ブラジル世界でもラテン世界でもアラブ世界でも「ダメ元」の世界である。彼らが持つこの「ダメ元」精神に、日本人は大いに悩まされる。日本人は、親切で誠意あふれる国民なので、相手が頼んでくれば、何とかしてお役に立ちたいと考える。一方、彼らは、ほとんどの場合、もう少し気楽である。頼んでやってくれるかどうかわからないが、とにかく頼んでみるといった感じである。日本人から見て公私混同と思われることも多々ある。そういう事情なので、日本人がはっきり断ったとしても彼らは特に恨んだり、気にしたりすることはない。日本人は、断れば、相手が気を悪くして、友情関係などが壊れるかもしれないと考えがちであるが、全く考え過ぎである。私も数多くの経験を通じて、ようやく、「ダメ元」主義が理解できるようになった。そこで、私からも、ラテン人には堂々と「ダメ元」主義でいろいろ頼むことにした。例えば、ラテンアメリカを旅行していて、サッカー・スタジアムなどを見つけると、是非とも中を見学させて欲しいと頼むことにしている。ガードマンの段階でOKになる場合もあるが、その上司に伝えてもらってOKになる場合もある。もちろんダメな場合もあるが、OKになる可能性が日本と比べ結構高いのである。「自分は、日本人で、サッカーの大フアンであり、全世界のサッカー・スタジアムを見学しているので是非とも中を見せて欲しい。」と言って頼み込む。また、わざわざ日本から来たことを強調する。チリでもウルグアイでも有名なスタジアムを見学させてもらった。
ブラジリアに旅行した際も、「ダメ元」でうまくいった例がある。日本大使の歓送パーテイに家内と一緒に出かけた。翌日、時間があったので、ブラジリアの国立劇場に立ち寄った。日本の政府機関ジェトロのサンパウロ事務所の所長であること、テアトロを見学することが大好きであること、世界のテアトロを見学させていただいていること等々を説明すると、広報の責任者がやって来て、館内を案内してくれると言う。こちらは断られても仕方がないと考えていたので、大変うれしかった。隅々まで案内してもらい、ついでに屋上まで案内してくれた。屋上から見たブラジリアの国会議事堂は素晴らしかった。
サンパウロ駐在中にブラジリアに出張する機会が結構あった。相手の政府高官に物事を依頼する場合、私はいつも150%の要求をぶつけることにしていた。仮にうまくいかなかったとしても100%の要求を獲得することができれば、万々歳である。意外に150%とは行かなくても、100%を超える成果を得たケースが結構あった。とりわけ、アポイントの時間にも拘らずずいぶん待たされた場合は、成功率が高かったし、持ち時間も延長してくれた。要人も長らく待たせて申し訳ないと思ったからかもしれない。
執筆者:桜井悌司