ホス建設 HOSS建設とブラジル建築事情

ブラジル特報 2013年11月号より
大滝 守 (HOSS 建設取締役)

ブラジル清水建設を現地化

 1804年に創設され世界中で知られている清水建設の子会社としてブラジル清水建設は1973年に設立されました。清水建設のブラジルでの業務停止にともない、ブラジル清水建設は2001年12月に現地化し役員、事務所の変更なく「ホス建設」へ社名変更しました。現在、サンパウロ本社、マナウス、スマレ市に支店を持ち、約150人のスタッフと工事作業社員約1,000人が工事作業所に就業しております。

ブラジル各地で各種建築工事を行っていますが、ブラジルの建設工事計画に悩ましいのは許可申請期間が長くスローテンポで進むため、なかなか許認可を受領する時期が予期しにくいことです。これは建設の許可に限らず、どのお役所仕事でも時間がかかり、想定して組み立てした工程表通りに進まない事が多々あるのが現実です。ここで私なりになぜブラジルのお役所仕事がスローテンポであり、申請許可に時間がかかるのか、原因を考えました。建設工事については、市役所管轄以外の許可(州の役所の管轄)が多くあり、許可書類が連動しないと(特に環境関係の許可が出ないと)次の審査が始まらないことや、市役所としても着工許可に手が出ない、といった状況があります。
手続きに関する経路や法律・条例が多く、申請する側が理解することが難しい事もあげられます。

一般的に役所にはサービス精神がありませんので窓口で指導、確認を直接受けることが難しいのです。
最近、役所の汚職を防ぐため役人と申請者が会うことを禁じているところもあります。せっかくひとつの許可書類がでても次に別の新しい書類を出す必要があったりし「どうして一度で教えてくれないのか?」と不満が高まります。ブラジルでは建設工事に関する法例・条例集の入手が難しいのが現状で、役所としてはみせたくない、自分達のみが知っていたい、という意図がある様にすら感じます。
ですから、許可審査は係官の裁量判断に任せるところが多く、係官の気分に左右される指導箇所が多くなります。係官の審査途中にCOMUNIQUE-SEという是正命令書が申請者に来るのですが、工事変更が増えるような変更命令がある場合もあります。そのやりとりにまた時間を要します。

ブラジルの公務員資格についてはまだ理解していないのですが、申請担当者についていえば勤務時間があいまいで効率は悪そうです。係官は副職をもっており役所の勤務は短時間であっても受け付ける書類は山積みです。書類はいろいろな部署を回り、時には書類を紛失する場合があったりと、書類の進捗に目を離せません。市役所が申請許可を出さなければならない期限は法例で定められていないので、時間がかかろうが訴えることができません。
このような悪条件のなか、(設計者でもある)私自身もあの手この手で早く許可書を取得するため役人相手に交渉した経験があります。これから工場建設・進出を考えている企業様は前述のような時間のかかる状況を理解された上で余裕のある日程計画づくりをお勧めします。また、市役所へのヒアリングも話し合い程度で終わり、市役所側が約束事を守らないケースも多く、現実に書類を提出して審査を進める中で確認するとか、文書で約束事にサインをして残す等、ブラジル人特有のリップサービスには惑わされないように対策を講じるのが大切だと思います。

ホス建設建設現場での朝礼風景

工事従業員が 1000 人

 ところで、弊社では常時直雇用で1,000人程の工事作業員(大工、左官、土工)を雇っています。弊社は建築工事がメインで工程・進捗を引っ張ってくれる作業員は正式な社員です。必要な手作業を下請に丸投げする建設業者が多い中、弊社はブラジル創業以来この方式で工事を行っています。作業員の中には勤続20~30年のベテランが多く働いて頂いています。作業員の多くは東北ブラジルからの出稼ぎや移住者で、弊社の仮設宿舎や常設宿舎に単身で長期間住んでいます。私も現場で作業員とともに働いた経験があるのですが、陽気な人たちが大半で、力仕事も厭わず汚い仕事、危険な仕事でも命令されたことは黙々と行います。日本の職人さんだとまず文句、不満がでるのですが、そのようなこともなく、皆が力を合せて監督の言うとおり施工してくれるので、毎度助けてもらいました。

ただ、学校とか職業教育を受けている人は少なく(最近は増えています)、経験で仕事を覚えてきた人が大半です。作業員や職人は勉強したりキャリアアップすることは全般的に苦手です。経験を大事にして勘を頼りに作業に当たっている所は立派でもあるのですが、もっとスピードを上げてキャリアアップして頂けるようにと考えています。

弊社としても故郷に残した家族への仕送りや年に数回の里帰りなどに協力するなど、家族的な運営をやっています。作業員の家族や親族の団結、同じ田舎から出稼ぎに来ているという結束力に助けて頂き、良い雰囲気で作業ができていることを幸いに思います。その表情にはブラジル的なやさしさ、良さも見いだされ、ブラジル人のためにもっと建設を進め国の豊かさに貢献できればと考えています。