会報『ブラジル特報』 2008年
9月号掲載

                                    佐藤 活朗(日伯紙パルプ資源開発(株)常務取締役)


セニブラ社(Celulose Nipo-brasireira S.A. 以下セニブラ)のパルプ工場は、ミナスジェライス州イパチンガに位置し、原木のユーカリは州内の合計25万haにのぼる広大な社有林から供給される。工場・山林関係の直接間接の雇用は数千人におよび、セニブラは地域社会にしっかりと根を下ろすに至っている。

 日伯紙パルプ合弁事業の萌芽は1960年代に遡るが、1973年に日伯紙パルプ資源開発(株)(JBP)が王子製紙をはじめ日本の大手紙パルプメーカーと伊藤忠商事の参加によりスタートし、実現への一歩が踏み出された。同年の閣議了解によってナショナル・プロジェクトとして認定、官民一体で取り組む方針が打ち出され、日本側では当時の海外経済協力基金の出資、日本輸出入銀行・市中各行の融資を得て、ブラジル側はリオドセ(CVRD:現バーレ)をパートナーとして、CVRD 51.48%、JBP 48.52%の出資比率で同年セニブラが発足した。

 工場立地決定・建設が進められ1977年に生産を開始。当初の生産能力は年産25万5千トンで、その後増設を重ね現在では2ライン・116万トンに拡大している。この間、生産技術移転の苦労、ハイパーインフレや債務累積問題などによる困難、増資、パルプ市況の変動などの試練もあった。当初計画にあった大規模な植林事業展開・チップの対日輸入は石油ショックの影響や現地事情から実現せず、セニブラはミナスジェライス州での土地取得と自社によるユーカリ植林・育成をすすめ自立的な原木供給体制を確立した。

 今世紀に入ると、民営化したリオドセが鉱業に特化、パルプ事業撤退の方針を打ち出したことを受け、2001年にJBPがリオドセのシェアを買取り、セニブラはJBPの 100%子会社となり現在に至っている。また、ブラジル経済が成長軌道に復帰し、資源価格も上昇するなどの追い風を背景に、良好な生産基盤を固めたセニブラの経営は好転し、2007年にはブラジルの代表的経済紙Gazeta Mercantilによって同国の有力企業を押さえパルプ業界で最優良経営企業として表彰を受けるまでになった。現在、生産するパルプの約9割を輸出、高品質な製品を世界に供給するとともに、brICsの雄であるブラジルの発展の一翼を担っている。

  
セニブラ本社工場全景

 環境面では厳しい排出基準をクリアし、バイオマスエネルギーの活用により化石燃料代替・コスト減を図っている。原木のユーカリはブラジルの風土に適合し、再生可能(7年毎に伐採更新)で環境持続性が高い。セニブラは2005年に森林管理協議会(FSC) ならびにブラジル森林認証プログラム(CERFLOR) の認証をそれぞれ取得している。また、セニブラは地域企業として住民との関係を重視し、雇用の提供や生活道路の整備だけでなく、地域の学校に対する教材寄付・環境教育の支援や、保有地における農家・養蜂家との協力を進めている。

 日本ブラジル交流年・ブラジル日本人移住100周年にあたりブラジルを訪問された皇太子殿下が、ミナスジェライス州ご訪問の際、両国関係者を前にセニブラ他日系企業の成功の意義に言及されたことは印象的であった。セニブラ・JBPとしては、今後第3ライン増設計画の推進などを通じ、本事業をますます発展させることによって、日本ブラジルパートナーシップの一層の緊密化と地球温暖化防止に貢献したいと考えている。

社有ユーカリ植林地 (写真はいずれもJBP提供)