4月9日付ブラジル「フォーリャ・デ・サンパウロ」紙は,ブラジル政府が伯ウクライナ宇宙開発協定の破棄を決定したことを報じているところ,概要以下の通り。

 

1.ルセーフ大統領は,関係省庁が作成した報告書を受け,伯ウクライナ宇宙開発協定の破棄を決定した。同協定の破棄は,本年1月,同大統領と関係閣僚(国防,科学技術,外務各大臣及び文官長)の会議で決定されたが,ウクライナ政府には通報されていないので,同協定は未だ効力を有している。

 

2.協定破棄の理由は,伯の財政難により,サイクロン4型衛星打ち上げロケットの非常に高いコストに対応できなくなったことにある。伯ウクライナ両国は,協定の締結(2003年)から約12年間に亘り,商業衛星をサイクロン4型ロケットにより伯のアルカンタラ基地から打ち上げるとの計画に約10億レアルを投資してきたが,未だに打ち上げは行われていない。両国は,2006年に「アルカンタラ・サイクロン・スペース社」を設立し,2010年に打ち上げを行う予定であったが,資金難並びに先住民との間で土地の所有権を巡る争いが発生したため,打ち上げは2015年に延期されたが,今のところ,打ち上げ基地の施設は半分ほどしか完成していない。ウクライナが2014年から内戦状態にあることも,同国に対する不信感を募らせる要因となっている。

 

3.ウクライナとの協定が破棄されれば,対米交渉への道が開けることになる。米国は,アルカンタラ基地の商業利用に強い関心を有している。伯米両国は,2000年に米国が同基地を使用することで合意したが,米国が技術の共有を拒んだため,実現には至らなかった。ルセーフ大統領は,米国情報機関の盗聴事件により冷え込んだ米国との関係を修復しようとしており,同基地の使用が再び俎上に上る可能性がある。また,ロシアは,以前から,伯に対し,ウクライナとの協定を破棄するよう働きかけていたところ,ロシアが伯に衛星打ち上げロケットを提供する可能性がある。

 

4.伯は,純国産ロケット(VLS-1)を開発していたが,2003年のアルカンタラ基地火災事故により,技術者21名を失ったことにより,伯独自の宇宙開発計画は頓挫してしまった。伯の軍部は,未だにVLS-1の打ち上げを望んでいるが,VLS-1は既に旧式となっているため,新世代ロケットの開発が検討されている。

 

5.(フォーリャ・デ・サンパウロ紙の分析記事)専門家は,2003年に協定が締結された段階で,ウクライナとの協力は「バッド・アイデア」であると見ていた。問題は,毒性の強い燃料を使用することと,旧ソ連の弾道ミサイルを近代的な衛星打ち上げロケットに改造するためには巨額の投資を必要とすることにあった。協定の破棄により,伯の宇宙開発は振り出しに戻り,再び,VLS型ロケットに頼らざるを得なくなった。航空宇宙院(IAE)は,VLS型ロケットの改良型であるVLM型ロケット(小型衛星打ち上げ用ロケット)の開発に取り組んでいるが,投資額は微々たるものに過ぎない。アルカンタラ基地を本格的に活用し,利益を得るためには,米国と技術保障協定を締結する必要がある。でなければ,伯が米国製の部品を使用した機器を打ち上げることは不可能である。