3月7日付BBC伯版電子版は、ルーラ前大統領とチャベス前大統領が大衆の絶大な支持を得た背景等に着目して、伯とベネズエラの現下の政治危機に関する比較を行っているところ、概要以下のとおり。
1.伯における与野党間の対立激化に見られる政治的分極は、4日のルーラ前大統領の事情聴取により頂点に達した。同日、親ルーラ派と反ルーラ派の衝突が発生し、同前大統領がコメントを述べた後、BBC伯版のインタビューに対し、ロメロ・ベネズエラ・カトリック大学教授(政治学者)は、ベネズエラほどに伯社会は政治化していないため、伯においては、ベネズエラで頻繁に見られるような、政治の分極化が緊張と暴力をもたらす可能性は低いと指摘した。
2.ベネズエラ社会の本質的な分裂は、故チャベス前大統領の就任により深刻化したと言える。チャベス大統領は、農地改革のために土地の接収を行い、石油資源に対する国家の管理を強化し、メディアと「ボリバル革命」に対する抵抗者を攻撃した。こうしたレトリックは、社会的不平等の解消から恩恵を受ける貧困層を夢中にさせたが、中間層と富裕層に対しては強い攻撃となった。
3.ロメロ教授は、「ルーラ神話」は、チャベス前大統領とは別の基盤の上に成立しているとした上で、それは、社会の異なる階級、グループ間の和解であったと指摘する。但し、同教授は、ルーラ前大統領は伯社会を政治化する手法はとらなかったが、政治家による大量の汚職事件が露呈したことで、社会の政治化を避けることは出来なくなったと述べた。
4.ルーラ前大統領は、4日の連邦警察における事情聴取後、(同事情聴取は、)伯を発展させた労働者党(PT)政権の社会政策を良く思わないエリート層による攻撃であると述べた。この発言に対し、チャベス前大統領の伝記の作者であるベネズエラの作家、アルベルト・ティスカ氏は、政治の分極化を促した同前大統領の演説を思い起こさせると述べつつも、伯は現時点では、実際には確固たるイデオロギーを持たず、いたずらに国を分断したチャベス大統領時代のベネズエラのようにはならないであろうと述べた。
5.但し、ティスカ氏は、ペトロブラス汚職事件の捜査が更に進展し、ルーラ前大統領の逮捕に至った場合、決定的な政治の分極化、デモや抗議行動の暴力化が懸念されると指摘する。
6.伯、ベネズエラとも、資源価格の下落に端を発する不況に見舞われており、失業率は上昇している。伯では、これまでPTの社会プログラムから恩恵を受けてきた層が貧困層に逆戻りする可能性もある。伯及びベネズエラにおいて、国民を政治化することなく生活状況を改善する策は、国民の大多数が納得するような政治力が示されることだが、両国ともその実現は日に日に困難となりつつある。