つある。
欧米系外資の対ブラジル戦略と日系企業の動き
1.欧米系外資は「レアル・プラン」で、それまでの慢性高インフレが収まり経済が安定化した1996年頃から第3次ブラジル進出・投資ブームを開始、前回のブーム(1950年代、60年代後半~70年代)に比べ、極めて大型の直接投資を行い始めた。彼らの戦略は21世紀に大きく成長するブラジルに、グループの収益の新しい柱を構築しようというものだった。その結果ここ数年世界に展開するグループの拠点の中でブラジルが1~4位を占める企業が次々に出てき始めた。中にはフィアット(自動車、イタリア)のように、ブラジルがトリノの本社を抜いてトップのところも出てきている。彼らは徹底した事前調査を行い思い切った大型投資で、ごく短期間で事業を黒字化し軌道にのせている。経営のトップにはブラジル人の優秀なエクゼクテイブ(社長、副社長クラス)を登用、現地に大幅な権限を与えている。最近はブラジルの経営方針や大型投資案件を検討決定するのに、ブラジルのトップが本社へ行く代わりに本社の社長など幹部がブラジルに出向く企業も珍しくない。
2.日本の企業は、従来伝統的に“小さく産んで大きく育てよう”で必要最小限の規模で進出、2~3年様子を見て次を考えようというやりかただ。その間、為替変動で損が出れば、以降ブラジル案件は本社でストップ状態になっていた。最近になって既進出組の追加投資を含めかなり大型の投資も出てきて、ようやく日本勢も動き出した。ブラジルの有力グループと組んで造船や鉄道車両製造などの分野にも日系企業が進出し、今後が注目されている。中には大型買収案件でブラジルの専門家たちから、なぜ市場相場よりあんなに高い金を払ったのかという声があがったケースもあった。昨年会った日本企業の役員は「うちにはいろいろ技術があるが、ブラジルの企業がどれを必要としているのかが解らない」とのことだった。まだまだ日本勢がブラジルビジネスに入り込む余地があると感じた。日系企業の駐在員の皆さんには、これまでも言葉の壁を乗り越えて業界の会合などを通じてブラジル人との交流を強めるようアドバイスしてきた。彼らに頑張ってもらうのが第一だが、本社側にブラジルを理解しサポートしてくれる強力なメンバーが必要だ。やはり本社の社長に、ブラジルを直接見てもらうのが一番だ。もう2~3年前の話になるが、元ブラジルの鉱山動力大臣ウエキ・シゲアキ氏に日本の某中堅企業の社長がブラジル進出について意見を求めたところ、ウエキさんは次のように答えた。「なるべく若い人を社長として寄こしなさい。ブラジルで家庭が持てればなお良いが。そして10年でブラジルを本社より大きくさせなさい」。
結び
1.ブラジルは2011年2.7%、2012年2.0%(予測)と、低成長率のため産業界の競争力を高めようと、ジルマ政権は種々の工業界のコスト軽減と競争力強化のため基準金利の史上最低の7.25%(実質2%)への引き下げやレアル高修正などの一連の措置を打ち出してきており、2012年第4四半期からの景気浮上が期待されている。懸案の構造改革も、税制など小刻みで政府は手をつけ始めた。少しでも所謂「ブラジル・コスト」を軽減しようと真剣に取り組んでいる。米国の2.5倍、韓国の3倍といわれる電力料金も近々引き下げられる。2013~14年に4.5%レベルの成長に戻る準備はできている。何よりもブラジルには国内に巨大な市場があり成長を支えられる。日本勢も今一度ブラジルを見直すことをお勧めしたい。なおブラジル経済・ビジネスの可能性については拙書『2020年のブラジル経済』(2010年日本経済新聞出版社刊)を参照頂きたい。
2.2009年1月からサンパウロで、友人のウエキ・シゲアキ氏と二人で日系企業経営のトップの方々を対象に「日伯経済ビジネスフォーラム」を立ち上げ2~3カ月毎に開催し、ブラジル経済の勉強と高度の情報交換の場にしている。参加者のために会議は日本語で行い、11年12月の私の日本への帰国以降は、フォーラムの名称に私の名を付してウエキさんが続けている。スピーカーとしてパウロ・ヨコタ元中銀理事、アキヒロ・イケダ元大蔵大臣補佐官(以上二人はサンパウロ大学教授)、アンセルモ・ナカタニ元古河電工会長、ジュリオ・オーシロ元ブラジル銀行東京・ニューヨーク支店長、エリアス・アントウネス元ヴァーレ社役員などが協力してくれている。現在参加者は40~50名程度でボランタリー活動だが、大変好評なのでご披露しておきたい。
〔執筆者は、元ブラジル東京銀行会長、元デロイト・トーシュ・トーマツ最高顧問〕