本年、8月9日、10日の両日、ブラジル・サルバドール市のバイーア州工業連盟において、第14回日本ブラジル経済合同委員会が開催され、日本側共同議長として参加致しました。日本ブラジル経済合同委員会は、経団連とブラジル全国工業連盟(CNI)が主催する民間の会合で、日本ブラジル両国間の経済交流の促進を目的に1973年に発足しました。
今次会合は、昨年5月東京で開催された第13回合同委員会から一年余りでの開催となりましたが、この間、ブラジルでは国民から高い支持を得ていたルーラ前大統領の政策を継承するジルマ・ルセーフ新政権が本年一月に発足し、これまで築き上げられてきた日本ブラジル経済関係を踏まえ、成長著しいブラジルとの戦略的な新たな経済関係の構築に向けて話し合う絶好の機会となりました。また、開催地がブラジルの中でも成長の核となっているブラジル東北部の中心都市サルバドール市であったため、日本からの参加者はブラジルの活気、力強い発展を肌で感じることが出来たと思います。 当日は日本側から120名を超える過去最高の参加者が集まり、ブラジル側もCNIのブラガ会長、マスカレーニャス・ブラジル日本経済委員長のほか、国立社会経済開発銀行(BNDES)総裁、ペトロブラスやヴァーレの社長などブラジルを代表する企業のトップが参加しました。また、ピメンテル開発商工大臣が大統領の名代として出席するなど両国官民の合同会議への関心の高さが示されました。 6つの専門セッションでは、天然資源・エネルギー、インフラ、環境技術と再生可能エネルギー、イノベーションと先端技術、農林業、金融・観光の各分野における両国協力の可能性について、踏み込んだ意見交換を行いました。 本稿では合同委員会の模様を紹介し、両国の戦略的経済関係の再構築について展望したいと思います。
日本ブラジル関係の現状と展望
開会セッションでは、双方の代表団を歓迎してブラガCNI会長とワグネル・バイーア州知事による挨拶がありました。ワグネル州知事からは、バイーア州にはカマサリ工業団地、製油所、風力発電等があるほか、サッカー・ワールドカップのスタジアムも建設中であることに触れ、日本のブラジル東北部への投資を期待している旨、表明がありました。続いて両国の委員長が日本ブラジル経済関係の強化に向けた経済界の意気込みを訴えました。 来賓の三輪駐ブラジル日本大使からは、松本外務大臣(当時)のメッセージが代読されました。また、ルセーフ大統領の名代としてご臨席頂いたピメンテル開発商工大臣は、現下の世界経済の先行きや日本ブラジル双方が共通して抱えている通貨高の問題に言及したうえで、今後、両国官民が一体となって産業競争力を高め、協力していくことの重要性について述べられ、特にブラジルが必要としている科学技術への日本からの協力を期待していると発言されました。 BNDESのコウチーニョ総裁はブラジル経済について基調講演を行い、石油化学、紙パルプ、建設、インフラへの投資の拡大基調に触れたうえで、今後は電機・電子、重工業、鉄道、自動車などの分野で産業競争力を強化するため、日本の技術協力や投資に期待していることを表明し、2014年のサッカー・ワールドカップや2016年のオリンピックに向けた都市交通等のインフラ整備での日本の協力についても期待を示しました。また、さらなるアジアの成長を見据えて、ブラジルとしては日本をアジア進出のプラットフォームとしたいとの考えを述べられました。 日本側からは東日本大震災の影響と現在の復旧状況および貿易、投資等の対外関係の継続的推進についての方針を説明し、併せて、エネルギー、鉱物・農業資源が豊富なブラジルの重要性がますます高まるとの考えを示しました。また、ブラジルでは、税制、労働・雇用、技術移転等に関し、いわゆる「ブラジル・コスト」と呼ばれる負担が進出企業にかかるため、ブラジル品の競争力向上ひいてはブラジルへの投資促進に繋げるためにも、その改善を要望しました。
なお、ブラジルのビジネス・投資環境整備を話し合う両国官民対話の枠組みである「日伯貿易投資促進合同委員会」の第5回会合が前日の8月8日に開催されており、その日本側議長を務めた経済産業省の岡田経済産業審議官から、同会議の模様が報告されました。短期商用数次査証の有効期間延長が近いうちに実現する可能性が高いことや、その他ビジネス環境上の課題についても継続して改善に向けた協議を行う旨の説明がありました。
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日本ブラジル経済合同委員会初日全体会合にて(右から二人目が筆者 |
資源・エネルギー開発、インフラ整備におけるわが国の協力可能性
