レアル・プランによってブラジルをハイパー・インフレーションから救い出したフェルナンド・エンリケ・カルドゾ元大統領(任期、1995-2002)の祖先は、ブラジル中西部のゴイアス州
の出身だ。
カルドゾの政治的自伝『政治の技芸』(2006 年)によれば、曽祖父フェリシッシモ・エスピリト・サント・カルドゾは二度にわたって知事(当時は県=プロヴィンシア)を務めたとあるが、正確には帝政末期に三度知事職にあった。
現在のゴイアスの州都は人口140 万人を擁する近代都市ゴイアニアであるが、この都市は内陸部開拓に乗り出したヴァルガス政権の時代、1933 年に創建された。フェリシッシモが知事として執務したのは、そこからほぼ真北に約150キロ離れたゴイアス(通称ゴイアス・ヴェリョ)であった。
繁栄するゴイアニアとは対照的に、ゴイアス・ヴェリョは人口2万人のひなびた田舎町である。町の中心を流れるヴェルメリョ川は、アマゾン川の支流の支流だが、ここ出身の女流詩人コラ・カロリーナ記念館に通じる橋は一跨ぎで渡れる。
こんな奥地の小さな町も、毎年6月には多くの外国人を迎えて賑わう。世界的に有名な環境映像祭が開催されるのだ。また、2001 年には、ユネスコの世界遺産(文化遺産)に認定された。18 世紀前半、ブラジルではゴールドラッシュが起きたが、1720 年代、ここでも金鉱が発見された。最初の発見者は、サンパウロからカンピナスに通じる高速道路の名にもなっているアニャンゲーラであったと言われている。この町が正式な行政単位となるのが1736 年、ゴイアス州がサンパウロから分離独立するのが1748 年であるが、その後、金採掘が急速に衰退し、歴史の中に取り残された。コラ・カロリーナ記念館も18 世紀半ばの建物である。
金鉱発見者たちはバンデイランテとして英雄視されるが、生存を脅かされたシャヴァンテやカヤポーなどの先住民、採掘労働に使役された黒人奴隷の抵抗や反乱の記録も多い。
鈴木 茂(東京外国語大学教授)