昨今、ブラジルでは、ペトロブラスによる贈収賄問題が大きな話題になっている。私もサンパウロに駐在して、ブラジル日本商工会議所の仕事を手伝ったり、外国商工会議所の活動を調査している内に、ブラジルの持つ新しい側面をいろいろ発見した。その一つとして、「企業の社会的活動」が大変盛んなことは、正直驚きであった。例えば、ブラジルの有力経済経営誌のEXAME誌は、2000年からブラジル企業の社会的活動に対する表彰制度を設けている。表彰される部門には、当時、特別賞、教育部門賞、子供・青年支援賞、環境賞、健康賞、文化賞、失業減少賞、身体障害者支援賞、飢餓との戦い賞、暴力減少貢献賞、高年齢者支援賞という11部門があった。ブラジルにある外国商工会議所も熱心である。
米国商工会議所は、1919年に設立され、すでに1982年に「ECO賞」(EMPRESA‐COMUNIDADE企業-コミュニテイ賞)を創設している。この賞の目的は、ブラジルに在住する企業、財団、団体、研究所の中で社会の福祉向上や国の発展に繋がる活動を行っている組織を称え、表彰することにある。教育、文化、環境、健康、コミュニテイ参加の5部門に分かれていた。
ドイツ商工会議所は、2000年から、「フォン・マルチウス環境賞」という表彰制度を開始した。ドイツの植物学者の名前をとったこの賞は、人文、自然、技術の分野に分かれており、世界にエコロジーに対する責任を訴えるためのものである。
フランス商工会議所も2002年に「LIF賞」(自由、平等、友愛のポルトガル語の頭文字)を設立した。この賞も、教育分野、衛生分野、文化分野、環境分野の4部門でコミュニテイに貢献のあった企業を表彰するためのものである。
日本商工会議所も遅ればせながら、2004年以降CSR活動について積極的に取り組んでいる。セミナーの開催、会員企業に対する各種CSR関連アンケートの実施、「企業広報・社会的責任分科会」の設置等を行ってきた。
ブラジル企業の社会的責任活動の特徴をあげると下記のとおりになろう。

  1.  国営企業、外国企業、ブラジル企業ともに熱心であるが、ペトロブラス等国営企業が特に熱心である。
  2. トップの社会的責任に対するビジョン、考え方がしっかりしている。
  3.  従業員のボランテイァ精神が旺盛であり、組織内にとどまらず、サプライヤー、クライアント等第3者にまで広げようとする傾向が強い。
  4. プログラムの展開に当たっては、外部の組織、連邦・州政府、大学。研究所、国際機関などの協力を得て実施するケースが多い。
  5. プログラムが、中長期的で、貧困、教育、犯罪等ブラジルの実情にあったケースが多く、かつストーリー性に富むものが多い。例えば、外資系企業が、犯罪の減少に貢献した地域の警察を表彰するといった日本ではとても考えられないケースもあった。
  6. 実施したことに対しては、大々的に普及・広報し、多くの人々に知ってもらおうという強い意志が働いている。

18ブラジル日本商工会議所が入っているビル

日本でも、CSRが注目されている。ブラジルに進出している日本企業の中には、各種の寄付行為、コミュニテイへの植樹、文化的行事への協力を行っている企業もあるが、総じて十分とは言えないのが実情である。
日系企業のCSR活動の特徴は

  1. 寄付とかスポンサーシップと言った形態が多く、そこに企業や従業員の顔が見えてこない。社員その他の人々の身体を動かしたボランテイア活動が少ない
  2. 日系社会に対する寄付行為が大部分、③トップが率先して実行する、奨励するという発想がない
  3. やったことに対するしかるべき広報活動を行わない
  4. 企業の業績によって活動が影響される

等である。CSR活動から、外国商工会議所の活動状況や国営企業、外国企業、ブラジル企業の考え方が見えてくる。

執筆者:桜井悌司