ブラジルではプレサル大深海油田の発見ならびにその開発技術の確立によって、石油可採埋蔵量は大幅に増加すると期待されています。また、その他のエネルギー・鉱物資源の開発も有望であり、こうした分野におけるブラジル企業とわが国企業や政府系機関の協力は古くから多角的に進められてきました。これらを背景に天然資源・エネルギーのセッションでは、ブラジルを代表する企業であるペトロブラスのガブリエリ総裁、ヴァーレのフェレイラ社長が、長期にわたって投資が必要な資源開発分野において、過去の日本企業の具体的協力内容を説明した上で、今後も日本からの継続した投資に強い期待を表明するとともに、日本の優れた技術力の提供による両国協力関係拡大の可能性について言及しました。日本側からも、ブラジルの鉄鋼原料のみならず、非鉄金属資源開発への更なる参入、エネルギー開発に対する協力の表明がありました。 インフラのセッションでは、ブラジル側からインフラ全般の現状、経済成長促進プログラム(PAC)の説明があり、インフラ未整備が持続的経済成長のボトルネックとなる懸念があるため、特に、都市交通および貨物輸送に関わる鉄道網の整備が必要であるとの説明がありました。インフラ整備が政府による投資に大きく依存している現状に鑑み、PPPスキームによる民間資金の導入を進めるべきとの指摘もありました。また、日本側からは政府、金融機関、民間企業の適切なリスク分担のためのフレームワーク策定、両国政府による制度金融面での支援、案件形成段階からの日本とブラジル民間企業の協力推進の必要性が提起されました。
両国経済関係の再活性化に向けた協力の拡大 両国の経済補完関係を強化するためには、持続可能な発展に向けた協力体制の構築や先端技術産業における技術協力、さらには金融・物流インフラの整備や人的交流の活性化が不可欠であり、これらのテーマについても自由闊達に意見交換が行われました。 環境技術と再生可能エネルギーのセッションでは、バイオマス発電、風力発電、太陽光発電、省エネ技術の活用やエネルギー高効率化による地球環境負荷の低減等について意見交換を行い、環境技術の革新を日本ブラジル両国の技術協力によって推進し、持続可能な発展を実現すべきとの認識を参加者間で共有しました。また、サトウキビを原料とするバイオマス・エタノール生産の世界最大手であるETH社からは、荒れ地の農地転用により、環境改善を図りながら生産を拡大することが可能との説明がありました。 イノベーションと先端技術のセッションでは、資源・地球環境問題の解決に資するグリーンイノベーションや高い安全・快適性を実現する日本の新幹線技術、高強度・軽量・耐蝕性の炭素繊維素材の活用、中小型航空機の世界大手であるEmbraer社からは航空機産業におけるイノベーション例等について紹介がありました。 農林業セッションでは、日本側からブラジルにおける農林業のさらなる発展のため、鉄道輸送網の整備等インフラ面の整備が不可欠であることを指摘しました。双方からセニブラ設立やセラード開発のような日本ブラジル協力プロジェクトをモデルに、ブラジル国内のみならず、アフリカなどの第三国においても両国関係の再活性化に向けて新しい協力を模索すべきとの意見が出されました。 また、今次会合では新テーマを設け、金融、観光面についても意見交換を行いました。モノ・カネの流れの円滑化にはヒトの交流と金融インフラ整備が不可欠であることを確認し、観光分野では両国交流を深めるため、日本の航空会社による直行便の復活について期待が表明されました。
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二日目会議終了後、ブラジル側委員長と握手する筆者 |
両国関係の戦略的経済関係の再構築
今次会合を通して、ブラジル側から産業発展ならびに産業競争力向上のための、わが国の協力に対する強い期待を実感しました。また、日本側にとってもブラジルが様々な分野で有する潜在力を再発見する場となりました。さらに、ブラジルがビジネスをアジアで展開するうえで、日本はプラットフォームの役割を提供できるとの見方も示されました。 これらの例をあげるまでもなく、両国は経済的に強い補完関係にあり、双方が持続的な成長を遂げるためには、長期的なパートナーシップのもと、両国の有する資源を戦略的に結び付ける必要があります。ブラジルでは150万人にのぼる日系人の方々が様々な分野で活躍され、ブラジル社会に於いて高い評価を受けています。また、日本は1950年代から70年代にかけてブラジルが進めたナショナルプロジェクトにおいて技術移転や人材育成を通じ強い信頼関係を構築しました。今こそ、日系人コミュニティという貴重な人的資源並びに過去築き上げてきた信頼関係を活用し新たな戦略的アライアンスを構築していくことが重要と考えます。 合同会議の結びの挨拶でも触れさせていただきましたが、今次会合を契機に具体的な日本ブラジル企業間協力が結実することを期待しています。
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