいろな業務を行っていました。
 筆者が滞在中に体験した、皆さんに是非ご紹介したいことをお話します。

 それはブラジルでの福祉の一端に関わることですが、社会に浸透しているいわゆる“弱者への配慮と支援”ということです。ブラジルでは大都市を中心に、電車やバス等の公共交通機関では優先席が、そして市役所・税務署・郵便局・登記所などの公的機関を始め、銀行・病院・スーパーなどにも必ず身障者・お年寄り・妊婦・赤ん坊を抱えた母親等への“優先コーナー”が設けられています。
 毎日の生活でよく利用されているこれらの施設は、どこも常に多くの人々で混んでおり、かなりの時間待たされます。
 しかし、どこでも優先コーナーがありますので、前述のような弱者の立場の人たちはそこに行けば、あまり待つことなく用が足せます。これは大変便利で有難いことで、筆者も家内もスーパー・銀行・郵便局などで何度も利用させてもらい助かりました。

この制度は第34代フェルナンド・エンリケ・カルドーゾ大統領時代の2000年に制定され(連邦官報記載2000年11月9日に発効)、各州で実施されています。2003年10月からは「高齢者規定」が発効しました。規定に違反すると、公的機関の責任者または公務員は、警告、職務停止や解雇、もしくは罰金などの処罰の対象となります。

 次に弱者に対する他の優遇措置や思いやりの精神についても見てみましょう。筆者の通勤は毎日地下鉄でしたが、この乗車券が65歳以上のお年寄りに対し現地の市民はもちろん、何と私達外国人に対しても無料でした(バスの場合も同じ)。従って滞在中の通勤費はゼロでした。そして車内にはもちろん、必ず優先席が設置されています。
 この制度も法律で規定されており公益企業の場合、不適合な車両に対しては罰金が科せられます。なお外国人も含め高齢者に対しては、美術館・博物館・水族館・動植物園・宗教的施設などで、ほとんどが無料です。
 ここで交通機関の車中で感心したこと。それは弱者が乗ってきた時、必ず誰かがすっと立ち上がり席を譲ってくれることです。それは男女、年齢、皮膚の色を問わず、(失礼ながら)みすぼらしい身なりの人も含め、ごく普通の人たちでした。筆者夫婦も何度も席を譲られました。もちろん車内には優先席がありますが、そこは弱者のために常に空けてありました。この様な光景は、日本とは大違いです。大いに見習いたいものです。
 上記のようなブラジルの弱者のための優先コーナーや外国人も含めた高齢者への無料交通機関の制度は、他国では殆ど聞いたことがありません。
 この“弱者のための優先コーナー”の設置は、特に費用がかかるものではありません。やろうと思えば、実施は難しいことではないでしょう。政府や行政機関はこの様な制度を高齢化社会の日本にも今後、是非検討して取り入れてくれるよう提案したいと思います。


ブラジルの人々(サンパウロ パウリスタ大通り -筆者撮影