7月29日、ブラジル中銀の通貨政策委員会(Copom)は、政策金利(Selic)を0.5%引上げ、14.25%とする旨全会一致で決定したところ、声明文及び関連報道概要以下の通り。
1.声明本文
通貨政策委員会(Copom)は、マクロ経済のシナリオとインフレの見通し、及び現下のリスクバランスを勘案し、全会一致でSelicを0.5%引上げ、14.25%とすることを決定した。
委員会は、2016年末までにインフレ率を目標値に収束させるため、基準金利を上記の水準に十分な期間維持することが必要であると理解している。
2.30日付当地報道振り
(ア)フォーリャ・デ・サンパウロ紙
(1)伯政府が大幅な経済目標(プライマリーバランス黒字目標)の下方修正を発表してから一週間後となる29日、伯中銀は基準金利を0.5%引き上げ、14.25%とした。
(2)Selic引き上げは7会合連続であり、市場でも利上げは想定されていた。また、中銀は2016年末までにインフレ率の目標値への収束を確実にするため、基準金利を(引き上げ後の)新たな水準に十分な期間維持する必要があるとしている。
(3)本年6月までの12ヶ月累計でのインフレ率は8.9%に達したが、アナリストらは本年12月には9.2%に達すると予想しており、目標値の4.5%±2%を大きく上回っている。市場では明年のインフレ率は5.4%と予想されている。
(4)14.25%は最近9年間で最高の水準である。しかし、インフレ率を勘案した実質金利は、ルーラ大統領の政権最終年である2006年時点の8.9%より低く、現在は8%となっている。
(5)利上げ決定は、Copom構成者9名のうち、8名が賛成した。国際関係部門の副総裁である、トニー・ボルポンは、先週の自身の発言が物議を醸しており、Copomへの出席を辞退した。
(6)ヴァロール紙の報道によると、ボルポン副総裁は投資家へのプレゼンテーションにおいて、中銀のインフレ予想が目標値の4.5%に近づくまでは、利下げに投票する可能性を否定したという。アナリストや政治家らは、ボルポン副総裁がCopomにおける自身の投票行動を事前に示唆したものと解釈した。中銀は、ホームページで出席辞退の決定を理解すると述べている。
(7)2週間前から、一部のエコノミストらは、6会合連続で0.5%の利上げとなっていたこと、経済活動は縮小し、明年のインフレ率予想が徐々に改善されている中で、今般の会合では利上げペースを緩めて0.25%の利上げをする可能性があると見ていた。一方、赤字の可能性も視野に入れた、プライマリーバランス黒字目標のGDP比1.1%から0.15%への引き下げは、中銀による更なる金融引き締め予想も強く想起していた。
(8)投資家が政府債務の動向を懸念している中での黒字目標引き下げは、インフレの原因となる、ドル高を誘発した。政府債務への懸念は、今週、格付会社S&P社が近い将来、伯国債の格付けを引き下げる可能性に言及する一因ともなった。
(イ)ヴァロール・エコノミコ紙
(1)Copomは2016年以降のインフレ率シナリオへの「新たなリスク」に反応し、Selicを13.75%から14.25%に引き上げた。決定は全会一致であったが、国際関係担当のトニー・ボルポン副総裁は、「中銀のイメージを損なうことを避けるため」投票を辞退した。Copomのメンバーが投票を辞退するのは初めてのことである。
(2)会議後に発表された声明には、重要な変更点があった。声明には、マクロ経済シナリオとインフレ見通しに加えて、「現下のリスクバランス」を考慮して、(利上げが)決定されたと書かれている。また、中銀は、2016年末までにインフレ率を目標値に収束させるため、新しい金利水準を十分な期間維持する必要があることを理解すると述べており、利上げサイクルの終了を示唆している。
