5月27日、東京において第11回日本ブラジル経済合同委員会を開催した。ルーラ大統領の訪日にあわせて開催した今次会合には、フルラン開発商工大臣が臨席し、日本側から約80名、ブラジル側から約80名が参加した。両国のポテンシャルを反映した新しい世紀にふさわしい関係構築のため、経済的なつながりの再活性化に向けた具体的な方策などについて活発な意見交換を行った。
新しい時代に入った日伯関係
brICs の一角を占めるブラジルは、ルーラ大統領の力強いリーダーシップの下、インフレをコントロールしながら着実な経済成長を遂げている。そのブラジルとの間で日本は、2008年にブラジル移民100周年を迎えるなど強い人的なつながりを有する。現在、ブラジルには約140万人の日系人が居住する一方、約28万人の日系ブラジル人が日本で活躍している。経済に目を転じると、両国は1960年代、70年代に資源開発などのナショナル・プロジェクトを通じて緊密な関係を構築してきたが、80年代にブラジルがハイパーインフレに陥り、多くの日本企業はブラジルでの事業の見直しを余儀なくされた。その後90年代に入ると日本がバブル経済崩壊後の長期不況を経験し、ブラジルとの経済関係は長く低迷することになった。
しかし最近、両国間の貿易、投資に回復の兆しが表れつつある。また、2004年9月の小泉総理のブラジル訪問を一つの契機として、今回のルーラ大統領をはじめ、ブラジル政府の主要閣僚、州知事などの訪日が相次いでいる。次の半世紀を見据え、日本とブラジルの新しいパートナーシップを確立するために、両国の当事者が従前にもまして努力したい時期にきている。
ブラジルの豊富な天然資源を通じた日伯協力
ブラジルは鉄鉱石、ボーキサイト、銅、原油などの天然資源に富むことから、これまでの日本とブラジルの経済関係は、鉄鉱石やアルミニウムを中心とする資源確保やプラント輸出などを柱として発展してきた。例えば、ブラジルの鉄鉱石は、日本の鉄鋼業の発展に大きく貢献する一方で、日本企業はブラジルの鉄鉱石産業をサポートしてきた。しかしながら現在、中国、インドなどが経済発展を遂げる中、資源取引は地球規模で全く新しい時代を迎えており、①鉄鉱石、銅、アルミ、亜鉛、マンガンなどの工業用資源、②原油、LNG、石炭などのエネルギー用資源、③大豆、小麦などの食料用資源などに対する需要が世界的に増加している。このことは合同委員会でも話題となり、日本側から「資源大国ブラジルが長期にわたり安定的に資源供給能力を拡大していくことは、世界経済の持続的成長にとって不可欠であり、そのためにはブラジル国内の産業インフラ、とりわけ鉄道、港湾の能力を一層拡充し、整備することが必要である」との指摘を行った。
その意味で、2004年末に成立したPPP(官民パートナーシップ)法は、ブラジルのインフラ整備を促進するものとして期待される。日本としても資機材の供給、資金や技術面での協力などが可能になる。
ブラジル産品の対日輸出の増加とブラジルのビジネス環境整備
合同委員会においてブラジル側は、自国産品の対日輸出品目を多様化すべく、特に果物などの農産品とエタノールの対日輸出拡大に強い意欲を示した。農産物に対する日本の衛生・検疫制度に関する資料を提示し、それらの規制の克服に必要な方策を指摘した。また、ブラジルからの対日輸出に影響を与える日本の非関税障壁を取り除くために、両国政府がハイレベル対話を開始することに期待を示した。昨年、ブラジル産マンゴーの対日輸出が解禁されたこともあり、さらなる拡大にブラジル側の期待は非常に大きい。
エタノールについて日本側は、経済性、安全性、大気環境への影響、安定供給上の課題を踏まえたうえで円滑な導入を進めるため、輸送用燃料として有効活用する一つの方法として、バイオマス・エタノールから製造した
ETBE をガソリンに混合して利用する可能性について、日本政府が検討を開始したことに言及した。そこで日伯双方は、小泉総理とルーラ大統領の首脳会談において、エタノール等の活用について共同で研究することになったのを受け、その議論の行方を注視することにした。
一方、日本側からは、ブラジルの税制、行政、知的所有権、労働法制、治安、資本市場・為替市場の国際化の後れなどビジネス環境における問題点や、港湾の未整備、複雑な通関制度による荷扱いの遅延、道路・鉄道など内陸輸送インフラの未整備の問題点を指摘し、それらの改善を重ねて要請した。これに対してブラジル側は、ブラジルの経済界がビジネス環境改善のため政府や立法府と引き続き対話を進めることを改めて表明した。
日伯経済連携協定(EPA)の必要性を強調
ブラジルは自由貿易協定(FTA)の締結にも取り組んでいる。2005年2月にブラジル、アルゼンチンなどからなるメルコスールとコロンビアなどがメンバーであるアンデス共同体との間で自由貿易協定が発効したのに続き、メルコスールと
EU との間でも自由貿易協定交渉が行われている。また、米州自由貿易地域(FTAA)の交渉の行方も注視していく必要がある。FTAA やメルコスール・EU
の FTA が先に締結されると、ブラジルにおける日本企業の競争力が相対的に低下し、両国の経済関係にマイナスの影響が出るのではないかと懸念される。ブラジルが
FTA 網を着々と整備することで、日本企業が経済的な打撃を被ることにもなりかねず、そうした事態は避けなければならない。一方、ブラジルも、日本が最近、メキシコやアジア諸国との間で
EPA を締結したり、あるいは締結に向け交渉中であることを注視しており、日本の貿易、投資の流れが EPA を締結した国々に向かってしまうことに危機感を抱いている。このような背景から合同委員会では、両国間の貿易、投資を一層拡大するため、日伯
EPA を視野に入れ、その役割と影響につき、双方においてさらに検討を継続することになった。加えて、両国関係の再構築と将来の発展のために、両国政府が
EPA に関する産学官の共同研究会を一刻も早く設置することに強い期待を表明した。また、産学官の共同研究会における議論を経て、EPA 締結に向けた政府間交渉が開始され、2008年の日本移民100周年を目途として発効に至るよう、両国政府に働きかけていくこととした。
おわりに
合同委員会では、ブラジル側から、従来の天然資源の開発を軸とした大規模プロジェクトの推進に加えて、各種製造業、ソフトウェア産業など、ブラジルの対日輸出の拡大に資する新たな協力の可能性が紹介された。そこで、ダイナミックに変貌しているブラジルの実状を視察し、新たな投資機会を探るため、日本からの経済ミッションの派遣も検討していくこととなった。今回、小泉総理とルーラ大統領の首脳会談後に発表された共同プログラムにもミッションの派遣が明記されている。(本稿は筆者個人の見解による)
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