会報『ブラジル特報』 2014年1月号掲載
   Andre Correa do Lago (駐日ブラジル大使)


 
今回、日本ブラジル中央協会の皆様に新年のご挨拶を公式に申し上げる機会に恵まれたことを喜びとします。去る11月7日に天皇陛下に信任状を捧呈し、それ以来、正規の大使としての任務に就いています。
 ブラジルと日本の間には多くの相違点があります。際立った文化の違いによる意外性は相手に対する好奇心をもたらし、惹きつけ合う要因となり、これが両国の交わりの最大の特徴かも知れません。また、両国を結びつける人的な絆の存在を忘れてはなりません。笠戸丸が1908年にサントス港に到着して日本人のブラジル移住が始まり、90年代の初頭に日本政府が入国管理政策を見直してから日系人が日本で就労可能となり、双方の国民は相互往来、相互学習、相互理解の循環を積み重ねて来ました。
両国の人々が異なった特質を呈するにもかかわらず、相互理解を求める機運が盛り上がり、互いに惹き付けられるのが大切であり、この様な傾向は通商、ビジネス、文化交流、科学技術交流等々の分野でもより広範囲に見られます。

我々ブラジル人は楽観性とバイタリティーを旨とする国民ですが、経済発展を目指すにあたっては日本市場の要求の高さ、さらには日本人の勤勉さ、職業意識、教育水準等々の美徳を模範としてきました。最近の10年間において約4,000万人のブラジル国民が中間所得層に引き上げられました。これは国内総生産GDPの成長と並行して国民の社会参加を促し、所得の再配分を促した政府当局の政策運営の賜物といえます。新たに出現した国内の消費市場はより優れた公共サービス、より整ったインフラ、各種のニーズへのより迅速な対応を貪欲に求めています。
 

 ブラジルのこの様な新しい社会情勢は、健全な改善圧力を行政当局に及ぼしています。これに応えて政府側は内外の手段を動員して投資の拡大を推し進めています。2013年11月にミリアン・ベウキオール企画大臣が東京で述べた様に、ブラジルでは経済発展を推進するエンジンの多様化が進展しています。2000年頃には、国内総生産を拡大する手段は輸出に限られていました。05年以降には輸出に加えて国内の大衆消費市場が第二のエンジンとして加わりました。07年~09年には前記の2つのエンジンにインフラ整備投資が加わりました。最後に12年から現在に至っては輸出、国内の大衆消費市場、インフラ整備投資、公共サービスの民間委託の4つのエンジンが経済発展を推進する状況に至りました。

この様なシナリオは日本企業に多くのビジネスチャンスを提供します。ブラジルにとって日本は第6位の貿易相手国(2012年現在で157億ドルの通商規模)であり、海外直接投資FDIに関しても13年1~8月の累積で17億ドルを計上して同じ順位を確保しています。二国間貿易は11年に173億ドルのピークを記録し、海外直接投資FDIに関して同年に日本は75億ドルで第4位を占めました。

「プレサル」の名称で知られる超深海油田の開発、国内の港湾施設・空港施設・道路網・鉄道網を整備近代化するニーズ等々は、日本企業に多くのビジネスチャンスをもたらします。ブラジルの造船業界は近年において復活の兆しを示しており、日本の関連企業がこの様な傾向に注目しています。先日、東京で両国の造船業界の企業が参加する共同事業の契約調印式に日本政府の関係者とともに立ち会いました。ブラジル側からはリオグランデドスル州のEcovix-Engevix社、日本側からは三菱重工業、今治造船、大島造船所、名村造船、三菱商事の5社が参加しました。合意を通じて高い付加価値の石油掘削船を建造し、ブラジル沿岸で発見された油田やガス田の需要に対応することを目指しています。
三菱重工業を主体とするコンソーシアムがEcovix社に出資した今回の案件以外にも、去る6月にはIHIと他の2社から成る日本企業グループがアトランチコ・スール造船(EAS)とパートナーシップを結び、2012年5月には川崎重工業がエスタレイロ・エンセアーダ・ド・パラグアスー社と提携しています。
農業分野においても日本からブラジルに大規模な投資が見られます。去る10月に双日が穀物商社のカンタガロ・ジェネラル・グレインズ(CGG)社と同社の子会社CGGトレーディング社に出資すると発表しました。これを通じて国内の穀物加工業に参入し、さらには日本を含むアジア諸国への輸出によるこの分野での事業拡大を目指しています。双日の出資額は160億円(約1億6,000万ドル)で子会社の40%を取得します。これ等の会社はブラジル側パートナーがサイロと栽培面積拡大用の農地を所有するマラニョン州のポルト・イタキーに投資を予定しています。
三菱商事は2013年6月にブラジルのロス・グロボ・セアグロ社に対する資本参加率を20%から80%に増強しました。大豆を主体とする同社の穀物生産量は年間100万トンに達します。穀物取扱量を20年には500万トンに増強する事を予定しています。11年には三井物産と丸紅が同じくブラジルの農業分野における投資を拡大しました。

何れにせよ、この様な好循環をさらに勢い付けるためには、双方の政府高官の相互訪問を頻繁に推し進める必要性を痛感します。2013年を振り返ると5月には茂木敏光経済産業大臣がブラジルを訪問し、さらには前述の如くミリアン・ベウキオール企画大臣が訪日しました。
大使館ではこの様な方向を目指して鋭意努力します。ジウマ・ルセーフ大統領の訪日に大きな期待が寄せられていたことは承知していますが、残念ながら予定を変更せざるを得ませんでした。しかし、サンクトペテルブルグ市で開催したG-20首脳会議において安倍晋三総理とブラジル大統領が実り多い実務会談を実現し、両国間の良好な関係を確かめ合いました。
同様に、幕を閉じた昨年に両国はリオデジャネイロ市で8月に「日伯戦略的経済パートナーシップ賢人会議」を開催しました。「賢人会議」は両国間の経済関係を深めるにあたっての戦略的な取り組みを提言する機関です。三村明夫氏(新日鐵住金相談役・名誉会長、日本商工会議所会頭)を議長とする日本側の「賢人会議」の活動に立ち会う機会に恵まれました。「賢人会議」の提言書はルセーフ大統領と安倍晋三総理大臣の両首脳に直接手渡されました。
加えて、私の日本着任に先立って9月23~24日にベロオリゾンテ市で第16回日本ブラジル経済合同委員会が開催されました。

駐日ブラジル大使館の指揮を執るに当たって、両国の間に存在する無限ともいえるポテンシャルを開拓する任務に大きな意欲と刺激を感じます。ブラジルと日本は互いにうってつけのパートナーであり、人的な絆と文化的な絆の緊密化、経済的な関係の強化、通商の増加傾向、投資案件の多様化等々によって一層、親しみを増しつつあります。最後に、この様な両国間関係を推し進めるに当たって、日本ブラジル中央協会の皆様が果たして来られた役割の重要さをあらためて特筆して新年の挨拶とさせて頂きます。