(3)「新たなリスク」に対する慎重な態度の維持は、経済政策担当のルイス・アワズ・ペレイラ副総裁が、先週末2016年にインフレ率を4.5%に持って行くための取組は、中銀の金融政策の展望におけるシナリオを脅かしているリスクと調和の取れたものである必要があると再認識した際に、示唆したものである。アワズ副総裁は、金融政策が現在のリスクバランスを反映し、我々の目的を達成するために適切に調整されることを確実にするために、慎重な態度を取ることは重要であると述べた。
(4)アワズ副総裁は(リスクの内容は)明らかにしなかったが、中銀の4.5%のインフレ目標達成への戦略に対し、明らかなリスクの一つは、先週発表された2015年から2018年までの財政政策の変更である。本年のプライマリーバランス黒字目標はGDP比1.1%から0.15%に引き下げられ、当初GDP比2%目標を2016年に達成するとしていたものが、2018年まで延期された。目標引き下げとともに、ドル高が押し寄せており、過去12年間見られなかった1ドル=3.40レアルを試す展開となった。29日は1ドル=3.3288レアルで取引を終えた。6月のCopom開催時点では、1ドル=3.05レアルであった。中銀が直近で為替相場予想を発表したインフレ報告書では、1ドル=3.10レアルと想定されていた。
(5)利上げは市場の事前予想通りであったが、ボルポン副総裁の会議出席辞退は驚きを与えた。ボルポン副総裁は、29日17時15分の会議開始前に、出席辞退と、(辞退は)個人的な決定で、撤回はしないとするメールをトンビーニ総裁に送付している。
(6)Copomの利上げ決定、及びボルポン副総裁の出席辞退についての声明とともに、28日に開催されたCopom臨時会議の議事録も公表された。臨時会議は、トンビーニ総裁が招集し、20日にボルポン副総裁が「個人的には、(インフレ率が)目標中央値に近づき、我々の計画が満足のいく方向に定まるまでは、利上げ賛成に投票するだろう。」と発言した問題が、公的に(投票行動を)公言したこととなるかどうかについて協議された。
(7)ボルポン副総裁の「個人的には、利上げ賛成に投票するだろう。」との発言は、Copomにおける投票行動を公開あるいは示唆したものと解釈された。発言は、ブラジル人にとってはあまり一般的ではなく、政治的な反響を呼び起こした。ジョゼ・セーハ上院議員(PSDB)は、ボルポン副総裁が自身の投票行動を事前に示唆するという、重大な誤りを犯したため、この問題を上院経済問題委員会と上院本会議で審議すると発言した。28日には、PMDBの上院議員会長であるエウニシオ・オリベイラ氏が、ボルポン副総裁を調査し、副総裁の任を解くべきだと発言した。
(8)ボルポン副総裁は、他のCopomメンバーに対して、自身の「公言」はCopom内部での(利上げの賛成派の)優勢を示したものではなく、だからこそメディアに囲まれた公式のイベントで発言をしたと説明した。また、自身の発言は「投票行動の示唆」ではなく、「インフレ予想ターゲット」という政策運営上の原則を擁護したものであり、インフレ目標の見通しについて述べたものであるとしている。さらに、投票は2日間行われるCopomにおいて、技術的問題について議論をするセッションで提示される将来のインフレ見通しに基づいて行われるものであり、インフレ見通しの提示があるまでは、投票行動を示唆したり、推察することは不可能であると主張している。
(9)臨時会議の議事録においては、(ボルポン副総裁の)明確な説明を受け入れるが、Copomメンバーに対して改めて(Copomメンバーという)立場の性質を繰り返し強調し、発言は慎重に行うことを再認識するよう勧告している。
(10)新たな金融引き締めによって、Selicは2006年8月以来の水準となり、Copomが利上げサイクルを開始した2013年4月時点の7.25%のおよそ2倍となった。Cppomの歴史上、最も急激な利上げサイクルと見ることができる。同時期に、インフレ率を考慮した実質金利は(2013年4月の)2.4%から、8.4%に上昇し、2008年11月以来の高水準となった。