会報『ブラジル特報』 2005年
9月号掲載

                            桜井 悌司
(ジェトロ・サンパウロセンター所長)


ブラジル外務省の情報によれば、ブラジルには40ヶ国70の外国会議所が存在する。そのかなりの多くが、サンパウロに所在する。 この中には積極的な会議所活動を展開しているところもあれば、それほどでもない会議所や胡散臭い会議所もある。しかし、この数を見ただけで、サンパウロを中心に、外国企業や外国との取り引きのあるブラジル企業が、いかに活発に経済活動を行っているかが理解できよう。

活性化するブラジル日本商工会議所の活動

現在ブラジルには、6つの日系商工会議所が存在する。サンパウロのブラジル日本商工会議所、リオのリオデジャネイロ日本商工会議所、ベレンのブラジル パラー日系商工会議所、クリチバのパラナ日伯商工会議所、マナウスのアマゾニア日系商工会議所、ポルトアレグレの南伯日系商工会議所である。

過去2年間で、サンパウロのブラジル日本商工会議所の活動も大いに活性化した。現在、業種別の部会が11、委員会が13設置されているが、各部会、各委員会の開催件数は急増しているし、主催・共催するセミナー回数も増加の一途をたどっている。その時々の要請によって、委員会や分科会も設置されるようになっている。 例えば、2003年には、FTA委員会、2004年には GIE委員会(外国人投資家グループで各国商工会議所の集まり)、環境安全対策委員会、2005年には移転価格税制検討委員会、移民100周年記念祭典分科会、日伯EPA共同研究分科会がその例である。

提言能力も増強されており、今年になってから、PIS(社会統合計画)/COFINS(社会保険融資負担)の問題やグアルーリョス空港における入管手続きの改善要望等7件も行っている。 本年3月には会員対象に会議所活動に対する要望事項を聞くためにアンケート調査を行った。その結果を可能な限り活動に反映し、新しい試みを手がけている。財政基盤の整備のための新規会員勧誘作戦や提案箱の設置、会員家族そろってのピクニック等も実施に移している。

主要外国商工会議所の「企業の社会的責任プログラム」に対する取り組み

ブラジルは、ダイナミックな国である。と同時に多くの問題を抱えた国である。貧困、失業、教育、衛生、犯罪、治安、環境等々である。ルーラ政権も、“FOME ZERO” (飢餓撲滅)キャンペーンを大々的に展開している。2994年2月中旬には、サンパウロで飢餓撲滅展という珍しい展示会がルーラ大統領出席のもとに開催された。内外企業、政府系企業がいかに社会的責任を果たしているかを紹介するための展示会である。この一例をみても、政府、企業共に、「企業の社会的責任」を果たし、「良き企業市民」になるために大きな努力を払っていることが理解できる。ブラジルにある外国商工会議所も熱心である。

米国商工会議所は、1919年に設立され、会員数約5,600社、すでに1982年にECO賞(EMPRESA‐COMUNIDADE企業-コミュニティ賞)を創設している。この賞の目的は、ブラジルに在住する企業、財団、団体、研究所の中で社会の福祉向上や国の発展に繋がる活動を行っている組織を称え、表彰することにある。教育、文化、環境、健康、コミュニティ参加の5部門に分かれており、1982年から2003年までに応募企業は、1,372社、応募プロジェクトは1,729件、表彰プロジェクトは123件、応募企業の投資金額は28億ドルとなっている。

ドイツ商工会議所も2000年から、フォン・マルチウス環境賞という表彰制度を開始した。ドイツの植物学者の名前をとったこの賞は、人文、自然、技術の分野に分かれており、世界にエコロジーに対する責任を訴えるためのものである。

フランス商工会議所も2002年にLIF賞(自由、平等、友愛のポルトガル語の頭文字)を設立した。この賞も、教育分野、衛生分野、文化分野、環境分野の4部門でコミュニティに貢献のあった企業を表彰するためのものである。

ブラジルの有力経済誌であるEXAME誌も2000年に、社会的責任活動を実践したブラジル企業を表彰するための制度を開始した。モデル企業部門と部門別社会プロジェクト部門があり、特別賞、教育部門賞、子供・青年支援賞、環境賞、健康賞、文化賞、失業減少貢献賞、身体障害者支援賞、飢餓との戦い賞、暴力減少貢献賞、高年齢者支援賞という11部門にわたっている。2003年には、全体で1,445プロジェクトの応募があった。

