会報『ブラジル特報』 2014年5月号掲載
エッセイ

片岡 万枝 <プライスウォーターハウスクーパース()トランザクションサービス シニアマネージャー>


 2011<spanstyle=’font-size:10.5pt;font-family:”MS Pゴシック”;mso-bidi-font-family:”Times New Roman”;mso-ansi-language:EN-US;mso-fareast-language:JA;mso-bidi-language:AR-SA’>年<spanlang=EN-US>9月より、 PwC PricewaterhouseCoopers)のブラジル法人のトランザクションサービス部に2年間所属し、日本企業のブラジルにおける <spanlang=EN-US>M&A 投資やグリーンフィールドでの参入や撤退に関与してきました。恐らく、この2年間日本人としては最も多くのブラジルM&A 案件に関わることできたと自負しております。現在、ブラジルへの参入や、さらなるビジネス拡大、あるいは撤退を考えておられる企業の皆様に少しでもお役に立てるよう、私の経験からご報告させていただきます。

日本企業進出の最近の傾向
ブラジルの名目GDP 201222,543USドル)は、ASEANGDP合計と同じぐらいで、年度によっては、英国を抜く規模となっています。この市場の大きさに対し、日系企業の進出数はまだ、267社 (2012年)、すでに1,000社に達しているインドなど他の新興国と比較しても日系企業のプレゼンスはまだ大きくないといえます。

その最大の要因は、やはり日本とブラジルの距離にあるといえるでしょう。日本で入手できるブラジルの情報は非常に限定的で、またブラジルを訪問したことがないマネジメント層が多いため、報道でGDPの成長が鈍化したとか、アメリカの量的緩和の縮小でブラジルから資金が引き上げられるとか、否定的な情報が日本で流れると、とたんに日本本社の投資マインドは弱含みに切り替わってしまうケースが多く見られます。しかし、ブラジルが南米の中心都市として魅力的な投資マーケットであることは多くが認めるところであり、M&A 投資をサポートする立場からすると、むしろ投資が過熱しているタイミングよりも、若干弱含みの現状の方が、価格交渉がしやすい状況が整っているといえます。目先の一時的な要因に流されず、ブラジル投資の可能性を検討することが肝要です。

日系企業進出が最も増加している自動車産業を見てみると、ブラジルにおける末端マーケットシェアが、日系企業合計でも約10%程度ということが影響し、サプライヤー企業のブラジル進出がなかなか進みにくいという状況にあります。国内調達率必要条件を満たせれば、自動車工業製品税IPIが課されない等の施策がブラジル政府より出され、サプライヤー企業の進出を後押ししていますが、本当に進出して十分に採算がのるのかを悩まれ、投資を躊躇される企業もあります。一方で、他の産業への展開可能性や日本におけるクライアント関係に縛られないビジネスの拡大に可能性を見出し、進出を決定される企業もあります。日本のオート進出企業各社は増産体制にあり、ブラジル市場で本気に戦う態勢を整えつつあり、欧米の上位企業も販売台数を伸ばしているものの、アジア企業からシェアを奪われつつあるのが現状です。日系自動車メーカー各社が市場シェアを増やしていくことが今後サプライヤー企業を含めた日系企業進出の鍵となると思います。

自動車産業以外にも、超深海油田プレサルの発見等にともない、ブラジルでは造船業の国内育成も40年ぶりに始動し、日本の造船各社も進出を決めています。造船業の日系サプライヤー群の進出も今後進んでいくのではないでしょうか?

また、PNAD/IBGEによると、ブラジルでは2009年から15年までに約40百万人の新たな中間所得層が生まれると予測されており、新中間所得層の台頭にともなう消費市場の拡大に注目した日系企業の進出も目立ってきています。

ブラジル人の消費性向は高く、日本にはあるがブラジルにはまだない商品やサービスをうまく展開できれば、ビジネスチャンスの広がりは大きいといえるのではないでしょうか?
商社各社のアグリビジネス分野への直接投資の増加も最近の傾向となっています。

ブラジル投資における留意点

ブラジルの市場は、中国やインドなどの新興国と比較しても、ある程度成熟度のあるマーケットです。そのため、日本における顧客関係やノウハウを持ち込み、そのままビジネスを展開できる企業は、グリーンフィールドでの参入が向いているでしょう。一方ブラジルにおける新たな顧客関係の確立やブラジル特有のノウハウが必要なインダストリーにおいては、M&Aによる参入が効果的な場合が多いと思います。

また、ブラジルにおいて監査を受けていない企業は、往々にして二重帳簿となっている可能性があります。現地企業の買収に際しては、きっちりデューデリジェンスを実施し、リスクの程度を把握し、リスクをミニマイズする対策を立ててから、買収を実行する必要があります。

また、進出にあたっての体制では、ポルトガル語でのコミュニケーションに不自由なマネジメントを現地のレップオフィスに派遣し、現地事情や買収ノウハウに通じた外部機関をまったく用いず、独自の市場調査によって進出を検討される日本企業がときどきあります。これは、日本市場に外国人のみで調べて参入の可否を決めるような非常に危険な行為に等しいと思います。しかし、私の経験から、ブラジルは、現地の専門家の力を借り、スピード感をもって意思決定していくということが必要な市場と考えます。