投稿者:小林利郎 当会相談役
最近ブラジル経済の不振が話題になっている。中国を中心とする世界の資源需要が減退してきたのが一つの要因である。それはブラジルが依然として一次産品輸出に依存していることを示してもいる。1950-60年代のクビシェッキ大統領の時代から強力に工業化を推進してきたが国内市場が大きいため「輸入代替」の意識が強く、韓国、シンガポール、香港、台湾等アジアの新興国・地域のように「輸出選好」の工業化ではなく、また中国のように豊富安価な労働力を利用した「世界の工場」化でもなかったことが国際化の進展した現在でも災いしているためでもあろうか、とにかくブラジルの工業製品の輸出競争力には望まれる点が少なくない。
ブラジル製品の国際競争力強化のためにはいわゆる「ブラジル・コスト」を克服しなければならないと言われ続けているのは良く知られている。”Custo Brasil”という言葉は1990年代の初めに輸出促進を要請された外国進出企業がFIESP(サンパウロ工業連盟)とともにブラジルの輸出促進のためには何が必要か、何が他国との競争上不利なのか、を検討し、警告を発したところから来ている。
当時FIESPの要請に応えて分析した学者(Prof.Jose Augusto Correa)によれば、1990年代のブラジル・コストは、①物理的インフラと②社会的インフラ、両インフラの不満足・非能率に分類される。①には、運輸部門(港湾、道路、空港、水路、鉄道、沿岸海運、倉庫)、
コミュニケーション、エネルギー〈発送電〉、金融(高金利、諸規制、長期資金不足)
②には、教育、保健、税制、労働規制、諸取引の規制、ブロクラシー〈国、州、市町村、全般の登録、許可、申請事項、仲介業者―デスパシャンテーの介入、等〉、裁判 が列挙されている。私はこれらに「治安コスト」を加えるべきだと思う。
現在90年代とは比較にならない発展を遂げたブラジルで、他国に比較して何が不利か再検討してみる必要があるだろう。場合によっては業種別に分析した方が良いかも知れない。いずれにせよブラジルのもう一段の発展のためには国際競争力阻害の要因を、国、州、市町村で徹底的に除去して行く努力が継続されることを期待したい。
(2015年7月)