ブラジル企業の社会的責任活動の特徴は、下記のとおりである。

①トップの社会的責任に対するビジョン、考え方がしっかりしている。
②従業員のボランテイァ精神が旺盛であり、組織内にとどまらず、サプライヤー、クライアント等第3者にまで広げようとする傾向が強い。
③プログラムの展開に当たっては、外部の組織、連邦・州政府、大学、研究所、国際機関などの協力を得て実施するケースが多い。
④プログラムが、中長期的で、ブラジルの実情にあったケースが多く、かつストーリー性に富むものが多い。
⑤実施したことに対しては、大々的に普及・広報し、多くの人々に知ってもらおうという強い意志が働いている。

日本でも、企業の社会的責任が注目されるようになった。ブラジルに進出している日本企業の中には、各種の寄付行為、コミュニティへの植樹、文化的行事への協力を行っている企業もあるが、総じて十分とはいえないのが現状である。ブラジル日本商工会議所の中に「企業の社会的責任委員会」の設置し、進出日本企業の間でもっと「企業の社会的責任プログラム」に対する認識を強め、具体的行動に移す時期が来ていると考える。

米国商工会議所式会員獲得戦術

いずれの会議所、いずれの団体でもいかに会員数を増やし財政基盤を強化するかは永遠の課題である。具体的に行動に移すとなるといろいろな意見が出されたり、思い切った案を提案すると保守的な役員に反対されたりするのがおちである。

つい最近、米国商工会議所(AMCHAM)のヴァスコンセロス専務理事に面談した。米国会議所ではどのような方法で会員を勧誘しているかを取材し、日本会議所でも何らかのヒントとするためである。
AMCHAMブラジルは、海外にある米国商工会議所の中でも最大の規模を誇る。85年前に設立されたが、1990年頃までは、せいぜい500~600社程度の会員数であった。それが今では、全ブラジルで5,300社、サンパウロで2,300社にまで拡大している。おおまかにいうと会員企業のうち、ブラジル企業は、75%、米国企業が15%、その他の国の企業が10
%となっている。サンパウロ以外に、ベロオリゾンテ、ブラジリア、ゴイアニア、クリチバ、レシフェ、ポルトアレグレ、カンピーナスにも拠点を持っている。 では、どうしてそれほどの会員数を獲得できたのであろうか?

ヴァスコンセロス専務の前任者が、トレイニーを使って勧誘するという方法を考え出したのが成功の鍵であった。今年の例で説明すると、AMCHAMのホームページでトレイニーを募集したところ、学生等6,000名の応募があった。その中で一時選考をして500名くらいに絞り込み、最終80名程度を採用する。採用者には、2週間の研修を行い、AMCHAMの機能と活動、歴史、サービス、会員獲得のための手法等を徹底的に教え込む。期間は6ヶ月で、年2回トレイニ-を募集する。給与は月額400レアル(約18,000円)程度で、学習や授業等を考慮して半日勤務となっている。米国式の面白いところは、たくさんの会員を勧誘してきた学生には、インセンティブを与える方式で、優秀なトレイニーは、月額1,000レアル(約45,000円)を稼ぎ出すという。では、トレイニーにとってどういうメリットがあるのだろうか? 第1に、米国式セールス・プロモーションの方法を実地で習得できること、第2に何らかの所得を稼ぎ出すことができること、第3には会員勧誘により、種々のコネができ、それが縁で就職に結びつくケースが結構あることが挙げられる。

同専務によると、米国や外国企業、ブラジル企業のトップや幹部は、若いトレイニーらと意見交換をすることを結構楽しみにしているところがあり、肩書きにこだわる日本企業とは少し違うとのことであった。

新規会員を勧誘するにあたり必ず聞かれるのが、入会するとどのようなメリットがあるかということであるが、トレイニーには、会員候補企業には、会議所の活動を紹介させるとともに、当該企業のニーズを聞き出し、極力そのニーズに会議所として応えるようにしている。AMCHAM方式は、学ぶべきことが多い。会員減少に悩む数多くの団体は、減少を嘆くばかりで何もしないのが通例である。思い切った方法で、事態を打破する意欲が必要である。