大阪府の枚方市にある関西外国語大学で7年間教鞭をとった後、昨年の7月から、日本展示会協会に勤務している。それ以前に勤務していた日本貿易振興機構(ジェトロ)では、10年間ばかり、見本市・博覧会の業務に従事していた。その間、海外での展示会・博覧会の組
織・参加や国内での外国製品展示会の組織等の仕事を行ってきた。駐在した欧州の見本市大国であるイタリアのミラノでは、年間40本ほどの見本市を見学した。サンパウロ駐在直後に、ブラジルで最大の見本市主催会社であるアウカンタラ・マシャード社の社長のグアルアルディ氏を訪ねた。同氏は、ジェトロが1973年に組織した「サンパウロ日本産業見本市」のことをよく覚えており、当時の写真を見せてくれた。幸運にも、その際、同社が運営するアニェンビー展示場(7万平米)にいつでも入場でき、駐車場も確保できる特別のパスをもらった。その後、サンパウロの第2の展示会場であるセンター・ノルチ展示会場からも同様のパスを入手した。お陰で駐在期間中は、年間約50件の展示会を見ることができた。
せっかくの機会だったので、サンパウロやブラジルの見本市について、2003年末に集中的に取材することにした。取材して驚いたことは次の5点であった。①人口1,200万のサンパウロに3万平米以上の大型展示会場が5つもあったこと。②各展示会の規模が大きいこと、③見本市の性格が欧米同様の商談型であること、④装飾やデイスプレイにお金をかけていること、⑤ブラジル見本市プロモーター連合(UBRAFE)という民間の見本市主催者だけの団体が存在し、活発に活動していることであった。日本の展示会産業よりかなり上を行っているという印象であった。その理由を考えてみると、ブラジルが外国移民から成り立っている国であること、とりわけ、イタリア、ドイツ、フランスのように世界的に有数の見本市・メッセ大国からの移住者が多かったことである。サンパウロ州、パラナ州、リオ・グランデ・ド・スル州、サンタ・カタリーナ州には欧州移民が多数移住しており、工業力にも恵まれていることも見本市の盛んな理由である。
ここで、今のブラジルにおける展示会・見本市産業の動向を見てみよう。前述のUBRAFEのホームページによると、ブラジルには、合計2,200の展示会があり、出展者総数は32,000社で、内外国の出展者は6,000社、ビジター数は750万人と達すると発表している。
ブラジルでは、展示会を開催する場合、開発商工省に報告することになっており、開発商工省商業・サービス総局と外務省貿易・投資促進局が「ブラジル展示会・見本市カレンダー」という資料を1969年以降毎年発行している。2016年版をみると、全体で255の比較的規模の大きな展示会が収録されている。年間10件以上開催される主要な展示会の業種をみると、他業種にまたがっている展示会、39件、アグロビジネス関連、29件、店舗・小売り・フランチャイズ関連、22件、繊維・縫製・アパレル関連、17件、民芸品・アート・コレクション関連、16件、食品・飲料関連、13件、建築・エンジニアリング関連、10件となっている。その他、年間全国で8件開催される業種として、観光関連、ビューテイ・エステチック関連の2業種、7件が木製品・家具、6件が、宝石・宝飾・貴石・貴金属関連、5件が、グラフィックアート・紙製品・書籍・包装関連、情報・IT・通信関連、健康関連、治安・セキュリティ関連、自動車・自動車部品関連の5業種となっている。ブラジルで比較的競争力のある業種はどれかが判断できる。
州別に見ると、255件の内、サンパウロ州が103件(全体の40%)、パラナ州が23件(9%)、リオ・グランデ・ド・スル州及びサンタ・カタリーナ州が21件(8%)、ミナスジェライス州が20件(8%)とこの5州で全体の73%を占める。あとは、ブラジリア連邦地区が11件(4%)、リオ・デ・ジャネイロ州が10件(4%)で残りの州はごく少ない。月別の開催状況をみると、月間30件以上開催される月は、4月(38件)、5月(36件)、8月(34件)、6月(33件)で、夏場の12月から2月までは、クリスマス休暇やカーニバル等で激減する。
次にサンパウロにある展示会場をみると、駐在時代と比較して、さらに規模が拡張されている。以下主要4展示場を紹介する。
展示会場名 | 屋内展示場面積 |
Anhembi展示会場 | 77,447平米 |
Expo Center Norte展示会場 | 76,447平米 |
Sao Paulo Expo展示会場 (旧Imigrante展示会場)フランスのGL Events社が3億レアルを投資し、完成させた新展示会場 | 100,000平米 |
Transamerica | 40,000平米 |
東京近辺の主要展示場としては、東京ビッグサイト(80,660平米)、千葉の幕張メッセ(72,000平米)、神奈川のパシフィコ横浜(20,000平米)の3つしかないことを考えると、サンパウロは偉大な見本市都市だと理解できよう。またサンパウロの見本市は、日本のようにどちらかというとPR型の見本市ではなく、商談重視の見本市であることも知っておく必要がある。
従来、ブラジルでの見本市が日本でそれほど注目されていないが、ブラジルに売り込みを計画している企業は、もっと見本市に着目すべきであろう。
執筆者:桜井悌司